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■劇的何とか計画4

宰相閣下のお部屋は黒の空間でした。
「……以上ですが、ご満足いただけたでしょうか」
宰相閣下の執務机の前で、直立不動で言いますと、
「ああ。よーく分かったよ。君が×××で男だろうと女だろうとお構いなしの
×××だということがね」
椅子に座ってデスクに肘をつき、たっぷりの嫌味をこめ仰る。
「で、シドニーさん。そんな私が男性に襲われることなく安全に過ごせるよう、
ご協力いただけませんか?」
ニコニコと私は言う。すると宰相閣下は私の手首をグイッとつかみ、
「……っ!」
引き寄せられ、唇を重ねられた。
「協力すると思うかい?女王陛下の命令と言うことにして、君を
鎖で縛り付けることも出来るけど?」
少しきつめに私の舌を弄んでから、言う。
「嘘を言わないで下さい。あなたは別に私のことをどうも思ってない
でしょう?ペーターへの対抗心があるだけで」
失礼承知で憎まれ口を叩くと、
「…………×してやりたい」
オッドアイで睨まれ、ボソッと呟かれる。けど彼は手首を放し、
「でも、君の店の防犯体制は確かに不十分だね。あれでは役持ちに
つけ込まれるのも仕方ない。陛下のご意向もある。
不本意ではあるが、改装の計画を練ってやらないこともない」
心底から、心底から嫌そうに言い、白紙の書類を取り出した。
「あ、ご心配なく」
彼が書き始めようとする前に、私は大事に持っていたジェリコさんの書類を
出して降ってみせる。
「これが改装計画です」
私の身体と引き替えに手に入れた(!)領主の大切な書類。
ちなみに、パッと見た感じではちょっと小洒落たカフェの建設計画っぽい。
防犯計画もしっかり練られており、その緻密さには感心するばかり。
「というわけで、お金を――」
最後まで言う前に、シドニーが私から書類を奪い取った。
「ちょっと!返してくださいよ!!」
「ドードー鳥の字か。鳥は鳥らしく鳥かごの設計でもすればいいものを」
手を伸ばすけど、シドニーは書類を勝手に読んでいく。
「私はその計画書で満足しています!返してください!!」
必死の私をほとんど相手にせず、シドニーはニヤリと笑うと、
「この計画書。城の宰相である私が改良してあげよう。ありがたく思いなさい」
「はあ?不要です、不要です!私は資金提供のお願いだけしたくて!」
「うちの城も抗争が多くてね。正直なところ支出は避けたい。
だからお金の代わりに、この計画書をより完璧に仕上げることで満足してほしい」
「いえ、ですから、私は別にその計画を変えるつもりはないですよ!」
「へえ……。そこまで、奴が書いた計画書が気に入ったんだ」
なおも書類を取り上げようとすると、シドニーは私をジロッと振り返り――

…………

「失礼いたします、ブラック卿。ご用件は……」
ノックして、宰相閣下の執務室に入ってきたメイドさん。
「――っ!!ナノ様!?」
ベッドの上の私を見るなり、完璧なポーカーフェイスを強ばらせ、
私のところに走ってこようとした。が、
「救出は不要です。彼女が望み、私が応じたまで」
真っ黒な執務机で書き物をする、ブラックなウサギが制止する。
「で、ですがブラック卿……」
私と上司を見比べ、メイドさんはオロオロする。
ちなみに私は動けません。声も出せません。
「助けは不要です。いいから、この書類を業者に回して下さい」
「え?」
「そして業者に即刻、工事をさせなさい」
「即刻……でございますか?」
「ええ。それと、ボロ小屋の貧しい荷物は全て破壊して構わないとのことです」
――何てことをー!!
「ああ、代金はそこに転がってる余所者が全額払うので、ご心配なく」
「か、かしこまりました」
――シドニぃーっ!!
この真っ黒ウサギ、勝手に店の改装計画を修正した挙げ句、私の許可無しに
業者に工事をさせようとしている!!
「……っ!!…っ!!」
私は阻止すべく全力でもがいた。その熱意伝わってか、メイドさんはためらいがちに、
「あ、あの、ブラック卿。やっぱりナノ様は……」
「撃たれたいのか?早くしなさい」
「は、はい!かしこまりました!」
慌てたメイドさんはシドニーから書類を受け取ると、そそくさと出て行った。
「ふう……」
真っ黒ウサギは一仕事終えたという顔で大きく伸びをし……ベッドの上の
私を小気味良さそうに眺める。
私はあきらめて脱力している。
「どう?メイドに見られて少しは興奮した?」
……いえ、ぶっちゃけ道具使用はちょっと引くので……。
亀甲縛りという言葉をご存じでしょうか。間違ってもお父さんお母さんに
聞いてはいけません。きっと素敵な制裁をいただけます。
さすがに着衣ありですが、とはいえンな格好で猿ぐつわ噛まされて
ベッドに転がされた日には!格好も恥ずかしいけど、動けないわ
こんなときに限って鼻がかゆくなるわ、散々である。
うう、あそこに食い込んだ縄が、もがけばもがくほど、さらに食い込んで……!
しかし冷酷ウサギは椅子から立つと、ベッドを周り、私の苦しむさまを
ニヤニヤと眺める。
「我ながら完璧な縛りだね。黒い縄がよく栄えている」
え!?私の身体って、縄の添え物!?
そしてシドニーは、ショックを受ける私を上向きにさせると猿ぐつわを
やっと外してくれた。私は恨めしげに、
「シドニー。どうやってダイヤの城を出て行けばいいんですか。
ここのメイドさんたちと顔をあわせられないですよ」
ちょっと涙目で抗議する。
するとシドニーは顔を近づけ……また唇を重ねてきた。
「ん……っ……!」
「さて、では改装計画を完璧なものにしたお礼をいただこうか」
動けない私の身体を好きに撫でながら言う。
「ちょっと!どこを触ってるんですか……ん……あれはあなたが勝手に!」
「恥じらい、苦痛を悦ぶ君もいいものだね。それでは――」
――こ、このSが!!
けれどどれだけ罵声を浴びせようが、宰相様は喜ぶばかり。
黒いベッドの黒いシーツの上で、思い切りあえがされた私でした。

…………

…………


シドニーから解放された私はぐったりと肩を落とし、薔薇園を通っていた。
――うう、縛られたとこがまだヒリヒリします。
あれだけもがいたのに鬱血すらさせなかった、宰相様の手腕を褒めるべきかどうか。
で、私が向かうは家の方角。もう限界である。すると、
「あ、あの、ナノ様……」
「っ!!」
薔薇園でさっきのメイドさんに、呼び止められた。
「あ!あのそのこの……!!」
パニックのあまり意味不明なことを口走る私にメイドさんは慌てて、
「あのことでしたら、決して口外はしませんのでご安心を」
「ど、どうも……」
耳まで真っ赤になりながら頭を下げる。
そして、メイドさんは一通の紙切れを渡した。
「これは何ですか?」
「はい。業者からの請求書です。××時間帯以内に支払ってほしいと」
「――っ!!」
請求書に並んだゼロの数に息を呑む。
予定の五倍、いや十倍にはなっている。
シドニーへの糾弾はもう後だ。
こんな金額、ユリウスに伝えたら撃たれる……!
「……帽子屋屋敷に行ってきます……」
何があろうと頼りたくないけど、あそこくらいしか金策のアテがない。
「お、お気をつけて……」
事情を知ってか知らずか。気の毒そうなメイドさんに見送られ、
私は獣の巣に旅立ったのでありました。

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