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■たかった話・上


※グレイ(クロアリ)×夢主
※前回の続きのような
※相変わらず都合の良い領土設定です(・∀・)

※ 非 R 1 8 ! !





 爬虫類とデートで失敗した。

 ……もとい、私の恋人グレイ=リングマークと、デートで失敗した。
 
 私はナノ。余所者である。不思議の国に来て何やかんやがあって、
クローバーの塔のお母さん……コホン、領主ナイトメアの補佐官、グレイと結ばれた。
 グレイは大人である。ナイトメアの愚行に胃を痛めようが、二十四時間帯
四十八時間帯の長時間帯労働を強いられようが、私には優しい。
 いや私が傷つかない範囲で、ぶつけてこられたりはする。
 主に、というかほぼ全て夜の方面で。

 ……コホン。不健全な話でしたね。失礼。

 ともかく話はさかのぼる。
 そんな多忙なグレイが珍しく休みを取れた。
 塔を上げてのデスマーチが終わった後だ。
 だったら休日のリーマンよろしく、部屋でゴロ寝をしてればいいのに。

「さあ行こう、ナノ!」
 私は、ベッドで顔を隠すように丸くなっていた。
 グレイはすでにビシッと服を着て、いつでも出かけられる態勢だ。
 チラ見したが、疲労をカケラも見せていない。
 ただ、私服が仕事服と同じスーツ、という点で違和感しかないが。
 あるいはいつナイトメアがぶっ倒れて呼び出されてもいいように、という嫌な
配慮だろうか……最悪、私服自体を持ってない可能性。
「いやいやいや」
 誰もいない空間に手を振り、内なる自分にツッコミを入れる。
 グレイは見るからにウキウキし、
「どうした、ナノ。また幻聴と会話か?」
 私のセルフツッコミ癖を、そういうヤバい方向に言い換えないでいただきたい。
 だがグレイが慈愛の表情で頭を撫でてくるので、反論が出来ない。
「さあナノ、起きるんだ。外はいい天気だぞ?」
 そら、この世界はいつでも晴天でしょう。
 私は気だるげにベッドにうずくまる。あー、動きたくない。ゴロゴロ。
 私は出かける気ゼロで、まだベッドにいるのだ。
「……ナノ。具合が悪いのか?」
 グレイが心配そう。
「いえいえいえ! 元気ですよ!!」
 ガバッと起き上がり、目元を必死でゴシゴシこする。
「私、顔を洗ってまいりますゆえ!」
 寝起きの顔を見せないよう、洗面所にバタバタ走る。後ろからは、
「すまない。俺が疲れさせてしまったんだな」
「い、いえ、大丈夫です」
 そう答えるのが精一杯だった。

 なぜなら、さっきの夜の時間帯。
 休み前の夜ということで、テンションが上がったグレイに頑張られてしまったからだ。
 四十八時間帯……三時間帯の仮眠時間を入れれば七十二時間帯のデスマーチが
終わった後である。普通ならぶっ倒れてる。
 というか廊下には死屍累々と部下の人たちが倒れていたが。
 だがグレイ=リングマークは役持ち。
 役持ちの人らはチート並みの能力を持っているのだ。

 真っ暗な部屋で迫られ、私は後じさりしつつ必死に言った。
『グ、グレイ。疲れたでしょ! 寝ていていいですから!』
『四十八時間帯も、君に逢えなかったんだ。どうしても君に触れたい……ダメか?』

