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■ブラッドと私・下

ブラッドさんの部屋。私はそこでベッドに押し倒され、いろいろマズい感じです。
ブラッドさんはうっすらと微笑み、言う。
「君は私を好きだ。だから私もそれに応じようと思う。間違っているか?」
「……ええと……」
確かにブラッドさんのことは前から、その……気になってたけど。
「間違っているか?ナノ」
「ま、間違っておりません……」
威圧するように言われ、つい肯定してしまう。
ブラッドさん、案の定ニヤリと笑い、押さえつけている手を外し、私が
着させられているネグリジェに手をのばそうとする。
「なら問題はないな。では……」
「ちょ……ま、待って!お願いだから待って下さいっ!!」
「安心しなさい。最初だから、優しくするさ。君は全て私に任せるといい」
「いえ、そういう心配をしているのではなくて!!」
ベッドに貼りつけ状態でもがいていると、ブラッドさんはため息。
「仕方のない子だ。なら、あと一回くらいなら聞いてあげよう」
「え?あ、どうもすみません……」
「私がここまで言うことを聞くのは、君だからだ。ありがたく思いなさい」
「はい、どうも……」
……て、何て恩着せがましい!見ようによっては犯罪でしょう、これ!

押し倒されたまま、私はブラッドさんから目をそらす。小さくポツリと、
「……マフィアのボスのお遊び相手なら、他の方をお願いします」
「私が遊びで、君に手を出そうとしている。そう思っているのか?」
ブラッドさんの声が少し低くなる。
「だって、そうでしょう?」
「……ナノ」
片腕の枷がなくなり、ブラッドさんが私の頬を撫でる。
優しくされ、私はちょっと泣きそうになりながら、
「銃を教えていただいたり、何度も助けていただいたりしたことには感謝
しています。でも、代償が欲しいのならお金でも何でも払いますから……」
「私が嫌いか?」
「いいえ。でも、あなたが私にこうする理由が、分からないんです」
今になって自覚する。
私はブラッドさんのことが好きだ。
求められて、本当は嬉しい。
でも、ブラッドさんはマフィアのボスだ。
対する私は二番目の余所者。容姿も平凡なら、能力も秀でたところがない。
遊びで、手を出されかけているとしか思えない。
捨てられる。一時は幸せでも、後で深く傷つく。
「私は、アリス姉さんじゃないのに……」
アリス姉さん目当てで声をかけたんでしょう?とブラッドさんの目を見る。
「――っ!」
言葉の代わりにキスが返ってきた。

「本当に仕方のない子だ」
ブラッドさんは笑い、今度こそ私のネグリジェに手をかけた。
「え?わ、私の話、聞いてました!?」
まあ説得して逃げられるとは思ってなかったけど。で、でも心の準備が!
「ん……」
最初に唇、次に首筋にキスをされ、緊張と期待で声が上ずる。
「アリスのことを、好ましいと思う時期があったことは確かだ」
「…………」
ちょっと心が痛い。けれど事実だ。この世界の人は、私も含めて誰もが
アリス姉さんに惹かれていた。私はそれを、半分誇らしい思いで見てきた。
あとの半分は……劣等感で。
「だが彼女目当てで、君を歓待した覚えはない。
最初、君を構った理由は……そうだな。ただの暇つぶしだった」
ネグリジェの肩紐を下ろし、肩の傷に口づけながら言う。ん……っ。
「君自身を見るようになったのは、君が銃を撃ったときだ」
腕を撫で下ろし、腰から腿へ。傷さえもいとおしげに撫でて。
どうしてだろう。ただ触れられているだけなのに、こんなに気持ちいいなんて。
「君は、撃つときの表情が良い」
いつか言われた言葉だ。そういえばボリスさんにも言われた。
顔を上げて、まっすぐ銃を向けるときの私が、きれいだと。
そしてまたキス。ん……舌が入ってくる感覚にまだ慣れなくて恥ずかしい。
「や……」
腰から、ブラッドさんの手が服の中に入ろうとし、恥ずかしくて首を振る。
でも意地悪な笑みを浮かべ、ブラッドさんは私の素肌に手を忍ばせる。
私も、それ以上は止めない。全身がただ熱い。
「銃を持ち、的に向かい、撃ち、全てから解放された瞬間。
君は本当に清々しい笑顔を浮かべていた。
何もかも脱ぎ捨てた、ありのままの君がそこにいた」
撃つ瞬間は、いつも頭が真っ白ですが。笑ってたとかマジですか!
「なぜだろうな。それきり私は、君から目が離せなくなった」
静かに言って、もう一度キス。
なぜだろう、さっきとは別な理由で、ものすごく泣きそうな気分だった。
「まだ信用出来ないのなら、いくらでも話してあげよう。君に惹かれたワケを」
「いえ、もういいです!十分です!」
恥ずかしいし。
「ずっと、君を大切にする。君がこの世界に来てくれて良かったよ。ナノ」
ネグリジェをゆっくりと脱がしながら、笑う。

「私も……私も、あなたに出会えて良かったです。ブラッド」
微笑み、今度は私の方からブラッドにキスをする。
それきり、私たちはベッドに沈んでいった。

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