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■パーティーと私・下

そしてパーティーはつつがなく、にぎやかに進行する。
「ナノが銃を持ってただなんてショックだわ。
ボリスから聞いて、びっくりしちゃったもの」
「アリス。本人が持つと決めたんだ。ちゃんと考えてのことだろう」
「すみません。心配かけたくなくて。あ、珈琲のおかわりの方いますか?」
「いいよ、いいよ。皆で勝手に淹れるから。あ!お魚さんムニエルだ!」
「あはは。親友とその彼女をお祝いするため、川から釣ってきたんだぜ!」
「相変わらずだな。よし!それじゃあ俺からも二人にお祝いだ!
曲名!『恋人達に捧げる祝福のセレナーデ』!!」
「や、止めてくれよ、おっさん!パーティーを台無しにする気か!!」
「止めて!誰か!ゴーランドのバイオリンを止めてー!!」
えーと、おおむね、つつがなく進行したのでした。そして、
「オーナーっ!!お祝いのお酒を届けに来ましたーっ!!」
「おう!来たか!」
遊園地の従業員さんが、お酒のケースを担いできた……。

…………

そして時間帯も経過し、夜になった。
私の家には、殿方たちのイビキが響きます。空気が酒臭い……。
「エース、起きてよ!ユリウスも!」
アリス姉さんは、床で爆睡するエースさんの胸ぐらをつかむ。
「うーん、もう食べられないぜ……むにゃ……」
古典的寝言を吐くエースさん。起きる気配はない。
横ではユリウスさんも床に転がって眠っている。
「ボリス!ゴーランド!起きてよ!」
アリス姉さんは遊園地のお友達を揺さぶるけど、そちらも大イビキ。
「予備の毛布もありますし。今夜は泊まっていっていただきましょう」
奥の部屋から毛布を持ってきて、私は言った。
「そうするしかないわね。もう。お酒なんか飲むから……」
アリス姉さんはため息をつき、私たちは男性陣に毛布をかけて回った。
そしてアリス姉さんは汚れたテーブルを見、
「さて、片付けましょうか」
「え?いいですよ!アリス姉さんは主賓なのに!」
「こうなったら、主賓も何もないでしょう?さ、やるわよ!」
「アリス姉さん〜」
アリス姉さんは相変わらずお姉さんだ。


そして片付けも終わり、私は淹れたての珈琲をアリス姉さんに出す。
「どうぞ、アリス姉さん」
「ありがとう、ナノ」
アリス姉さんは座り、私も自分の紅茶を持って椅子に座る。
男性陣のイビキをBGMに、私たちは残ったスイーツを二人で片付けた。
「それでね、ユリウスが――」
「私もこの前、遊園地で――」
話題は尽きない。ユリウスさんとの同居生活、私が遊園地で銃の特訓を
していること、この家に戻ってからの生活ぶり、オシャレなお店の情報……。
そしてふいにアリス姉さんが言った。
「ねえナノ。帽子屋屋敷で暮らさないの?」
……一瞬、紅茶を噴き出すところだった。
――なぜそのことを!?
そんな私を見、アリス姉さんは意外そうに、
「ええ!?ブラッドと何もないの?」
「べ、別にそんなんじゃないですよ。私はここが性に合ってますし……」
今は元居候のコネで、遊園地でアルバイトをさせていただいている。
もちろん、アルバイトの後には射撃の訓練。
たまに時計塔に寄って差し入れをし、お夕飯をご一緒させていただき、
その後、三人でゲーム。ときどきエースさんが加わる。とても楽しい。
しかし、本当にどこからそんな情報を……。アリス姉さんは微笑み、
「あなたとブラッドのこと、結構ウワサになってるのよ?」
その目はキラキラされている……完全にウワサを楽しむ目だ。
「違うの?ブラッドとは本当に何もないの?」
「い、いえ、その……」

実はブラッドは何度も何度もこの家に来ている。
でも私はずっと居留守を使ったし、道で会ったときは慌てて逃げた。
……舞踏会のときは、衝撃的なこともあって流されてしまった。
でも冷静になると何だか気恥ずかしい。ついついブラッドのことは避けがちになり、
あれ以来ちゃんと話していなかった。手紙だって何通も送られたけど、読んでない。
――子供じゃあないんだから……。
あまりにも照れくさくて、顔を合わせられない。
好きなのに会えない、会えないうちに飽きられたら、と悶々とする日常だ。

「とにかく、私はここがいいですよ。時計塔とも遊園地とも近いですし」
何だかんだ言って中立地帯。ユリウスさんや遊園地の人の助力あって、
防犯設備も強化したし、前ほどに一人暮らしに危険を感じていない。
するとアリス姉さんは珈琲を飲みながら、
「あなたがそう言うのなら、もう何も言わないけど……」
そう言って私の手を取る。
「でも、元気でいてね」
「アリス姉さんこそ。ユリウスさんとお幸せに」
手を握り返す。
「それはおまえもだぞ……」
私たちが振り向くと、毛布をかぶったユリウスさんが身体を起こしていた。
まだ酔いが覚めていないのか、顔が赤い。
「必ず幸せになれ。私たちも力になる。なぜなら私たちは……」
何か言いかけ、言葉が浮かばないのか眉をひそめる。そして、低く、

「家族だからな」

と言い、パタリとまた倒れ、大イビキ。
アリス姉さんはくすくす笑う。
「そうね。私たちはもう、本当の家族よね」
「……はい」
胸が温かい。もう、ごっこ遊びでも誰かの代わりでもない。
血はつながっていなくとも、生まれた場所が違っていても、家族だ。
大切な人がいる。その人たちのために、私は強くなれる。
――アリス姉さんと出会えて、良かった。
「いつまでも、皆でこうしていたいですね」
「ええ」
アリス姉さんが、ユリウスさんが、遊園地の人たちがいるこの場所に。
私はアリス姉さんと笑い合った。いつまでも、いつまでも……。

…………

そして、あるとき。

「……え?」

私は道に立ち尽くす。

遊園地が消えた。
時計塔が消えた。
時計塔の近くにあった、私の家が消えた。

代わりに巨大な塔が立っている、森がある。

「……は?」
私は買い物袋を持ったまま、呆然と道に立ち尽くす。
一時間帯前までは、変わらない日常が続いていた。
何かが起こった……と意識したときには、目の前の風景が変わっていた。
突然の変化についていけず、その場に固まっていると、
「ナノ」
「――!?」
振り向くと、ブラッドがいた。
「無事に弾き出されたようだな。正直、安堵している」
「ど、ど、どういうことなんですか?いったい何が……!!」
もう気まずいとか、乙女チックに悩んでいる場合ではない。
「簡単に言えば、引っ越しが起こった。ここはもうクローバーの国だ」
「クローバーの国……」
何が何だか、さっぱり分からない。
なおも固まっていると、彼は私に手を伸ばし、言った。

「それはそれとして、君が私を避けていた件だが……ナノ」
え!?いきなりそれ!?

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