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■劇的何とか計画7

ブラッドは、店がどんな風に改装されたか知っているらしい。
「宰相殿はなかなか懸命なようだ。ドードー鳥の考えた面白くも
何ともない小規模喫茶店プランを、高級クラブ風に変更してくれた」
「…………」
ちょっと待て。高級クラブって。
「えと、あれですか?薄暗いのに何かキラキラしててカウンターがあって、
蝶ネクタイのバーテンダーさんがカクテルシャカシャカ的な」
顔面蒼白になっていく私に対し、ブラッドはつまらなそうに、
「まあそういった想像で近いだろう。ああ、もちろんカウンターで采配を
ふるうのはバーテンダーではなく君だが」
当たり前だ。バーテンダーを雇う余裕なんかあるか。
「し、収容人数は……?」
「二十人は可能だろうな」
手が、手がワナワナと震える。誰がそんな豪華に改装しろと言った!!
いやいやいや、請求書は手渡されている。あそこに書かれた金額は――。
「宰相殿が君に請求書を手渡したそうだが、あれは請求の前金分だ。
今頃、君の店の方に『残りの請求書』が送りつけられているだろう」
「あ、あ、あ、あの、そ、その請求書の試算は……」
マフィアだもの。そのくらい見当はついているはず。ブラッドは、
「――――くらいだろう」
「……っ!!」
目玉が吹っ飛ぶかと思いました。家が一、二軒普通に建つ額だった!
「シドニー!!いくら私が嫌いだからってそこまでするんですか!!
私を借金地獄にするつもりですか!私にお風呂のお店に勤めろと!!」
「不服か?なら私が肩代わりする代わりに私の――」
「お断りします」
キッパリハッキリ。
プレハブから木造平屋に昇格……くらいに思ってたら、とんでもないことになった。
もう懐の謎の大金ではとても追いつかない。
ユリウスやジェリコさんにどう言い訳をしたら。
あの宰相様と対立して、元の店に戻す……不可能でしょうね。
私は早くも八方塞がりになり、ベッドの中で頭を抱える。
――店さえ改装すれば、こんなただれた生活ともおさらばと思ったのに……。
「なら収益を上げればいいだろう」
「ん?」
ブラッドの声に、私はピクッと顔を上げた。
「収益って、まさかあなたまで、私に××を売れと――」
「やれやれ。君はすぐそっちの方向に頭が行くようだな。
好きなのも分かるが、いい加減にそこから離れなさい」
「な……っ!」
嘆かわしい、という風にため息をつかれ、マフィアのボスを殴りそうになる。
誰のせいですか、誰のっ!!
こぶしを振るわせていると、ブラッドがなだめるように私の背中を撫で、
「扱う飲料を増やせば良い。つまり酒の取り扱いだ」
「…………」
そう言われて考える。高級クラブでシャカシャカ的なことをしている
バーテンダーナノ……うーん。クールかも。
「……て、駄目ですよ。私は酒癖が悪いらしいし」
ダイヤの城での失敗が苦く思い出される。
妙な方向に改装されたのは、陛下への粗相の仕返しもあるんだろう。
「酒を扱う者が、必ずしも酒を飲める必要はないだろう」
そうかなあ。
「君が紅茶を淹れ、酒を注ぐ。それこそが重要だ。
君が直に注いでくれるとなれば、金を惜しまない者は列を作るだろう」
ますます、そうかなあと思う。そして珈琲は眼中になしですか。
「でも、紅茶やココアだけでは確かに厳しいですからね。
ではお酒の選別や発注を、グレイかジェリコさんに――」
こめかみに何か押しつけられました。冷たくて金属的な硬い何かを。
「店で扱うお酒については、帽子屋屋敷に全面委託いたします」
「当然だ」
銃を下ろしながらブラッドが言う。
「はあ……」
深く深く肩を落とした。
確かに紅茶や珈琲より、酒の方が利益率はいいんだろう。
というか、なりふり構ってられない。
それこそお水代も取る勢いじゃないと借金なんて返せないし、
返せなければ……役持ちの慰み物再びですよ。
恐らく今までより、もっと扱いがひどくなるでしょう。
「それにまあ、バーテンダーごっこはちょっとやってみたいかも……」
黒エプロンに蝶ネクタイも追加しようかな。
「いや、そのあたりの助言も是非我が屋敷からさせてほしいのだが」
「は?」
お酒を売る以外にも何かしろと?でもさっきの言動からして、××を
ひさげというコトではないらしい。
それでも……嫌な予感しかしない。
「あの、是非ともお断りを――」
「なら一生、この部屋で過ごすか、我が屋敷の地下に居を移すか」
「謹んでお受けいたします」
ぶるぶる震えながら言った。そんな私にブラッドはキスをしながら、
「何、君は売り上げが上がり、我々としても君との時間をより
楽しめるようになる。ドードー鳥も悪くは思わないだろう」
「……?」
私は眉をひそめ、ブラッドの提案を聞いた。

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