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■しばしの休憩時間

 夢主:どこか別の軸の長編1夢主
 設定:色々可哀想

 ※R18

 ここはどこだろう。
 ……えーと。何だっけ。
 もう一度考える。ここはどこだっけか。 
 記憶がどうもあいまいだ。
 私はここに至るまでに何をして、どうしてこんなところにいるのか。
 私の目の前には扉がある。
 これを開けるべきか、開けざるべきか。

 ここは……。 
 背後には休みなく動く巨大な時計のギミック。
 上の展望台からは風が吹いている。
「うーむ」
 とりあえず、目の前の選択を回避したくて、てくてくと階段を上がり、
展望台に行ってみた。
「おー」
 眼下に広がるは『時計塔』からの懐かしの光景。
 とはいえ、なぜか帽子屋屋敷はない。
 そのことにホッとする。

「……て、あれ?」

 私は今まで何をしてたんだっけか。
 とりあえず帽子屋屋敷がなかったのだけは良かった。
 後はどうも思い出せない。
 まあいいか。私は軽い足取りで階段を下りた。
「ふんふーん♪」
 先ほどの扉の前に行き……ノックをせず、そーっと扉を開けた。

 ……いた。

 この塔の主だ。
 私は足音を立てないよう、そーっとそーっと彼に近づく。
 彼は作業台に伏せている。
 寝息が聞こえる。
 また不精し、疲れて寝てしまったんだろう。
 久しぶりに間近で見る顔は、やはり整っている。
 藍色の髪、長いまつげ、機械油の匂い。
「…………」
 私はしばらく迷い……そっとユリウスの懐に手を伸ばす。
 ……よし、財布発見。中身は予想より軽いがぜいたくは言うまい。
 慎重に手を戻し、ブツを素早く懐に入れる。
 
 で、ツツツと素早く扉に向かい、そっと扉を開けて――、

「……何をしている」

「っ!!」

 ヒィイ、と心臓が悲鳴を上げる。
「ユユユユユリウス、お久しぶりでででっ!!」
「挨拶はいいから、とっとと財布を返せ。
 でなければ時間の番人の名において、おまえを裁くぞ」
 大層な肩書きを持ちだしてきた!!
 しかし処刑人にも看守にも心当たりがある。
「……はい」
 公権力に逆らえず、涙ながらに財布を戻した。
 ユリウスはきっちり中身を確かめ、私にジロリと冷酷な視線を向けた。
「何を突っ立っている。とっとと珈琲を淹れろ」
「はいです……」
 わたくし、トボトボと珈琲メーカーの場所に向かう。
 そこでハタと思い出す。
 ここに至るまでの経緯が、思い出せないと言うことを。
 私は棚から珈琲豆を取り出しながら、
「あのですね、ユリウス。私、なんか記憶喪失みたいなんですが」
「またか? 別にいつものことだろう。
 珈琲についての知識さえ覚えていればいい」
 こらこら。
「色んな人から逃げてゴタゴタしてた気もするんですが、ここ最近どうしてたのかなあ……」
 ミルで豆を砕きながら首を傾げる。
「どうしていたも何も、引っ越ししてずいぶん経つだろう」
「まあそれはそうなんですけど……え?」
 振り向くと、ユリウスの訝しげな視線がある。
「何だ、その目は。だいたい、おまえがクローバーの国の帽子屋と
もめていたのは、ずいぶん前のことだろう」
「え? で、そ、その後は……」
「……本当に覚えていないのか?」
 え、ええええええ?
 こここれは、もももしかして!!
「おい、手が震えているぞ」
 私より珈琲の出来が気になるらしい。
 けど、そう言われてみればハートの国のユリウスのことが忘れられず、
無理やり別れを切り出したような気もする。
 追っ手から逃れ、汽車に乗った気もする。
 ……でもあくまで『気がする』だけだ。
 私の願望が産んだ妄想かもしれない。
 結局、具体的な記憶を取り出すことが出来なかった。

「ええ、で、で、で、わわわ私は、あああああなたと……」
 顔が真っ赤になり、珈琲を注ぐ手が震える。
 ももももしかしてユユユユリウスと私がけけけけ結婚!?
 い、嫌じゃない。むしろすっっっごく嬉しい。
 顔がにやけてしまう。そんな私を知ってか知らずか、
「ああ。仕方ないので居候としてまた置いてやっている」
 ……ポットを落とすところだった。
 
