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■二人いる話

 こんにちは。ナノです。
 赤い屋根と可愛いお花畑のある、小さなおうちに住む可愛い奥さんです。
 ここは不思議の国のどこかにある、どこの領土でもない不思議な場所☆
 とっても幸せです!

「ふん、ふふ〜ん♪」

 私はギンガムチェックのエプロンをし、鍋をかき混ぜている。
 愛する旦那様『たち』がもうすぐ帰ってくる。
 二人への愛のシチューを作っているのだ!

「改めてこんにちは。ナノです。色々あって私には素敵な旦那様が二人います☆
 名前は二人ともジョーカーといって、まぎらわしいので『ブラックさん』と『ホワイトさん』と呼んでいます。
 いや『絶対にくっついちゃいけないだろ、そいつらと』とか『仮に二人のEND迎えたとして、
そんなほのぼのオチにはならないだろ』とかいうツッコミは丁重に無視いたします」

 私は愛する二人を思い、笑顔で鍋をかき混ぜ――少し味見。

「うげっ」

 おたまがカランと落ちた。
 あまりの不味さに立ったまま数秒気絶した。
 そしてハッと我に返ると『可愛い奥様』な自分を忘れ、わなわなと鍋を見る。

「やべぇ。近年稀に見る大失敗だわ、これ。
 どうするコレ? 作り直しますか? もうすぐ二人が帰ってくるのに」

 コトコト――いやグツグツと煮立つ『シチューのような何か』を見下ろし。

「……ま、いいか。あの二人、味音痴だし。私が食べる分は別に用意しとこっと」

 速やかに決断を下し、ふんふ〜ん♪と、ご機嫌で料理に戻る。

「ちなみに私はあのお二人について未だによく存じません。
 分かっているのは、彼らがサーカスの団長だの看守だの車掌だのと職を転々としていること。
 でも私には関係ありません。私はお二人が大好きですから!」

「そう? 嬉しいな、ナノ」
「うおわっ!!」

 いきなり後ろから抱きつかれ、心臓が止まるかと思った。

「ほ、ホワイトさん! いつからそこに!?」
 後ろから私をハグするのは、私服姿のホワイトさんである。
 というかハグするフリをして胸を揉んでこないで!!

「さっき♪ お仕事が忙しかったけど、ナノに会いたくて早く帰ってきたんだよ」

 と言って、私を抱き寄せ唇を――。

「おい!!」

 突然、不機嫌そのものの声がした。
 で、私とホワイトさんは割って入った男に引き離される。
 
「今日は俺からだろう? 隙を見せりゃ抜け駆けしやがって」

 ホワイトさんと同じ顔なのに、どこか粗野な印象を与える男の人。

「そう? ごめんよジョーカー」
「おかえりなさい、ブラックさん」
 私は微笑む。

 旦那様が二人いると面倒なもの。
 どちらか一方だけに愛想よくすると、もう一方が焼きもちを焼く。
 なので余計なケンカを避けるため、キスもベッドも交代制である。

 ……どちらか一人と別れるという選択肢は、頑として拒まれております。

 だが表の顔はどうあれ、お二人はまっとうな性欲を持つ殿方。
『隙あらば』は両方に言えることだ。

 例えば。
 一人が家の中にいる間に、もう一人にお庭の隅でこっそりヤラれたこともある。
 一人がほんの短い間不在だったとき、もう一人に立ちバックでヤラれたこともある。

 というか絶対互いの動向を把握してるだろう二人とも。

 交代制という約束にも関わらず『真っ最中』にもう一人が乱入し3Pに至った悪夢は数知れない。
 それと職場に私を連れて行くのはいいんだけど、監獄の中とかサーカスの裏とか
特殊な場所でプレイに及ぶのは勘弁してほしい。特に電車内は色々な意味で重大問題だろ。
 