 切なげな瞳でそう言われ、断れる女がどこにいようか。

 で、頑張られた。そりゃあ頑張られた。
 どれだけ求められたのか回数の記憶が不明になるくらい。
 最後は疲労と眠気で、こっちは半分寝てたのに、まだ頑張ってきた。
 それについては多少なりとも反省しているのか、グレイはバツが悪そうだ。
「ナノ。本当に大丈夫か? 今、足がふらついていたが、やはり――」
「い、いえ、大丈夫です! 問題ございません!」
 こちらは急いで顔を洗い、ザッとシャワーを浴びて着替えると、慣れないメイクをした。
 う、うーむ。手がぎこちない。まだこういうの、慣れてないのだ。
 うう、こういうときハートの城がまだあったら、ビバルディに聞くんだけどなあ。
 ダイヤのお城は苦手。女王様に凍らされるか、暗黒ウサギに撃たれるんだもの。
 私は目元をしっかり整え、最後に薄いピンクのリップを引く。
 うーむ……上手く化かせるだろうか。
 頬をパンと叩いて完成。
「ど、どうもお待たせを」
 ややうつむきながら出ると、グレイはにっこり笑い、
「可愛いよ、とても」
 頬が赤くなる。
 まあ本当は大人っぽい、みたいなことを言われたかったけど、それは次の課題だ。
「ナノ、リボンが少し曲がっているよ」
 何ですと!? 
 女として、とんだ失態だ。だがグレイは屈んで、きれいに結び直してくれた。
「これでよし……ん? ナノ――」
 グレイが間近の私を見て、一瞬だけ、怪訝(けげん)そうな顔になる。
 だがこちらは不満で、グレイの髪の毛を引っ張りながら抗議する。
「鬼、悪魔、トカゲ、蛇、ヤモリ、ゾウガメ、アリゲーター、クロコダイル!」
 グレイは怒りもせずフッと笑う。
「君は物知りなんだな、ナノ。さあ行こうか」
 恋人なのに未だ、半分子供扱いなのも、どうなんだろう。
 モヤモヤしていると、私をじーっと見下ろしていたグレイが、
「……それとも、やはりベッドがいいか? 俺と昼間からずっと――」
 チラッと部屋の大きなベッドを見る。
 二人して乱れ、今は真新しいシーツに変えたベッド――。
 途端に私はやる気スイッチが入る。
「出かけましょう、グレイ! 可及的速やかに!!」
 身体が保たんわ! 後でナイトメアに、デリカシーのカケラもなく、やいのやいの
言われる拷問も勘弁してほしい。
「いやよく考えると、どちらでも好ましい休暇に思え――」
「今覚醒しました! 出かけたいです! 超出かけたいです、グレイ!」
「分かった。なら行こうか」
 グレイはすぐ首肯し、ドアを開ける。とても嬉しそうに。

 そういうわけで、私たちは出かけたのであった。

 ……眠い。

 …………

 そんなこんなで、私たちは街にデートに出かけた。
 とても楽しかった。
 手をつないで一緒に歩き、通りの店を冷やかしたり、広場の大道芸に手を叩いたり。
「……ナノ?」
 声をかけられハッとする。どうもボーッとしていたらしい。
「どうしたんだ。気分が悪いのか?」
「すみません。ちょっと」
 笑ってごまかす。グレイはアクセサリーだのドレスだのが飾られた、通りの店を見て、
「ナノ、何か欲しいものはあるか?」
「いえ、何も。今は大丈夫ですよ?」
「……そうか、じゃあ行こう」
 その後は並んで歩き、しばらく会話もないままだった。
 そして突然グレイが、
「そ、そうだ。最近、新しい珈琲専門店が出来たらしい。
 すぐ近くなんだ。そこで休憩しないか?」
 ……こいつ、自然体を装って事前にデートコースを決めてるタイプだ!
 だがしかし、
「いえ、今はその……疲れていないし、もうちょっとグレイと歩いてみたいなー、なんて」
「……そうか。分かった」
 グレイは何も言わず、うなずいてくれた。
 不味いなあ。『気が進まない』ってのが、完全にバレてる。
「ナノ。いいんだぞ? こういうときは男が持つのが当然で――」
「いえいえいえ!」
 男に全額出させるとか時代錯誤な。
 しかしムゲに否定して、男性のメンツをつぶしたくも無し。
「塔には在庫もかなりありますし、ユリウスのところにも預けてありますので。ね?」
「…………ああ、そうだな」
 しまった。デート中に他の男、よりにもよって時計屋の名を出す大失態!
 うう、やっぱり今日は本調子じゃないなあ。
「ナノ。向こうに露店が出ているぞ。あれならいいだろう?」
 あ、ホントだ。市場が賑わっている。
 グレイに手を引っ張られ、私はそっち方向に向かった。
 ……眠い。

 その後、多少テンポの悪さはあれど、デートは順調に行った。
「楽しかったな、ナノ。次はどこに行こうか」
 手をつないで通りを歩く。空いた方の手には、買ってもらった大きなクレープ。
 どう見ても仲のよろしい恋人同士!
 何という『らしすぎる』デートであろうか。私の頭もほわほわするが、

