続き→ トップへ 短編目次 長編2目次

■3話「私と陛下」

アリス姉さんは素敵な人です。
そんな人が、大輪の薔薇のような女王陛下と並ばれると、さらにお素敵です。
「……ナノ。何で、あなた、そんな部屋のすみっこにこぢんまりと座ってるの」
女王陛下のお部屋で紅茶を飲むアリス姉さんは、困ったお顔です。
私はというと、陛下のぬいぐるみの中に埋まり、お二人を鑑賞しておりました。
いえ、別に女王陛下が怖いというわけではなく。
「もう、本当に人見知りなんだから……」
「そうじゃ、ナノ。おまえもこっちにおいで。
そこまでじっとしておると、ぬいぐるみと間違えてしまいそうじゃ」
女王陛下も手招きされましたので、私はぬいぐるみさんにお別れを告げ、とてとてと
お二人の元に参りました。二人の間にちょこんと座りますと、
「ナノ様、どうぞ。ローズヒップティーですよ」
「どのケーキをお召し上がりになりますか?何でもお持ちいたしますよ」
メイドさんたちが嬉しそうに、私に世話を焼いて下さいます。
な、何か居心地悪いですね。やっぱり見ているだけの方が良かったです。

お二人の間で緊張にぶるぶる震えていますと、
「ビバルディ、あんなに大量の高級品を送ってこなくてもいいわ。
私とナノの二人暮らしなんだから」
アリス姉さんは私の頭を撫でつつ、女王陛下とお話します。
陛下は優雅にケーキを召し上がり、なぜか私のあごを撫でてきます。
くすぐったい。やめてー。
「わらわではない。ほとんどはホワイトの奴じゃ。
おまえたちも、贈り物が嫌なら城に移れば良い」
女王さまは親切強盗のような御方です。
でもメイドさんたちも話を合わせます。
「そうですよ、アリス様、ナノ様!」
「どうぞ、お城にお住みになって下さい!」
「薔薇園の見えるお部屋を用意いたしますよ!」
「カーテンや壁紙のお色にご注文があれば、私どもにお任せを!」
私が返答出来ず、真っ赤になってうつむき、困っていますと、
「ありがとう。でも私たちは、今の家の方が合ってるの。ね、ナノ?」
アリス姉さんに言われ、私もあわててうなずきます。アリス姉さんは、
「それより、ビバルディ。ご親切のお返しをさせていただきたいの。
この前みたいに、裁判のお手伝いをしていいかしら?」
……かなり強引な話のそらしようです、アリス姉さん。
しかし女王さまは目を輝かせ、
「おお!もちろんじゃ。裁判など面倒で仕方ない。全員、死刑にしようと思って
おったのじゃ。アリス、私の代わりに斬首を言い渡してきておくれ」
すると、アリス姉さんは少々冷や汗を浮かべつつも、
「わ、分かったわ。私が全員に判決を出すから、ビバルディは休んでいて」
私の頭の中には、感嘆と感動しかありません。
アリス姉さんは頭のいい方だと思ってましたが、まさか司法知識があるなんて!
「ナノ……あの、そこまでキラキラした目で私を見ないで……。
本当に、そこまで大げさなものじゃないから……」
アリス姉さん。なぜか、たいそうお困りのご様子です。
姉さんはフラフラと陛下の部屋の扉に向かわれました。
さて、アリス姉さんが颯爽と裁判長を務めるなら、是非とも見てみたいものです。
私もついていこうと立ち上がりますと、

「これ、ナノ。どこへ行く」

ガシッと、私の手首がつかまれました。
――え、ええと、私もアリス姉さんのお手伝いを……。
ぶっちゃけ、私一人だと緊張して居づらいです。今度は私が汗をダラダラ流します。
メイドさんがいるとはいえ、陛下のお部屋には陛下と私。
人見知りの私には、完全なるアウェーです。
「一人で遊ぶなどつまらぬ。ナノ、わらわの相手をおし」
命令でした。慌ててアリス姉さんを目で探すと、聞こえていたのかいないのか、
すでに姿を消されていました。
そしてメイドさんたちはというと、目で私に『抵抗しないで』と懇願してきます。
――ちょっと待って下さい!緊張で胃が溶けます!誰か助けて!!
「よし、おまえ『で』、お人形ごっこじゃ、ナノ」
なぜ”おまえ『で』”であり”おまえ『と』”ではないのでしょう。
「よし、まずは着せ替えじゃ!!」
――いやああっ!!
スッと抜かりのないメイドさんが、女王陛下に何かを渡しました。
それは等身大ドール服のごとく、少女趣味全開の可愛らしい服です。
それを持ち、私にじりじり近づいてくる女王陛下。
「あ、あの……私、やっぱりアリス姉さんのお手伝いに……」
か細い声でボソボソ呟き、逃げようとしましたが、
「まあまあ、そう仰らず!」
「楽しく遊びましょう、ナノ様!!」
やけに鬼気迫る声をもって、メイドさんたちに両側からガシッと押さえ込まれます。
「え?ちょっと、あの……!」
「よし、おまえたち、その子の服を全て脱がしておしまい!」
と陛下。全て?……て、よく見ると女王陛下は服だけでなく下着もお持ちでした。
「全てって、ちょ……っ!」
抵抗する間もなくメイドさんたちが、私の服を脱がしにかかります。
陛下は楽しそうなお顔で、
「ほら、抵抗しても無駄じゃ、大人しくおし」
「ナノ様、暴れないで下さい。後が辛いですよ」
――メイドさんたちが妙にノリノリになってきたあ!!
「うふふ。なんか抵抗されると興奮しますね」
「私も。何だか変な気分になってきました」
……何でしょう、何か起こるわけでもないのにこの異様な雰囲気。
「あらまあ、ナノ様。可愛らしい××××……」
優しい優しいメイドさんたちが伏せ字な言葉を口走ったところで、
「いやぁ!!た、助けてください!誰かーっ!!アリス姉さんーっ!!」
耐えきれず、ついに絶叫が私の口から出ました。
しかし皆さんは、さらに楽しそうに憐れな少女を押さえつけるのでした。

…………

裁判を終えて私を迎えに来たアリスさんによると、私はお人形さんのような格好で、
陛下やメイドさんたちに愛でられていました。
しかし虚ろな瞳で膝を抱えて、ブツブツ独り言を言っていたそうです。

そして、その後さらに引きこもり&人見知りが加速し、しばらくアリス姉さんを
困らせたのでした。

3/32
続き→
トップへ 短編目次 長編2目次


- ナノ -