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■劇的何とか計画3

さてわたくしナノ、お店の売り上げ&セキュリティアップのため、
ダイヤの国を奔走中でございます。
「改装、改装〜♪〜♪」
新店舗の建設計画は多大な代償を支払って、ジェリコからいただいた。
あとは金です。
で、今。私は森の中を、スキップしつつダイヤの城に向かっていた。
「やあ、余所者さん」
すると、しげみの中から、声をかけられた。
木立の間からヒョコッと顔をのぞかせているのは、小さな少年。
「あら、エース!お久しぶりです」
ユリウスの可愛い被保護者、エース君です。

エースは茂みから出てきて、不思議そうに、
「こんなとこを散歩?余所者さんって変わってるよね」
……そっちこそ森を迷ってたくせに。
彼は、私の知っているデカいエースとは違うエースみたいで、ちょっと
素っ気ない子です。でも大きいのみたいに襲ってくるわけでもなく、
寒々しい作り笑いもないので、私はこの素直なミニエースが好きです。
そんな好意的な私なのに、ミニエースは気味悪そうに、
「余所者さん。顔がニヤけてて気持ち悪いぜ?
トカゲさんの料理でも食べさせられた?」
『食べさせられて』ませんが、『食べられ』ました。
……なーんて子供にゃ言えるわけございません。
だから私は子供のエースに、優しく微笑み、言いました。

「ユリウスと二人きりで、とても楽しいことをしたもので」

「…………」
エースが。
可愛いミニエースが。
スーッと無表情になり。
……剣を抜いた。
「余所者、さん……」
「い、いえ!ジョークジョーク!イッツアジョーク!冗談ですよ、エース!」
大慌てで後じさりますが、エースの眼は、すでにほの暗い光を宿しております。
「言って良い冗談と、悪い冗談があるんじゃないかな?余所者さん」
そ、そうですね。保護者さんを慕う子供相手に悪趣味でしたね。
しかし『言って良い冗談と悪い冗談が』とか、よりによって『エース』が言うか。
「あ、あううう……」
喉元に剣の切っ先を突きつけられ、己の頭の悪さに歯がみする。
「ご、誤解ですよ。あなたの保護者さんとは何の関係もありません!」
「本当に?余所者さんって、いろーんな男の人と恋人なんでしょ?」
嫌味ったらしく言われます。
誤解100%ですが、言い訳は許されない雰囲気です。しくしく。
「あ、あははははは……肝に銘じておきます」
と言うと、エースはフンッと鼻をならし、とりあえず剣をおさめてくれた。
「君みたいな人、大嫌いだな。でも君を斬ったらユリウスがうるさそうだし
今回は見逃してあげるよ、早く行きな」
ガキのくせに上から目線な。
「す、すすすみません、どうも」
しかし私は、頭を下げつつエースから遠ざかります。
けど去り際にエースの背中に一言、
「あ、ちなみに私のことは、いつ『お母さん』と呼んでもいいんですよ?」
「――っ!!」
耳元を剣がかすめた気がした。
私は猛ダッシュでダイヤの城の方に駆けていきました。

…………

クリスタは玉座の間にいらっしゃった。
相変わらず豊満な胸が、見る者に大変なコンプレックスを抱かせる。
彼女はずかずか入ってきた私を見ると、嬉しそうに笑い、
「まあ、ナノ!嬉しいですわ!遊びに来て下さったのですね!」
「いえ融資をお願いに参りました。お金を貸して下さい」
瞬間、耳元を銃弾が通過した。
撃ったのはもちろん真っ黒い耳の宰相閣下です。
女王の傍らに控えていた彼は、不愉快そうに、
「命令です。十秒以内にダイヤの城から消えなさい、十、八、五……」
数字が吹っ飛んでいる!私は慌てて、女性のクリスタに、
「いえいえお店の改装をしたいんです。
深刻な被害にあっているもので……」
するとクリスタ、シドニーを制し、心配そうに、
「あら、どうしましたの?お友達として相談に乗りますわよ」
「陛下、こんな頭の弱い余所者の話など聞くに値しません。早く追い出して――」
「ええと、実はですね……」
シドニーの視線に慌てつつ、私は説明を始めました。