 …………本当に愛されてるのか? 私。

「おい!」
「はっ!」

 ものっすごい不機嫌に呼びかけられ、我に返る。
「そんなに俺が嫌か? ええ?」
 あ、そうだ。ブラックさんに『おかえりなさい』のキスをせねば。
 どこぞの誰かをホウフツとさせる柄の悪さで、私を片目で威圧するブラックさん。
 そんなこと言って、本当は私に甘えてほしくて仕方ないくせに〜。
 とか思いながらハグしてキスをすると、

「…………おまえ、今絶対に俺を馬鹿にしただろ?」
「は!?――むぎゅ!」

 身体を折る気かという勢いで抱きしめられ、唇を貪られる。

 ――ま、待って待って! ちょっと……!!

 お帰りのキスなのに、何でこんなにディープなの! 酸欠になる!! 息出来ない!
 ホワイトさーん!!

「ははは。お熱いねえ」

 隠れどSな男は、ニコニコと笑顔で、私の酸欠を見守っていたのであった……。

「ちっ。腹が立つ……」
「え!? ちょっと待ってブラックさん。どこにキスをして……ちょっと、何でそこに手を――!」

 …………

 数時間帯後。

「それじゃ、そろそろランチにしましょう」
 ぜえはあと息を吐きながら、私は下着を履いた。
 
「そうだね、運動してお腹が空いちゃったよ」
「だな」
 お二人も上着のボタンをつけ、ベルトをお締めになる。

 ……何があったか聞くな。絶対に聞くな。
 あと床はちゃんと拭いてもらいましたからご安心下さい!!

「それで今日は何を作ってくれたの? ナノ」
 優しい笑顔のホワイトさん。

「はい! おいしいシチューです! お二人に喜んでいただけると嬉しいのですが!」
 私も笑顔でお鍋に向かおうとし、

「へえ……『近年稀に見る大失敗』なのに『おいしい』だって?」
 氷点下のブラックさんの声。

「僕らが『味音痴』だから構わないだろうと出すつもりで、しかも自分だけは普通のものを食べるつもりだったんだよね?」
 腕組みをし、ニコニコニコとホワイトさん。

 私は凍りついた。

「い、いつから……」
 
 悪事がバレた悪役のような声を出し、目を見張る。

「おまえが謎の独り言を言ってるのを窓の外から聞いてたんだよ」
「他にも僕らが職を転々としてるとか、失礼なことも言ってたよね、ナノ」

 やはり笑顔のホワイトさん。
 ……実はホワイトさんの方が怒ってたりして。

「おい、どう『おしおき』をする? 普通のやつならさっきやったしなあ」
 ドスのきいた声で言い、なぜかムチをビシッとしならせるブラックさん。

「……え? ここって……」

 寒気を感じ、キョロキョロして気づいた。
 てか、ブラックさんが監獄の制服になってる! いつの間に!!

 背景も変わっている! 監獄だここ!!
 牢屋の中!
 出口は二人が立ってる側にあるし!!
 逃げ場がない!!

「でも、あの……『この場所』って、こういう”私怨”で行ける設定ではなかったような気がするんですが……」
 手を上げておずおずと主張したのだが。

「私怨? とんでもない。この場所は僕らがルールだしね」
 と、やはり黒の制服姿で、手錠をじゃらりと光らせるホワイトさん。

 いや『ルール』の意味違うでしょ! 公私混同っていうのそれ!!

「それじゃ、悪い子には――」
「たっぷりとおしおきをしないとね」

 じりっと迫り来る二人。私は冷たい壁を背に真っ青になり、

「だーれーかー! たーすーけーてー!!」

 だが。

 私が『おしおき』されている間に聞こえたのは、看守二人のサディスティックな笑い声のみであった。

 あと囚人の人たちの”またやってる”的な気配が屈辱でした……。



 教訓。旦那様が二人いるときは、失敗したシチューを食わせようと企まないこと。
 

 おしまい☆
 


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