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■決勝戦!・上

さて、ナイトメアの生み出した夢の空間で行われてる何とか大会。
余所者の少女ナノ!
数々の幸運と偶然と事故とチートに頼り、ついに決勝戦まで来ました!
『実力』には茶葉ひとつかみほども頼ってませんが……。

んで、例によって待合室である。

いつもならナイトメアと、次の試合の対策やらうまい棄権法やらを話し合ってきた。
でも私の頭の中は静か。もう私一人しかいない。
……調子にのって危ない戦い方をしすぎて、助言拒否されてしまったのです。
でも完全に静かってわけでもない。
現に遠くから大歓声が聞こえてくる。
決勝戦を待つ、不思議の国の皆さんの声だ。
そりゃそうだろう。
アクシデントも大きいとはいえ、余所者の小娘が決勝戦進出だもの。
前代未聞の事態に、客席の興奮は最高潮のよう。
どとうの歓声が、地面まで揺らしている。そんな錯覚にさえ陥る。

「さて、どうやってグレイに勝った物ですかね」
ハートの騎士に勝るとも劣らぬ剣客にして、手練れの元暗殺者。
「やはり、何とか言葉巧みに油断を誘い……」
「君のアイデアにしては悪くはない」
腕組みをし、壁にもたれたブラッドが言う。
「油断を誘い、そこをグサリ、か」
グサリって何ですか、ご主人様。

さて、なぜ待合室にブラッドがいるか。
わたくしナノ。愛と勇気と知恵と紅茶で、マフィアのボスに勝利しました。
それはいいんだけど、この何とか大会……勝った側が『敗者の武器または敗者自身を
もらえる』という無茶苦茶なルールがありまして。それをいいことに、気絶から回復
した我らがボスは、速効で待合室にいらっしゃったのです。
あの妙なデザインのステッキでももらい、さっさと追い返そうとしたのですが……。

「何を考えてるんですか、この変態!!」
待合室のベンチに押し倒されています。
私は両手でボスの身体を突っぱね、抵抗する。
「何って?決勝戦の方針も決まったし、あとは英気を養うのみだろう」
「あなたの英気を養ってどうするんですか!戦うのは私ですよ!?」
「乱暴な手段を使ってでも私に勝利し、私が欲しかったのだろう?
その可愛らしい願望にささやかながら応えたくてね」
「この……××××……!!」
しかしブラッドは私の手首をつかみベンチに押さえつける。
余裕の表情でこちらの髪をなで、首筋にキスを……ん……ぅ……!!
「ふむ。悪くはない反応だ。
私としばらく会えなかったのが、そこまで寂しかったか?」
私の上着のボタンを一つ外し、満足そうに言うブラッド。
……いえ、会えなかったのでは無く、全力であなたから逃げていたのですが。
しかも待合室のベンチは意外とデカいのだ。
長さはともかく横幅がある。不自然なほどに。二人乗ってもビクともせぬほどに。
まさか『敗者自身を欲しがる』勝者は予想以上に多いとか……いえ、まさかね。
「相手が欲しくてニトロ使うとか、どんな心の病の方ですか!」
とりあえずブラッドの言葉にツッコミを入れ、もがいてやる。
こっちの足の間に膝を割り入れないで!あと膝で変に刺激しないで下さい!
何かちょっと……変な気分、に……。
「恋の病とは、いつも人を愚かしくさせるものだ」
ちなみにブラッドの言う『恋の病』にかかり『愚かしく』なっているのは私らしい。
「場所をどこだと!ふざけるのもいい加減に……この……!」
「敗者は私だ。私が君に尽くすというのも、たまには悪くない」
暴れる私を押さえつけ、服のボタンを外そうとするブラッド。
「いえ、ちょっと……そういうのは表で……」
しかもこの状況で、どう私に尽くそうとしてるんですか、この唯我独尊な方は!!
必死にもがく!もがく!もがく、が……。

「ナノ、今の私は、君の物だ」
「ん……」
「だから、私も少し意地悪をしよう」

覆い被さられキスされる。でも、なぜか優しいキスだった。
触れた舌から、ほのかに紅茶の香りがする。
服からは、薔薇と紅茶と硝煙の混じる変な匂い。
本当は嫌いではない匂いだ。心のどこかが痛い。

「ナノ……」
ブラッドは私を抱きしめ、角度や深さを変え、何度もキスをする。
熱い……身体の奥が熱い。きっと戦いの興奮とブラッドの熱のせいだ。

気がつくと私の抵抗は完全に止まっていた。
代わりになぜか両腕が、ブラッドの背中に回されている。
「可愛いことだ」
分からない。さんざん酷いことをされた相手に、なぜこうしてしまうのか。
私もちょっと疲れているのかもしれない。
それが決まり悪くて、自分からブラッドに唇を押しつけつつ、素っ気なく言う。
「私、あなたをもらうか、あなたの武器をもらうか、まだ言ってないんですが」
自分が勝者だと遠回しに主張してみる。
つか、本当にそのステッキ下さいよ。ステッキ!
私もあの魔法っぽいやり方で、薔薇のお手入れとかしてみーたーいー!
「君は私の物だ、お嬢さん。だから君の選択肢も全て私の手の内にある」
え?それって、変形ジャイアニズム……コホン。場にそぐわぬ用語でしたな。
「ねえブラッド。ベンチって、ソファ以上に不安定なんですが……」
もう回避は不可能とあきらめてしまう。
まあ、どうせまた、落ちたら支えるとか言い出すんでしょうね。
と思っていると視界がフワリと回転し、身体に重力の重みが来る。
「え!?ちょっと、ブラッド、何を……」
慌てて自分の位置を確認すると、ブラッドがベンチに座り、私はその膝にまたがって
ブラッドに向き合う姿勢にさせられている。
重くないのかと、ちょっと不安になったけど、私を支えるボスはビクともしてない。
「これで問題はない。君の可愛い姿もよく見える」
そう言って私を抱き寄せて、また優しいキスをする。私は呆れながら、
「自分が負けたからって、お忘れじゃないですか?今は決勝戦直前ですよ?」
「君も忘れていないか?ここは夢の中だ。時間など、表以上に無意味だ」
ブラッドは背中に手を回し、私をやや強引に抱き寄せ、キスしながら言う。
「そうかなあ……」
会場の歓声は遠く、決勝戦はまだまだ始まらない。
私もあきらめ、ブラッドのタイに手を伸ばした。

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