『居候』

 こちらから矢印があっても、向こうからあるとは限らない。完。

「ああああああああ……」
 床にくずおれる私を前に、ユリウスは足を組んで椅子に座り、
悠々と珈琲を飲んでいる。
 奴は珈琲カップを作業台に置くと、眼鏡を外す。
「さて、ではそろそろ家賃を払ってもらうか」
「は? 家賃?」
 きょとんとして顔をあげる。
「!!」
 腕を引っ張られたかと思うと、唇が重なっていた。
 そして作業台の上に身体を乗っけられる。
「ちょ、ちょっと待って下さい、ゆ、ユリウス……!」
 いつにない強引な仕草に戸惑った。
「どうせおまえは所持金がないし、稼ぎも悪い。
 身体で払うと言ったのはおまえだろう」
「いや、さすがにそこまで×××じゃあないですよ! てか絶対に、
こちらの部分記憶喪失につけこんで、いいように嘘ついてるでしょ!」
 抗議するが、片手だけで両手首を押さえられ、またキスをされる。
「ならさっきの万引き未遂の贖罪(しょくざい)をしてもらうか」
 と、片手で服のボタンを外してくる。
「いえ、そんな大人のDVD的ベタな設定はちょっと」
「……詳しいな」
 オホホ。

「ん……んう……ぁ……」
 執拗に胸を舌先でねぶられ、身体の奥がじんじんする。
 両足の間は、ユリウスの指先に布越しに悪さされただけで、濡れ始めている。
「相変わらず……×××だな、おまえは」
 耳元でささやかれる侮蔑さえ、熱くなる材料になってしまう。
 熱い。何もかもが熱い。もっと触れてほしい。いじめてほしい。
 足を絡ませ、半裸の身体で時計屋を抱きしめ、涙声で唇をねだる。
「おまえの方が準備が出来ているのか? 普通は逆だろうに」
 呆れたようにため息をつかれ、両腕で抱き上げられる。ドサッとソファに下ろされた。
「ユリウスー」
 寝そべって両手を伸ばすと、重いロングコートを脱いでいるユリウス。
 しかし平常を装っている風ではあるが、下半身は……まあ、男性ですな。
「おまえほどではない、この×××××」
「っ!!」
 半端な硬さの××を口に含まされ、私の頭の方を動かされる。やや苦しいながら、必死で舌を這わせていると、
「ん……む……」
 ユリウスの息づかいも、たちまちのうちに乱れ、口の中の××も……。
「んっ」
 糸を引いて引き抜かれ、ソファに背中を押しつけられたかと思うと、
無理やり両足を開かされた。
「……ユ、ユリウス……」
「ナノ……っ……」
「……んっ……あ……――っ」
 顔をうずめられ、驚いて目を丸くする。
「や……やあ……っ……だめ、やめ……っ……」
 充血した×××××を×××られ、その刺激でイッてしまうかと思った。
 ただでさえ蜜であふれる場所を、舌で開かれ、隅々まで舐め尽くされる。
 ユリウスの頭を何とか押しのけようとするが、倍くらいの力で腰をつかまれ、舌先を挿れられる。
 もう限界だった。
「だめ……イッちゃ……だめぇ……やあ……」
 泣きながら暴れ、やっとのことでユリウスが離れる。
「馬鹿……」
 涙目で言うと、ユリウスは口元をぬぐい、人の悪い笑みを見せる。
「おまえには、散々遊ばれたからな。これくらい、いいだろう?」
 何が。
 でもユリウスが前を緩め、下の口にあてがい、唇を噛む。
「あ……ああ……や……ああっ……!」
 声を出すまいとしたけどダメだった。
 一気に一番奥まで貫かれ、頭がおかしくなりそうになる。
 後はもう、勢いだけ。
 何度も何度も何度も、入り口まで引いては最奥まで抉られる。
「あ……、はあ……あ、ああ……あ……っ……」
 噛みつくような勢いで口づけされ、胸をつかまれ、痛いくらいに抱きしめられる。
 体格差もあって、本当につぶされるんじゃないかと思った。
「ナノ……ナノ……っ……」
「あ……ああ……やあ……っ……!!」
 抽送がますます速くなり、全てがあふれ、どうにかなりそうで。
 そしてとりわけ深く穿たれ、声を上げ、同時に達した。
「……ナノ……」
 私の中に残滓まで出し切り、息を吐いて私を抱きしめる時計屋。
「ユリウス……」
 優しく抱きしめ、キスをする。
 ……てか重い。あなたちょっと重い。どいてどいて。
 ん? 時計屋がまた私にキスをする。
 そして私の胸を触り出す。
「あ、あの……ユリウス……」
 ユリウスはまた人の悪い笑みを見せた。
「おまえが悪い」
 い、いえ、いくら引きこもりで色々な意味でご無沙汰だからって、
連戦はちょい……。
「あ、や……」
 抗議しようとしたけど、つながったままの×××をイジられ背がビクンと反る。
「おまえも文句はないようだな」
「いやいや、あるあるありま……あ、んぁ……」
 奥がじっとり蜜をあふれさせる。
「陰険! 根暗! ムッツリ!」
 さんざん罵倒し、鎖骨のあたりをガジガジかじる。
 でもユリウスは笑いながら、私にキスをしてくれた。