「うわ、あの人、カッコいい!」
「姪っ子さんの買い物につきあってあげてるのかな、いいなあ」

 言葉のナイフが臓腑をえぐる。
 発言者は通りすがりの顔無しのお姉さんたちだ。
 誤解を訂正しようにも、もう角を曲がっていなくなってしまった。
「……姪って……そこまで、歳が離れてる風に見えるのか?」
 ショックを受けているのはグレイも同じようだった。なので。
「さあ行きましょうか、グレイ『叔父さん』」
「――っ!!」
 あ。『ガーン』という擬音が聞こえそうなほどショックを受けている。
 微妙なお年頃の男性を傷つけたか。
 また失敗してしまった。うう、落ち込むなあ。
 グレイはブツブツと、
「違う……断じて違う。ナノが小さすぎるから、これは仕方の無いことなんだ」
 自尊心を守るため恋人を犠牲にするとは。
 グレイ=リングマークの心の闇を見た気がする。
「いやどうでもいいです。ほら、映画館に行きますよ」
 何でか知らんがこの世界は映画館がある。彼も気を取り直したのか、
「ナノ。そんなに急ぐと転ぶぞ。ゆっくり歩きなさい」
 だから子供扱いしないで下さいってば。
「いいじゃないですか、上映時間になっちゃいますよ」
 クレープをむしゃむしゃ食べ、グレイを引っ張って映画館に行った。

 …………

『うーん』
 二人して映画館前で腕組みである。
 現在上映しているのは、二本ある。
 一つはゲロ甘恋愛物。
 もう一つは(文字通りの意味で)血湧き肉躍るスプラッタホラー。
「まあ、これなら逆に迷う必要はないな」
「ですね」
 二人してうなずき、

「これを見よう「見ましょう」」

 ビシッと。私の指はスプラッタホラーに。
 グレイの指はゲロ甘恋愛物に向かっていた。

『…………』

 沈黙。ついにグレイは優しい笑顔で、

「ナノ、俺に気を遣わなくていいんだぞ? 自分の見たい物を選んでくれれば」
「グレイ、私に気を遣わなくていいんですよ? ご自分の見たい物を選んで下されば」
 私たちの声がそろう。
『…………』
 また沈黙する。
 ごく平凡な少女として、スプラッタを選ぶのは至極当然の選択肢であろう。
「スプラッタしか無いでしょう。それとも何ですかグレイ。不治の病に冒されたヒロインが、
恋人と感涙物の愛をはぐくみ、クライマックスは病床のプロポーズ&挙式。最後は涙の
お別れとか、ンな平凡極まりない映画がいいんですか?」
「どこが平凡なんだ。君こそ殺人鬼が迷い込んだ人間を、次々に惨たらしく殺して
行くという、平凡極まりない映画がいいのか?」
 ……スプラッタはこの世界では平凡らしい。
 まあ誰とは言わんが通行人を斧でザクザク斬り殺す双子とか、いるもんね。
「こっちの映画を観ましょうよ。私はこっちがいいです」
 この映画の方が目が覚めそうだ。
 グレイの袖を引っ張るが、
「いやこっちにしよう。こっちがいい」
「スプラッタがいいですー」
 グズってるとグレイも困ってきたのか、
「ナノ。血ならナイトメア様の吐血をいつも見ているだろう?」
「いやそういう感じの血ではなく!」
「切り刻まれた内臓が見たいなら俺が見せてやるから」
「頼むから冗句だと言って下さい。目がマジだから怖いんですよグレイ!」
 互いに自分の観たい映画を推し続け……。

「映画は止めよう」
「ですね」

 ついに決着がついた。
 チケット売り場の顔無しさんが、ホッとしたような顔を見せたのは気のせいか。

 そして二人でカフェに行くことにしたが、デートのメインを欠き、イマイチ盛り上がりが悪かった。
 私は上の空。
 グレイがあれこれ気を遣って喜ばせようとしてくれたが、私はどうにも反応が悪い。
 グレイは、しまいには困ったように沈黙してしまった。
「…………」
「…………」
 そして二人して無言のまま、クローバーの塔に向かっているとき。
 デートは突然終わった。
「グレイ様! ナイトメア様が執務室で!!」
「夢の空間に消えてしまわれました!!」
 塔の方からグレイの部下がバタバタ走ってきた。またナイトメアが倒れたらしい。
 部下たちが慌てて医師を呼んでいるうち、奴は注射を嫌って夢の世界に逃げたそうな。
 子供かっ!!
「何。またか!!」
 グレイは『どうしようもない』という顔で額に手を当てる。
「それと、今すぐご裁可いただかなければいけない書類と、緊急の案件が山ほど!」
 グレイはその報告を聞き、どんどん険しい顔になる。
「お急ぎ下さい、グレイ様!」
「分かった。すぐ行く」
 とバタバタと走っていった。

