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■遊園地と私・上

銃を持ち、的に向かう。
姿勢は心もち前。利き手で銃のグリップを軽く握る。
人差し指はまっすぐに。逆の手は銃を持つ手にそえて。
銃口をまっすぐ目標へ。少し離れた場所に、人型の練習用ボード。
引き金を引き――撃つ!鼓膜を打つ轟音、全身にかかる反動を受け止める!
ボードの肩の内側に穴が空いた。
あれでは全然ダメ。もう一発!
今度は腹部の真ん中。また外れた。
さらに撃つ!
発射時の反動も、おおむね身体で吸収出来るようになった。
撃つ!
弾がボードの的を外すことも、めったに無くなった。
そして素早く弾倉に銃弾を装てん。
また――撃つ!連射!
そしてどれだけ撃ったのか、やっとボードの胸と頭に穴が空いた。

パチパチパチ……。
後ろから拍手の音が響いた。
私は、荒い息をつきながら、振り返った。
「ボリスさん。止めて下さい」
ここは遊園地の射撃場コーナー。今、利用しているのは私一人だ。
そして見物客はボリスさん。柵にもたれ、猫っぽくくつろいでいる。
「そう?素直に喜んでいいんじゃない?初めて狙ったところに当たったんでしょ?」
射撃場の柵にもたれ、楽しそうに目をキラキラさせながら言う。
『狙ったところ』と言われると嫌だけど、事実だから仕方ない。
「もっとさあ、色んな銃で撃ってみない?
あ!俺のコレクションを貸してあげるよ!
何がいい?たくさんあるんだ!威力を試したいんなら44マグナムとかお勧め!
あ、でも女の子だからワルサーP38とかFNブローニングの方が好き?
それともスタンダードに9ミリパラベラムの――」
「いえ、これでいいですよ。手になじんでますし」
ブラッドさんにいただいた拳銃に、また弾丸を装てんする。
正確な射撃には正確な照準。そのためには、自分の銃のクセを身体で覚えるのが
重要。そう帽子屋屋敷で聞いていた。
格好いいとか、撃ちやすいとかで、コロコロ銃を変えない方がいいらしい。
――でもワルサーP38という響きには、何やら心くすぐられるものが……。
「じゃ!撃ち方のコツを教えてあげる!」
ボリスは前転するようにクルッと、柵の向こう側からこちら側に来た。
「コツが分かればグッと上達するって。まだ身体が硬いんだよ。こうしてさ……」
私の肩や腰に普通に触れ、姿勢を直してくれる。うう、ファーが当たる。
「ところでさ、ナノ」
「わっ!」
耳元でささやきかけられ、銃を落とすところだった。ボリスさんが私の手を押さえ、
「おっと、危ない危ない。あのさ、ナノ。
アリスが、そろそろ遊びに来ないかって言ってたよ」
「アリス姉さんが……」
そういえば時計塔で別れて以来だ。
「ナノが全然構ってくれないって、ちょっとイジケてたよ」
「…………」
少し複雑。私はアリス姉さんたちを、守りたいと銃の練習をしているから。


……あのとき。ユリウスさんがアリス姉さんに、決定を告げた。
それぞれが別々の場所で暮らすことになったと。理由は伏せて。
アリス姉さんは最初、冗談だろうと笑い、二人して何を隠しているのかと訝しげな
顔になり、最後に、そんな急にと怒り出した。
こんな激しい一面があったんだ、と私が驚いたくらい、怒って怒ってユリウスさんを
怒鳴りつけていた。ユリウスさんは無言で、それに耐えていた。
もちろん私にも、何があったのか、本当にそれでいいのかと詰問してきた。
私もうつむき、黙っていた。
……アリス姉さんは頭の良い人だ。
ずっとだんまりな私たちの態度に、察するものがあったのかもしれない。
最後は受け入れてくれた。
それに……まあ、好きな人と、今からずっと一緒に暮らせるんだしね。
そしてお別れの珈琲タイムもそこそこに、ボリスさんが迎えに来てくれた。
さあ遊園地に、というとき、アリス姉さんは私をギューッと抱きしめた。
涙をポロポロこぼし、
『遊びに来てね。あなたが教えてって言ってたお菓子の作り方も、編み物のやり方も
全部教えてあげるから……それから三人で夕食をとって、ゲームして……』
泣くほど思ってくれてたんだ、とじーんとしたものの、いつまでも泣き止まず、
皆、困ってしまった。そして私たちは別々の場所で暮らすことになった。

聞いた話では、ユリウスさんとの念願の同居生活は、良好だそうだ。
噂ではユリウスさんが昼夜問わずアリスさんを離さず……ご、ゴッホン、ゲホン!!

そして私は遊園地に行き――昼夜問わず射撃場にこもっている。
おかげでレベル1くらいは脱したんじゃないだろうか。

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