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■白ウサギに拾われた話・後

※R18

 未だにペーターさんとは言葉を交わしていません。

「おい、僕の部屋に居座るゴミ。部屋で無為な時間を過ごすことしか
空っぽの頭にないのなら、薔薇の庭園を案内しないでもありませんよ」

 あるときペーターさんのベッドで寝ていたら、そう声をかけられました。

 心の傷も大分、癒えたと思うのですが、たまに帽子屋屋敷を思い出して
ふさぎ込むことがあります。今も、そんな気分でした。
 ベッドから起き上がると、ペーターさんが睨んでいました。
 ――お仕事は?
「フン、もうすませました。怠惰なおまえと違い、僕は勤勉なウサギなんです」
 鼻で笑われました。
 最近は目と仕草で、簡単なコミュニケーションが取れるようになりました。
 ……それでいいのかと、自分で自分にツッコミを入れざるを得ません。

 でも薔薇ですか。
 そういえば、ペーターさんのお手伝い中、ボーッとして窓の外の薔薇園を
見ることはありました。ペーターさんが何度か『気になるのですか?』と
仰っていた気もしますが。まさか、ね。
 ――でも眠いですね。
 私はゴロンとベッドに横になり、ペーターさんに背を向けます。
「こらっ!! 寝るんじゃない! この僕が誘ってやっているのに、
それを栄誉とも思わず! いいから来なさい!!」
 手を引っ張られ、渋々ベッドから下りました。

 …………

 ハートの城の薔薇園は、とても美しい場所です。
「これがローテローゼ、これがオスカー、コンラッド・ヘンケル」
 ペーターさんは私の手を引き、薔薇の品種を解説して下さいます。
 ぶっちゃけ、学が無い身にはどれも同じに見えますが。
「聞いていますか?」
 ジロリ。はいはい。高速で首を上下に振ります。
 しかしいつまで手をつながれているのでしょう。
 そう。ベッドからずーっとペーターさんに手を握られているのです。
 メイドさんや兵士さんの目が、かなり恥ずかしかったのですが。
「勉強になったなら結構。ではお茶会にしますか。この先に用意させてあります。
 ああ、エース君や陛下といった無粋な客は招いていませんから、安心なさい。
 僕とおまえの二人きりです」
 従順な私に、ペーターさんはやや機嫌を直されたようでした。

 けれど『お茶会』という言葉にズキリと胸が痛みます。

 ディー、ダム。エリオットさん、ブラッドさん。

 帽子屋屋敷が恋しい。帽子屋屋敷のお茶会が。

 そして私の心が揺れます。
 相当時間帯が経ったし、今戻れば二人も冷静に迎えてくれるのでは。
 以前のような楽しい時間が戻るのでは?
「どうしました? 来なさい、寄生虫」
 足を止めた私の手を、ペーターさんが引っ張ります。
 ペーターさんにも、ずいぶん長いことご迷惑をおかけしてしまいました。
 恋人でもない男女が、いつまでも同じ部屋に住むのも問題でしょう。
 最近では私をペーターさんの恋人として扱うメイドさんまで出て、
申し訳ない思いでいっぱいなのです。
 私も居心地が良くなる前に、出て行かないと。
 ……ペーターさんとお別れするのが辛くなる前に。

 ペーターさんについて歩きながら、私は帽子屋屋敷に戻ることを決意しました。

 …………

 …………

 夜更けに目を覚ましました。
 私のかたわらにはペーターさんが寝ています。

 誤解無きように。何もありません。
 抱きしめられたり、親愛のキスをされたり、ということはありますが、
それすら数える程度。
 それ以上のことは決してありません。

 ペーターさんは眼鏡を取り、ピンクのパジャマ姿です。
 最近はなぜか私の生活リズムに合わせ、私が寝るときはペーターさんも
一緒に寝るようになりました。
 寝る前には、昼間、いかに私の効率が悪かったか、私に腕枕しつつ、
チクチクつつくのです。
 しかし言外に私がいて助かった、ということも同時に伝える上、
その間、私が耳を触ろうと一切止めないので、苦痛ではありません。
 私が触りやすいように、頭を傾けてくれさえするから、驚くばかりです。
 で、そのまま就寝。
 

 私はそーっとペーターさんの腕から抜け出ました。
 あ。最後にお耳の触り納め。さわさわっと。
 私は壁にかけてある私の普段着のポケットを探り、ペーターさんへの
お礼とお詫びの手紙を……。
 あ、あれ? 手紙は? 確かにポケットに入れておいたのに。
 待って下さいよ。さすがに無言で去るのは失礼すぎます。
「探しているのはこれですか?」
 背後から声がかかりました。あ、そうです。どうも。