…………

「何て可哀想なナノ……」
クリスタはシルクのハンケチで涙をぬぐいます。
さすが女王様、同じ女として私の苦境を理解して下さったようです。
「それで、わたくしのお城に移って、わたくしの愛人になりたいと
仰るのですね。喜んで。では、すぐにあなたのドレスを仕立てましょう」
「いえいえいえ」
高速で手を左右に振る。
「あら、どうしてですの?男性がお嫌いになったのでしょう?
それとも……無理強いもお好きですの?」
こらこら!ポッと頬を染めないで下さい、女王様。
「いえ、そうではなく……皆さんとは友達でいたいから、セキュリティを
強化するのです。具体的には家を軍事要塞風にして、敷地内に地雷でも
埋めて、役持ちを一掃しようかと」
シーン、と沈黙。
「君。私は毎回ツッコミを入れるほど暇ではないからね」
うっわ、冷たいウサギです!
「というわけで、クリスタ。少々お金を融通して頂けないかと」
「陛下――」
シドニーが眉をひそめて何か言いかけるが、
「ええ、もちろんですわ、ナノ!
大切なお友達の身の安全のためですもの!」
よっしゃ!
「…………」
シドニー氏の目が冷たい。オッドアイが冷たさを増していく。
でもクリスタはパンパンと手を叩き、メイドさんを呼ぶ。
「それでは、お茶会で詳しいことを話し合いましょう、ナノ」
「はい、クリスタ」
黒ウサギのことは考えないようにして、うきうきとクリスタの後についていった。
と、そこでクリスタが私を見下ろし、
「そういえば、ナノはお酒はたしなみますの?」
「い、いえ、アルコールはちょっと……」
「あら、ならこの機会に一度くらいいかが?」
楽しそうです。私は慌てて、
「いえいえ、それはちょっと……」
言葉をにごしつつ、歩いて行った。

…………

…………

「……えーと……」
身体を起こす。頭が重い。すっごく重くて鈍痛もした。
これは二日酔いの症状だった気もする。そして私のかたわらでは、
「ナノ。素晴らしい夜でしたわね」
「はあ……」
ぼんやりと周囲を確認する。レースのカーテンが風にそよぎ、朝日が
とてもまぶしい。クイーンサイズのベッド、シルクの敷布、上品な金刺繍。
床に転がっている可愛いぬいぐるみたちのおかげで、ここがクリスタの
部屋だと分かります。
「ナノ、ナノ」

そして……私にすがる下着姿の幼女。

彼女は、同じく下着姿の私を見上げ、両の頬を愛らしく染め、
「ナノ!あなたが、あんな情熱的だなんて思いませんでしたわ」
「ええと……クリスタ……あの、私……ええと……」
私の視線から照れたように顔をそらし、クリスタは両頬に手を当て、
「女同士でしたけど、あまりにも積極的に求められ、つい……」
『つい』なんだ。それでいいんだ。そしてクリスタ、またこちらを見、
「役持ちが皆あなたの恋人になりたがる理由が分かりましたわ。
あんな素晴らしい夜は初めて……!」
目を潤ませてこちらを見上げる様は、まさしく夢見る乙女。
――えーと……どこからツッコミを入れたら……。

そう昨晩は、ダイヤの女王様にしこたま酒を勧められ、酒は飲めないと
お断りしたのだけど、半ば無理やり飲まされ……その後の記憶が……。

「君。ちょっと話を聞きたいんだけど……いいかな?」

そしてダイヤの女王様の氷よりさらに冷たい宰相様の声が、部屋の
入り口からしたのでした。
アルハラ。ダメ、絶対。

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