続き→ トップへ 短編目次 長編2目次

■劇的何とか計画1

※R12くらい
※かなりいい加減なダイヤの国
※細かいことは気にしない

私はナノ。どこにでもいる、平凡な珈琲&紅茶狂……もとい、
小さなお店の平凡な少女店長でございます。

余所者として異世界にやってきた私は、紆余曲折あったものの、最近は
ダイヤの国の駅近くの、小さな通りに住んでいます。
小さなプレハブ小屋に一人寝泊まりし、露天のスタンドみたいな屋台で、
紅茶や珈琲を売って生計を立てているつもりです。

……つもりです。

こほん。さて、この不思議の国では『余所者はモテる』という夢のような
法則があるそうなのですが、あいにくと私はダメダメな上、外見は平凡、
もしくは平凡以下。
この世界の権力者たる『役持ち』にモテモテだなんてこと、あるわけが
ないのです。

……あるわけがないのです。
頼むから、当事者の同意を完スルー、もしくはご自分にきわめて
都合の良い方向に曲解し、連れて行こうとするのを止めて下さい。

…………

私がいるのはプレハブ。そして暗闇です。
「…………」
誰かが扉を叩く音で、私は目を覚ましました。
「ん……」
枕が硬いと思ったら腕枕か。軽く目をこすり、抱きしめる別の腕を押しのけ、
下着姿の上半身を起こします。
「どなたですか〜?今、誰もいませんよ〜」
あくびをしながら扉に声をかけると、
「俺だ、ナノ。グレイだ。しかし、いるのに『誰もいない』とは、
君らしくもないダラけたジョークだな」
グレイ。スーツとネクタイの似合う謹厳実直な方です。
あと寝起きの人間に、秀逸なボケを求めないで下さい。
「開けてくれ、ナノ。君に会いたくなった」
塔の補佐官、現駅長補佐のグレイ。彼は優しく礼儀を重んじる方だ。
……なのだけど、ご自分の仕事にかまけて私を放置した結果、マフィアに私を
さらわれるという苦い敗北を何度か喫している。
ゆえに彼が、時間帯問わず来襲することは多い。
かといって彼とは恋人でも何でも無し。
年頃の娘が、ホイホイ男を招くことなどありえない。
「冗談じゃないですよ。お帰り下さい」
後ろから改めて抱きしめる腕を無視し、私は言う。
「ナノ、そう言わずに――」
なおも何か言おうとすると、
「トカゲ。男と女がお楽しみの最中に割り込むもんじゃないぜ」
エリオットが、私を両腕の中に囲い込みながら笑う。
「そうですよ、グレイ。男と女が――」

…………。

…………。

何でエリオットがここにいる。
勘違いされないで下さい。×××と不名誉な噂のある私ですが、マフィアの
ボスに加えマフィアのボスの右腕と関係とか、修羅場必須のリスクなぞ
犯しません。そもそもエリオットは、ボスのこともあって、女としての私に
無関心だったはず。
それがなぜ。夜のプレハブで。私を抱きしめているのでしょうか。
――あ、ああそうだ。別に事後とは限らないでしょう。あはははは。
やだなあ、エリオットは友人。泊まっただけなのでしょう。
そして、困った私を見かね、一緒にグレイを追い払おうとしてくれてると。
私ったら不思議の国にいすぎて、銃弾飛び交う思考に染まっちゃってるみたいだ。
「エリオット……」
肩越しに振り返ると、
エリオットマーチは。上半身裸で。真剣なまなざしで、
「ところでさ、他の奴らっていくら払ってるんだ?
俺、あんたとは初めてだから、相場が分からなくてさ」
……畜生が。
そして何となく寝る前のことを思い出してきた。

あれは寝入りの暗闇の中のこと。
鍵をこじ開け入ってきたウサギは、少し酒臭かった。
『エリオット……!何を……、私は寝て…ヤダ……っ!!……止め……!』
しかしエリオットは身体をばたつかせる私を楽しそうに押さえる。
『こんな格好で寝て、待ってましたって感じじゃねえか』
ちなみに私は下着姿だった。パジャマはもちろん持ってたけど、別の役持ちに
×××され着られない状態になり捨てた。新しいものを買う金なんて無え。
『エリオット……!!』
『悪ぃ。酒飲んだら、急にその気になっちゃってさ。
行きつけの店はどこも満杯でよ。でも心配するなって。顔無しの女じゃなく、
あんただ。天国みたいな気分にさせてやるから。な?』
エリオットは上気した声で笑い、私の下着に手をかける。
『どこが、天国……止めて、いや……!』

……それ以降の詳細は省略。
思い出さない方がいいことも世の中にはある。絶対ある!
ちなみにエリオットとの行為が彼の宣言通りのものになったのかは……
回答を断固拒否します。
そして場面は戻ってプレハブ。
「ケダモノ。あなたの上司に報告しますね」
凍りつく声音と笑顔のコラボで言うと、エリオットは嬉しそうに、
「心配してくれるのか?ありがとうな!だけど大丈夫だ!
あんたの方から誘ったって言えば、ブラッドは納得するからよ!」
……する。あの男は納得する。自分が私にしてきたことを棚に上げ、
私が男と寝るのが大好きな×××だと、本気で思い込んでいるのだから。
「ナノ……」
そして私の声よりもさらに低い、爬虫類の声がする。
開いた扉から入ってきたグレイは、私とエリオットを冷ややかに見、
「三月ウサギ……おまえ……」
「は?何言ってんだトカゲ。俺はウサギじゃねえよ。
ナノに独り寝が寂しいって誘われて、ここに泊まったんだ」
しれっと嘘を吐くエリオット。私をいつも守ってくれるグレイはもちろん、
「ナノ、そういうときは俺を呼んでくれと、いつも言ってるだろう」
嘆かわしそうな声で、首を左右に振る。
言ったか。ていうか何で私よりウサギを信じるんです、冷温生物。
「で、いくらなんだ?あ、追加料金払うから延長していいか?」
私の髪に触れ、恋人そのものの仕草で、うなじにキスをするエリオット。
そして氷点下に達するトカゲの視線。

私はとりあえず、全ての役持ちが滅びますようにと願っていた。


1/10
続き→
トップへ 短編目次 長編2目次


- ナノ -