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■決勝戦!・中

私はベンチに座り、息を整えていた。この××××が……。
「愉しかったよ、お嬢さん。趣向を変えるのも悪くは無い」
かたわらで悠然とタイを結び直しながらブラッドは言う。
待合室で×××とは、本当に何て野郎だ。
「こんな状況で×××だの×××××だのは勘弁してほしかったですよ」
「だが君も興奮していただろう。××××のときなど、可愛い声で私にねだ――」
「わー!わー!わー!」
真っ赤になって両耳に手を当て、大声。でもブラッドの笑う声は聞こえる。
「場所とか状況とか、もう少し考えて下さいね」
私も疲れ気味にボタンをとめながら言う。
え?××シーンの詳細?ええ、いつも通りですよ。
ただ、ベンチにうつぶせにさせて×××ってのは……ゴ、ゴホン!!

「さて、それでは一足先に屋敷に戻るとするか」
服を整えたブラッドは、もう一度だけ私にキスをし、背を向けた。
行く先は待合室の出口。どうやらブラッドは、一足先に夢の世界を抜けるらしい。
「決勝戦を見ていかれないんですか?」
ここまで来たからには勝ってみせる!貧弱な頭なりに策はいくらでもあるんだから!
と、私が拳を握ると、ブラッドはフッと笑い、
「全面戦争の準備がある」
「へ?大規模な抗争でも?」
それは尋常じゃ無い。ギョッとしてブラッドを見ると、
「君もすぐに分かる」
と帽子をキザに被り、私に片目をつぶると、振り返らず待合室から出て行った。
「…………?」
ともあれ足音が小さくなり、私は肩を落とす。うやむやにされた感はあるけど、
何だかんだでブラッドとのわだかまりがちょっと解けた気がする。
相変わらずボスはボスだ。今回は珍しく、優しかったし……こ、コホン!
不健全なことは何もありません!キスして楽しくお話して終わりました!
…………。いつか、本当の意味で勝ってやる。
そう拳を握りしめるナノだった。


そして、そして……ついに決勝戦が始まりました!



空は雲一つない青空。会場は満員。そして歓声、歓声、大歓声!!
私は風に吹かれ、その中心付近に立っている。
さて、最後だし、私もちょっと自分のレベルを確認してみますか。
役持ちをかなり倒したんだもの。そう思い、あの電光パネルを見上げる。
きっとRPGみたくレベルがドドドっと……。

『name:ナノ
 HP:54
 攻撃力:2.37
 レベル:2.0
 階級:余所者(m9(^Д^))』

「視力ですか、私のレベルは!!」
怒号が歓声に飲み込まれてゆく。い、いや最初期のレベルが0.15だったことを思えば
約13.3倍のパワーアップなんだけど……。
HPも13→54と約4.15倍のアップだし。
……なんで電卓が必要になるレベルアップの仕方なんでしょう、私。
というか何なんすか、あの階級。
見慣れないはずなのに、ものすごい殺意を抱かせる。

「ナノ」
そして私を呼ぶ声がする。

ついに出会ってしまった決勝戦の相手。
グレイ=リングマーク。
彼とのレベルの開きたるやいかに。

『name:グレイ=リングマーク
 HP:3476
 攻撃力:369
 レベル:62
 階級:役持ち(お母さん)』

……ん?何だろう。ものすごい違和感が。
いえ、違和感を抱かせない点に、違和感があるというか。
何か重大なとこが間違ってる気がするんですが、むしろ何も間違ってないような。
間違ってると思うことが間違いのような。
……何か頭が混乱してきました。まあ、いいや。

「負けませんよ。余所者なりにここまで来たんですから!」
風に髪をなびかせ、私は言う。
もう戦う相手は残りグレイ一人しかいない。だからこちらが引く理由もない!
ブラッドから聞き出した知識だってあります。
……まあさすがにマジで危険なものについては、教えてくれなかったけど。
それら小規模な爆発物で足場を崩し、接近をはばみつつ、シャベルだのヤカンだので
地道にHPを削っていこうという、ショボ……持久戦に持ち込むつもりだった。
自分で認めるのはおこがましい気もしますが、グレイは私に惚れて下さっている。
あまり乱暴な真似はしてこないだろう、という甘えもちょっとあった。
もちろん私の方は、逆にどんな甘い言葉を弄されようとだまされるつもりはない!

だけど対するグレイは無言だ。
他の役持ちのように不安にさせたり、警告したりすることもない。
ただ私と同じく、髪をかすかに風になびかせ、私を見る。
……全身武装のナイフの重みでコートがなびかないのがちょっと怖いけど。

そして……そして……!!

『決勝戦、開始ーっ!!』

と司会さんの最大のテンションの声が響き渡る。

「グレイ、最初から本気で行きますよ!!」
私はやる気満々で、ニトロの生成式を頭に浮かべようとした。
そのとき、グレイがあまりにいつも通りの声で言った。

「ナノ、ある人物から預かり物がある」


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