続き→ トップへ 短編目次 長編2目次

■劇的何とか計画2

墓守領の共用スペースの一角に、ユリウスの仕事場がある。
「ユリウス、入りますよ」
陰鬱な顔で扉を開けると、ユリウスは不機嫌そうに顔を上げる。
「何だ、おまえか。今私は――」
「ユリウス〜。全ての役持ちを滅ぼす便利な道具とかありませんか?」
時計屋ユリウスは『またこいつは馬鹿なことを……』と言いたげに眼鏡を
くいっと上げ、
「そんなものがあれば、とっくに私が使っている」
ですよねー。
……え?

「で、ひどいんですよ。私の言うことを誰も信じてくれなくて。
ウサギなんてすごく腹が立ったから大金をふっかけたら『サービスして
くれたから、オマケな』と色をつけた額を置いていって、彼が帰ったあとの
グレイがまた嫉妬でひどくて――」
自分で淹れた珈琲を自分で飲みながら、涙ながらに役持ちの外道行為を
切々と訴えると、ユリウスも私が淹れた珈琲を飲み、
「物騒な地域での女一人暮らしを止めろ。でなければせめて銃を持て」
銃はちょっと嫌だなあ。
「ではユリウスのところに住んでいいですか?」
「っ!!」
言った瞬間にユリウスがむせる。
「……おまえ……何をふしだらなことを……!」
半眼で言われたので、
「へ?何で?前は泊めて下さったじゃないですか」
「前と今は全然状況が違う!おまえに悪いウワサが立ったら――」
これ以上、悪いウワサの広がる余地があるのだろうか。
「でも今の仕事はマイペースで出来るから、気に入ってるんですよね」
「マイペースだから収支がマイナスなんだろう。
仕入れも帳簿もいい加減で、しっかりしているのは、飲み物を淹れるとき
『だけ』らしいな」
グサリ。時計職人は仕事に厳しい。
「どうしてもと言うのなら、多少の金は貸してやる。それで防犯なりを
強化して、容易に侵入されない家屋にしろ」
「おお!」
さすがはユリウス。誰よりも親身になってくれる。
ユリウスは腕組みし、さらに、
「経営が芳しくないのなら、この際、店も改装したらどうだ?
露天のスタンドではなく、屋根付きの店にするとか――」
ふむ……。店をリフォームするとは、ワクワクする考えだ。
でも私は腕組みをして考えた。あいにくと建築スキルは私にない。
「どういう感じのお店がいいですかね」
「そんなこと、私が知るか。さっさと計画でも建てろ。
言っておくが、まともな文書でなければ金は出さないからな。
私も全額出すわけではない。残りの金は自分で集めてこい」
ううう、パトロン気取りが。
――でも店のリフォームですか。
上手く行けば経営改善&安全確保と、美味しいとこどりだ。
ユリウスにお礼を言って部屋を出た私は、
「では、誰か親身になってくれそうな方に相談に行きますか」
私は共同スペースのエントランスをスキップで駆け抜けた。

「ジェリコ、おじゃまします!」
扉を開けると、執務室のジェリコは嬉しそうに顔を上げた。
「ナノ、遊びに来てくれたのか!珈琲を頼めるか?
あんたの珈琲は本当に美味いからな」
「珈琲を淹れますから、私の店の改装計画と資金についてご協力下さい」
「何の話だ?」
不思議そうなジェリコ。私は珈琲セットの置いてあるところに、うきうきと
歩きながら、昨晩のことを話すことにした。
「実はですね――」

…………

「部屋を用意してやるから、そこに住め。店とプレハブは撤去しろ」
インテリ眼鏡のジェリコはニコニコと、どこかで聞いたようなことを仰る。
私もニコニコと、
「嫌です」
「帽子屋の件は俺に任せろ。連中ときっちり話をつけてやる」
さすが同業者。笑顔が頼もしい。だが、
「いえいえ。それはそのうち自分でやります。店自体は続けたいんですよ。
ただ安全と利益率を上げたいのです」
「……説教はいろいろしてやりてえが……」
「はいです。それで資金提供をお願いしたいのですが」
スルーして言葉を続けると、ジェリコがガタッと椅子から立ち上がる。
「そうだな。まあ協力については考えてもいい。ただし……」
「!?」
後ろから抱きしめられた。
「領主を動かそうってんなら、それなりの対価をもらってもいいよなあ」
「え?ジェリコ!私はそういうことを言ったのでは……!」
唐突な展開に戸惑うけど、ジェリコはどうもその気になってるみたいだった。
もがけども、彼はエリオットやユリウスに匹敵する長身。
暴れようと相手にされず、抱きかかえられ、ソファに運ばれていく。
「わっ!」
ドサッとソファに下ろされ、起き上がる間もなく、ジェリコがのしかかる。
そして器用な手つきでシャツのボタンを数個外された。
「それとお仕置きもだな。あんた、俺をイライラさせて嬉しいか?」
「は?何の話です?ていうか止めて下さい、この変態っ!!」
服の中に忍び込もうとする手に抵抗しながら言うと、ため息をつきながら、
「あんたが変な話をして、俺を煽らなかったら、何事もなく終わったんだが……」
し、下着の中に……手が……ン……そこ……。
「は?ジェリコ!止めて下さい!私は!店の改装についての計画を……!」
「そう言いながら濡らしてんじゃねえよ。じゃあやりながら話そうな。
まず店の敷地面積についてだが――」
「え?ちょっと、それはそれで……や……ン……!」

…………

…………

シャワーから出てくると、ジェリコが執務机で軽やかにペンを滑らせ、
書類を書き付けていた。
「ほら、出来たぜ。俺からの提案をまとめた計画書だ」
「どうも……」
低い声で書類を受け取ると、ジェリコは、
「気にするな。こっちも英気を養えた。他の奴らに飽きたら、いつでも
誘ってくれ。経験だけは豊富だと思うぜ。退屈はさせなかっただろう?」
薄ら寒いことを言い、片目をつぶってくる。
……たまったものをスッキリ吐き出したような、清々しい笑顔だった。

バタンと大きな音を立て、私は執務室の扉を閉める。
「やれやれ、次はどこに相談に行きますか……」
昼夜問わず、ここの人たちは何を考えているんだ。
でも私自身、相談するたびに身体で払わされるなんてたまったもんじゃない。
――私に絶対に手を出しそうにない人と言えば……。

やがて私はピンとひらめいて、歩き出した。

2/10
続き→
トップへ 短編目次 長編2目次


- ナノ -