 …………

 …………

「平和ですねえ……」
 ユリウスの膝に乗っかり、至福の思いで空を見上げる。
 私を後ろから抱きしめるユリウス、美味しい珈琲、時計塔。
 これ以上に望むものがあろうか。
 ――…………。
 でもどうしてだろう。
 何か違和感があった。

「私、何か大切なことを忘れている気がするんですが……」

 キスをしながらユリウスを見上げる。
「思い出せそうか?」
 どうしてだろう。
 ユリウスはとても優しい目をしていた。
 それが、なぜか悲しい。
「いえ。思い出せないなら、大事なことではないんですよ」
「そうか、おまえがそう思うのなら、そうなんだろう」
 頭を撫でられる。
「なら、私はそろそろ仕事に戻――」
「えええ! もう少しこのままでいましょうよ」
「……膝が重いんだが」
「わたくし、快適」
「蹴落とされたいか?」
 脅迫を受け、慌ててお膝から降りる。
 コートを着て、作業机の方に歩いていくユリウス。
 私はチョロチョロつきまといながら、
「仕事のお手伝いしますですよ?」
「いらん。部品箱をぶちまけたのは、いつの話だ」
「い、いや、あれはハートの国の頃の話でしょう」
 そう言って、ズキンと心が痛む。
 ああ、そうだ。あのとき引っ越しが起こらなかったら。
 私たちが喧嘩をしなければ。
 私たちは、きっと……。
「ナノ。泣くな」
 抱きしめられ、泣いていることに気づいた。
 どうしてだろう。今が一番幸せなのに。 
「ええ……」
 そうだ。気づいた。この部屋の外。静かすぎる。
 銃声が全く聞こえない。
 銃弾飛び交う世界で、それは決してないことなのに。
「おまえは疲れているんだ。少し休むといい」
「……はい」
 涙をぬぐわれ、ベッドを指さされた。
「それじゃ、ちょっと厄介になりますよ」
「ああ。家賃も払ってもらったことだしな」
「〜〜〜〜っ!!」
 殴ってやろうと拳を構えるが、時計屋はフッと笑い、作業台に腰掛けた。
 こうなるとお仕事モードに入ってしまう。
 私はあきらめ、靴を脱いでベッドに上がる。
 懐かしい布団と枕。横になると安堵で何もかも忘れてしまう。
 でも、眠るのがちょっと怖かった。
「ユリウス、ユリウス」
 顔をのぞかせ、呼びかける。
 幸い、時計屋はまだ過集中モードではなかったみたい。
 不機嫌そうだけど、顔はあげてくれた。
「何だ。うるさいぞ」
「もし私がまた迷子になっても、時計塔に帰れますか?」
「……さあな」
 ユリウスはやはりユリウス。安心させる答えはくれない。
「ユリウス〜」
 我ながら幼いと思いつつも、ジタバタする。
 ついに下から盛大なため息が聞こえた。
 眼鏡を置き、椅子から立ち上がる音。
 コートを乱暴にソファに放り……ギシギシとハシゴを登る音。
 顔をのぞかせる不機嫌そうな時計屋。
「ユリウス!」
 今、私に尻尾があったら千切れんばかりに振っていただろう。
「本当に世話の焼ける奴だな、おまえは」
 大きな手で頭を撫でられた。
「家賃払いますから」
「いらん。おまえと一緒にするな」
 何かひっどい侮辱!!
 でもユリウスは、ギシッと音を立て、私の横に寝てくれる。
「寝るまで一緒にいる。それでいいな」
「はい」
 大喜びでユリウスに抱きついた。
 もうどんなに呆れられてもいい。精神年齢が一桁代まで退行してていい。
 彼がいるだけで、全てが大丈夫な気がする。
 それだけで十分なのに……抱き寄せられ、また泣きそうになった。
「少しだけ、もう少しだけ」
 うとうとしながらギュッとしがみつく。
「ああ。もう少しだけ、な」
 ユリウスに抱きしめられながら思う。

 会える。きっと。
 夢から覚めたら、今度こそ汽車に乗る。

 そして必ずあなたに会いに行く。
 夢を現実に変えるために。

 きっと。
 
 …………

「行くのか?」
「ええ?」

 扉で振り向き、微笑む。
 ダイヤの国で何も決められずさ迷い、奈落に落ち掛けていた私を助けて、
慰めてくれた。
 でもダイヤの国では、そして『ここ』では私達は幸せになれない。
 現実で会うための障害はあまりに多いけれど。

「ではまた後で」
 扉を開け、不敵に微笑む。
「ああ」
 感情を見せない彼は、本物なのか、私の願望が生み出した幻なのか。
 それは近いうちに分かる。必ず。

「いってきます!」

 そして私は走り出す。
 今この私を待つ、本物の時計塔に帰るために。

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