続き→ トップへ 短編目次 長編2目次

※この話は日だまり時計の加筆修正版で、途中から少し展開が変わってます。
元々のお話(未完)が読みたい方は、上のリンクからどぞ〜。

夢主:アリスと同居する余所者の少女。引っ込み思案で人見知り。

■1話「アリス姉さんと私」

時計塔近くの通り。
そこに、小さな家が一軒建っていました。

……………

窓の外はスカイブルー。
窓辺には透明な花が揺れています。
私が水差しを傾けますと、緑の葉っぱがキラキラ光って喜んでくれました。
「〜〜〜♪」
私は適当に歌を歌いつつ、水差しを片づけます。
そして戸棚を開け、お姉さんのためにケーキと紅茶を淹れる準備を始めました。

…………………

ハーブティーを淹れ、お店でもらったティラミスを切り分けた頃、玄関の呼び鈴が鳴る
音がしました。それを聞くと私は飛び上がり、キンガムチェック柄のエプロンを慌てて
外しました。飛びつくように木の扉に走り、扉を開けます。

「おかえりなさい、アリスお姉さん」
「ただいま、ナノ」
私を見てニッコリ笑う、長い髪のエプロンドレスのお姉さん。
手にはいい匂いのする紙袋を抱えています。
「ナノ。ゴーランドがジンジャークッキーをくれたわよ」
私はほこほこ暖かい包みを受け取るとお皿に並べに行きます。
「姉さん、今回は遊園地にお手伝いに行かれたのですか」

…………

ここは不思議なことだらけの不思議の国。
『余所者』として暮らすのは、私ナノとアリス姉さん。
私たち二人は、どこの領土にも属さず時計塔近くに二人だけで暮らしています。
余所者は好かれるものです。
二人の小さな家には、白ウサギさんはじめ、色んな領土の人が生活必需品を下さいます。
でもアリス姉さんは『それじゃ、申し訳ない』と色んな領土にお手伝いに行きます。
私は家事をしながら、アリス姉さんの帰りを待ちます。

…………

「アリス姉さん、座って下さい。ハーブティーが冷めてしまいます」
私が椅子を引くと、アリス姉さんは複雑なお顔をされます。
「ナノ、何回も言ってるけど、敬語は止めて。
それと、姉さん、じゃなくて『アリス』でいいわ」
私は小首を傾げ、言われた意味を吟味します。
「姉貴?」
「いやいや、ダメだってば」
「……姉御?」
「もっとダメ!」
「アリス兄さん!」
「いえ、そういう意味じゃないの」
苦笑されました。
アリス姉さんは木の椅子を引き、早速ティラミスをフォークで切ります。
一口食べて顔をほころばせ、
「あら、いい店を見つけてきたのね」
「お皿洗いを×時間帯やって、いただきました」
配給は多けれど、自由に使えるお金はそれほど多くありませぬゆえ。
得意になって言うと、アリス姉さん、しばしの沈黙。
「……あのね、ナノ。あなたは働かなくていいわ。お手伝いは私が行くから」
それは心外なお言葉です。
「私もお姉さんのお役に立ちたいです」
「ナノ。この世界は物騒なのよ。もしあなたに危険なことがあったら……」
アリス姉さんは悲しそう。アリス姉さんは、遅れて不思議の国にやってきた私を、
実の妹のように可愛がって下さいます。
「他の役持ちに会うのは、そんなに怖い?」
「そういうワケではないのですが……」
「なら、一緒にお手伝いに行きましょう?今度は時計塔にいくの。
ユリウスがこの間、珈琲豆を届けてくれたから」
アリス姉さんは優しく笑います。
私は顔を少し赤くしてうなずきました。

…………

「…………」
「おい、そんな泣きそうな顔をすることはないだろう」
ユリウスさんは、ちょっと傷ついたようなお顔です。
「ナノ〜。別にユリウスは、かみつくワケじゃないんだから……」
アリス姉さんも、ちょっと困った顔です。
私はというと、アリス姉さんの後ろに隠れ、エプロンドレスの裾を握っていたり。
「その……ほら、来い、来い。菓子をやるから」
「ユリウス〜、子猫を手なずけてるんじゃないんだから。
……ほら、ナノも頑張って。いつまでも人見知りじゃダメよ」
「は、はい……」
アリス姉さんの後ろに隠れ、まだまだ不思議の国になじめていない私でした……。

1/32
続き→
トップへ 短編目次 長編2目次


- ナノ -