 ……あ。

 私が振り向いた先で、私の手紙を持っているペーターさん。
 彼がパチッと指を鳴らすと、部屋のランプがポッとつきます。
 ペーターさんはそのまま、手紙の封を開けてしまいます。
 ――あ! ちょっと読まないでくださいよ!
 いえペーターさん宛てなんですが、私がいなくなってから読むと
想定していたものを目の前で読まれるのは羞恥心が!!
 ペーターさんはザッと目を通し、小馬鹿にしたように、
「スペルはミスだらけ、文法もなっていない。
 こんな置き手紙など、逆に僕を馬鹿にしていると思いませんか?」
 ……すみません。
 ペーターさんはビリビリと私の手紙を破き、くしゃくしゃに丸め、
ゴミ箱に投下。あああ、一生懸命書いたのに!
 そして、彼は私を抱き寄せました。
「せっかく僕に意思表示をしたと思えば、別れの言葉?
 ふざけるんじゃない! 二度もおまえを殺しかけた子供の元に
戻るなど、バカの極みでしかない」

 私はペーターさんの腕から逃れようとしました。
 ――戻るったら戻るんです!
 しかしペーターさんは、この世界の方です。
 細身の割に、力がとても強い。
 小娘が太刀打ち出来るものではありません。
 
「ナノっ!」

 名前を呼ばれ、つい動きを止めました。
 ペーターさんを見上げると、
「……っ」

 キスをされました。

「耐えられないんだよ!! おまえが帽子屋屋敷に戻るのが!
 子供に殺されるのも、よりを戻すのも!!」

 今まで見たどのペーターさんとも違う、激しい感情が全身からあふれていました。
 私を見る目はどこまでも熱く、真剣です。
 こんな表情も出来る方だったのかと、目が離せませんでした。
「……ナノ……っ!!」
 私を抱きしめ、もう一度キス。今度はさっきより深く。
 ――えと、あの……。
 とはいえ出て行く気満々だった私は、急なことで戸惑います。
「返事は?」
 ペーターさんが私を睨みつけてきます。
 ――ええとその、お気持ちは嬉しいのですが、私はやはり帽子屋屋敷に――。
 目で伝えたつもりでしたが。
「ありませんか。では僕に同意したと見なします」
 ――えええっ!!
 しかし宰相閣下は、さっきまでの必死な表情が嘘のようにニヤリ。
 ぜ、絶対に私の本音を知ってる!
 私は首を振って、腕を逃れようとしますが、ペーターさんは私を
楽しそうに腕にからめ、
「では、既成事実の成立……もとい、愛し合うとしましょう。
 雑菌は……寝る前にシャワーを浴びたから問題ありませんね」
 いえ別に! 私、もう一度シャワーに入ってもいいですが!
 あと最初、何て言ったんですか!!
 けどペーターさんは楽々と私をベッドに押し倒しました。


 ――ん……んう……。
「本当にイライラさせられる娘だ。声を出そうともしない」
 ペーターさんは、私の胸に執拗に舌を這わせます。
 結局、私の無口にイライラするのかしないのか。
 いえ、でもですね。肌着を取られ、執拗に、その……。
「淫乱な女だ。こんなに濡らして。その顔で双子を悦ばせていたんですか?」
 下着に指を差し入れ、かき混ぜられるたび、背筋が反り、口から
吐息とも喘ぎともつかないものが漏れます。
 なのにペーターさんは私の耳元で意地悪く、
「教えてくださいよ。あの子供達はどうやってあなたを愛したんです?
 交代で? それとも上と下から同時に?」
 ……信じていただけないかもしれませんが、まだディーとダムとは、
身体をつなげておりません。
 どんな情事になるか、知る機会はついにありませんでした。
 ――ひっ……いや……っ!
 蜜の溢れる場所を丹念にかき回しながら、
「へえ。ここがいいんですか? ねえ。二人とどう愛し合っていたか、
教えていただければ、もっと良くしますよ?」
 手袋を外した手で胸を包み、舌と舌を絡ませながら。
 私は快感と混乱と、わずかな不安の間でボーッとしていました。
 ――ペーターさん……。
 私も、触れたい。
 手が勝手に動き、ペーターさんの服のボタンを外す。
 冷たいウサギさんの肌は、思っていたよりずっと温かかった。
「……ナノ……」
 かすかに眉根を寄せるペーターさん。
 そっと手を下に忍ばせると、そこは軽く触れて分かるくらい硬くなっていた。
「…………っ!」
 触れた瞬間、ペーターさんが私を抱きしめる。
 もう何の余裕もない。私を煽って苛める余裕も。
「僕の……」
 え?
「僕の、名前を……」
 あ。そうですね。こう、ずーっと私だけ無言なのも。
「…………」
 出ません。都合良く出ません。
 仕方なくペーターさんを抱き寄せ、自分から唇を重ねてみたり。
「……ごまかすんじゃない」
 不機嫌120%。本当にすみませんでした。

