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■2話「アリス姉さんと迷子」

ニコニコと森の道を歩いて行く。
長い栗色の髪を追いかけて。
空は雲が流れ、森の木々は新緑の葉を揺らしています。
「天気がよいですね、アリス姉さん」
「そうね、ナノ」
アリス姉さんもニコニコしています。
私たちは仲良く森を歩きます。まるで童話の中の風景になったみたい。
そんな素敵な気分でした。
「あ、リンゴですよ、アリス姉さん!」
上に見えたものに、パッと顔を輝かせて、指差します。
少し高い木の枝に、真っ赤なリンゴが実っていました。
虫さんが食べた様子のない、真っ赤に熟したリンゴです。
「美味しそうですね……」
つばをゴクッと飲み込みました。
ですが、あんな高いところにあっては取れないでしょう。
するとアリス姉さんは、
「大丈夫よ、ナノ!」
と私にウインクします。そして……
「ね、姉さん!何をするんですか!」
木の幹にしがみつこうとしたアリス姉さんを、私は慌てて止めました。
「大丈夫。こう見えても下町の学校に通ってたのよ?木登りくらい任せて!」
アリス姉さんは、すっかり子供に戻ったみたいでした。
「ダメ!ダメですよ!お洋服だって汚れますし!!」
というか危ない!落ちたらどうするんですか!!
「心配しすぎよ、ナノ。ちょっと待っててね」
「危ないですよ、アリス姉さーん!!」

そのとき。
ヒュッと風を切る音がしました。
そして、プツッと何かが切れる音がして……。

『え……?』

不思議の国にも万有引力の法則があると、証明するがごとく。
リンゴが枝から切り離され、垂直に、落ちて参りました。
私の手の中に。

「……わっ!」
ドサッとリンゴの重みを感じ、声を上げた。
だ、誰かが石ころで枝を切った……?
「え?ナノ、あなた、何かやったの?」
木から下りて、アリス姉さんもリンゴを凝視します。
「まさか!アリス姉さんがやったんじゃないんですか?」
「出来るわけないわよ、そんなこと!」
「私だって出来ませんよ!」
喜びより戸惑いで、あわあわしていますと、後ろから、

「二人とも!リンゴは俺からのプレゼントだ!」

「……っ!!」
瞬間、アリス姉さんの顔が強ばります。
声はさらに続き、
「よーし!久しぶりに会えた記念に、三人で旅でも――」
「ナノ、行くわよ、早く!!」
さらに次の瞬間、最後まで聞かずアリス姉さんが私の腕を引っ張った。
「わ……!あ、アリス姉さん!!」
リンゴを落とさないよう、しっかり持ちながら、慌てて姉さんの後に続く。
「おーい、二人ともー!照れなくったっていいだろ?あはは!」
後ろからは謎の笑い声。
振り向こうとしますと、アリス姉さんは鋭く、
「ナノ、振り向いちゃダメよ!!」
「ね、姉さん?リンゴはもしやあの方が?でしたらお礼を……!」
「だまされないで!あれは山野をさまよう妖怪『オレッテ・フコウダカラサー』よ!
目があったら崖の下に引きずりこまれるわ!!」
そ、それは尋常ではないような……でも……。
「ですがアリス姉さん!私、あの声の方に心あたりが!」
「逃げるのよ、ナノ。心配しないで。あなたは私が守るから!!」
「は、はあ……どうもありがとうです……」
こういうモードのときの、アリス姉さんのお言葉は絶対です。
私は戸惑いつつ、手の中のリンゴをかじるのでした。

そして帰りの道中、山野をさまようその妖怪には、ついに会うことはありませんでした。

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