「え」

 私。取り残された。一切のフォロー無く。

 そして時間帯が変わり、夕方になる。
 私はちょっと立ち尽くし……クローバーの塔に背を向けて歩き出した。

 …………


 そして十時間帯後、私は墓守領にいた。

「いえですね。一言あってもいいんじゃ、とか。ね、ワガママだって分かってるんです。
 グレイがこの世界でいた長い間、ずっとそばにナイトメアがいたんだし。割り込んだのは
私だし、男の方には立場があるっていうのを分かってあげるべきだと思うし――」

「ブツブツブツブツうるさい! こっちは仕事中だ! 気が散るだろう!!」

 あ。ついにユリウスに怒られた。

 ちなみにここはユリウスの仕事部屋である。
「いったい何なんだ、おまえは!! 人の部屋に押しかけてきて十時間帯も寝たかと
思えば、今度は延々と愚痴ってきて。私はおまえの気晴らしの道具ではない!」
 時計屋、ブチ切れである。
 さもありなん。
 
 私が押しかけたとき、時計屋は仕事中だった。
 私は気にせず中に入り、時計屋のベッドを占拠して寝ていた青剣士を、ベッドから
蹴落とし、奴が完全に覚醒する前に外に追い出し鍵をかけた。
 怒った青剣士は、ドアを破壊しかねない勢いで、ドアを叩き続けた。
 その音で仕事中だった時計屋が集中力を削がれた。
 私は外につまみ出されかけたが、今追い出されたら、青いのに斬られるからと
頼み込んでベッドにUターン。後は爆睡した。あー、すっきりした。
 そしたら、今度は時計屋のターンとなった。
「人の迷惑を考えないのか、おまえは! 男一人の部屋に押しかけて、トカゲの
奴に誤解されても、私は一切関知しないからな!
 それに、いつまで私のベッドを占拠しているつもりだ、全くおまえときたら女のくせに――」
 ガミガミガミガミ。私はスルーして、ベッドでうたたね。
 ユリウスに怒られても不思議と傷つかない。

 だってユリウスは本当に仕事に没頭したら、こっちが大音量で騒ごうと集中してる。
 つまりは彼の意思で、私の話を聞いてくれているのだ。

 そしてガチャッとユリウスの仕事部屋の扉が開く。
 ジェリコが現れた。
 今日はお仕事のスーツ姿で、少しカッコいい。
「クローバーの塔から、何度も何度も迎えが来てた」
 迎え。グレイが来たんじゃないんだ。まあ、それはそうか。
「おまえが寝てたから、追い返しておいたぜ。
 夜の時間帯は危ないから明るくなったら、うちのに送らせるってな」
 それはどうも。
「では泊まらせていただきます。もちろん部屋は最上級スイートルームで」
「何が『もちろん』だ。ねえよ、ンな上品な部屋」
 私の冗句を笑って流し、頭をグリグリしてくれる。いだだだ。
 そしてジェリコは私の頭をくしゃっと撫で、

「ほら。そんな泣きそうな顔するなよ。可愛い顔が台無しだぜ。
 ほら、ユリウスも来い。三人でメシを食いに行くぞ」

 え。泣きそう?

「おい、ジェリコ。余計なことを言うな」
 ユリウスが舌打ちし、小声でジェリコに釘を刺している。
 え。やだ。気を遣われてる感やべえ。
 泣きそうじゃないもん。別にそんな顔してないから!!
「行くぞ。私の部屋で勝手に置物になるな。ほら下りてこい」
 私は、ユリウスにベッドから引きずり下ろされ、ずりずり引っ張られていく。くすん。
「ナノ。何が食べたい?」
「スペシャルハンバーグプレート、メロンソーダフロートと特盛りチョコパフェ。
 お代は全て館長のポケットマネーで」
「よし来た! 任せとけ!!」
 よっしゃ!! 晩ご飯代が浮いた!!
「……元気そうだな」
 ユリウスが大きく息を吐いた。




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