「……ん……ぅ……」
 声、出ます。喉の病気とかではないので、うめき声は出るみたいです。
「落ち着きなさい。ゆっくり動くから」
 私の目元の涙を拭き、ペーターさんは困った顔。少しお耳が垂れてます。
 欲望のままガンガン行きたいのでしょうが。
「まさか、初めてだったとは……」
 何ともいえない顔で、私を気遣いゆっくり動いてくれるペーターさん。
 私はあのときの痛みに比べれば、と自分に言い聞かせます。
「安心しろ。子供と違って、僕は無理強いはしない」
 私を見下ろし、ペーターさんはフッと微笑むのでした。

 
「ナノ……っ!」
「や……ああ……」
 少し慣れたと思ったらコレですか。どの口が『無理強いはしない』と言った。
 彼は私をベッドに這わせ、後ろから何度も何度も攻めてこられます。
 もうこれで何度目なのか。数えるのを止めています。
「いやらしい娘だ。自分がどれだけ浅ましい姿で僕を受け入れているか……」
「ん……――っ……」
 シーツをつかみ、快感に耐える。
 触れられた箇所が熱くなり、奥を抉られるたびに快感が高まり、
気がつくと無口も飛んでいます。
「ペーターさん……もっと……ペーターさん……」
 彼の名前を何度も呼ぶ。
「ナノ……!」
 背中に噛みつくような口づけ。
 腰を上げさせられ、はしたない体位を取らされ、ベッドが揺れる。
 愛液が尽きること無くこぼれ、清潔なシーツに染みこんでいく。
 しかし夜はいつまでも続かない。
「あ……ペーターさん……」
 安堵半分で窓を指さす。昼間の時間帯になった。
 宰相閣下はお仕事だ。
「…………」
 宰相閣下。どこから取り出したのか、砂時計を私の手に握らせる。
「……あの……」
「さっさと夜にしなさい。砂時計を突っ込まれたいのか!」
 どこに、とは恐ろしすぎて言えません。
 私は余所者の特権を行使し、時間帯を夜に戻すのでした。
「ん……」
「……っ……」
 同時にペーターさんが私の中で果てる。
 背中にかかる体重と汗ばんだ身体。
「……時間帯を変える必要、なかったですかね」 
 照れ隠しにペーターさんの耳を撫でながら言う。
「いいえ、ありますよ。証明してあげましょう」
 またもペーターさんのニヤリ笑い。
 そして私の足を抱えて無理やりに大きく開かせると、まだ蜜をこぼす場所にあてがう。
「え? ま、待っ……」
「時間帯を変える必要があったと、たっぷり分からせてあげましょう」
 そして深々と打ち込まれ、快感に声を上げる私。

 口は災いの門。やはり沈黙は金である。

 …………

 …………

 ハートの城近くの、丘の上から見る景色。
 国全体を一望出来るはずなのに、そこに帽子屋屋敷がありません。
「皆、どこに行ったんですか?」
「『引っ越し』ですよ。帽子屋屋敷は領土の人間もろとも別の国に行きました」
 かたわらに立つペーターさんが、私に説明してくれました。
 あれからずっとハートの城で過ごし、あるとき起こった『引っ越し』。
 理屈はまだよく分かりませんが、
「私も、帽子屋屋敷の人間なのに……」
 連れて行ってもらえなかった。結局、仲直りの機会はありませんでした。
「そう判断されなかったから、ここにいるんですよ」
 ペーターさんが私の腰を抱き寄せます。
 そして私にキスをしました。
「引っ越しをしなくても、渡すつもりはありませんがね」
「ん……」
 触れるだけのキスはどんどん深くなります。
 そのままペーターさんは木の根元に、私を座らせました。
 そして私に覆い被さり、
「ちょっと、ペーターさん。まだ昼間ですよ!」
「安心なさい。刺客ごときにあなたを始末させはしない。
 他の目撃者も全員撃つことを約束しましょう」
 しなくていいです、そんな約束!!
 しかし盛りのついたケダモノを止めるなど不可能。
 私の下着を下ろすのを止めさせる手立ては、どこにもありませんでした。

「ナノ。あなたは僕のものだ。ずっと、いつまでも」

 抱きしめる白ウサギにキスをし、応える。

「私も、愛しています」

 いつからか分からない。
 潔癖症で意地悪で優しいウサギに惹かれたのは。
 本当は不安もあるし、未練もある。
 でもそんな私の手を取り、導いてくれる宰相閣下。

「ナノ……」

 遊んでいた私の手が、ペーターの時計に触れた。銃になる時計。
 私の貝殻を砕いた、時計の銃。
 私たちはこれから関係を築いていく。
 そして、ずっとずっと一緒にいるんだろう。

「ペーター。大好きです」


 木もれ日に包まれて、愛する人とキスをかわす。いつまでも抱きしめ合う。


 わずかな不安と、大きな幸せに包まれて。



……………………


リク内容:長編3主人公。エースorペーターの略奪愛系

略奪して……ない……(汗)
遅れましたこと、深くお詫び申し上げます<(_ _)>

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