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■準決勝戦!・3

そして。勇敢な余所者の小娘ナノ。
薄幸の少女はちょいと前のトラウマを清算すべく、宿敵ブラッド=デュプレと死闘を
繰り広げるのであった。
「すみません、すみません、すみません!マジすみません!調子こいてました!」
……叫びながら、私は闘技場内をひた走る。
「いくら前回の恨みがあったとはいえ、ニトロであなたを爆破しようとか、本当に
本当にすみませんでしたあ!!」
ひたすら謝罪しまくりながら、ナノさんは走るのであった。
……むろん、振り向くたびに、いろいろなものを投げつけながら。
爆音、振動、飛び散る石片、歓声。
もはやレベルも数値も関係ない。
ナノさん、不思議の国の爆弾魔となりました。

「詫びながら、爆発物を投げつけるのは止めてもらおう!」
どうにか鼓膜も治りました。
しかしブラッドの声にも、いい加減マジギレが混ざり始めている。
うわっ!頬の横をナイフがかすったあ!
ちなみにブラッドはご愛用のマシンガンを使っていません。刃物です。
やはりマフィアだけあって、近接戦も慣れたものだ。
まあ下手にマシンガンを使えば、火気でどんな大爆発を誘引するか分からない。
よってブラッドは私の爆発物を交わしつつ、私を捕まえようとしているのである。
もちろん、私も捕まるわけにいかない。しがない余所者のプライドにかけて。
マフィアのボスに、この頭脳戦で勝ってみせる!!

そして、手の中に出現した瓶入りの液体を投げる!!
「NI3こと三ヨウ化窒素!名前は地味ですが、少量でも爆発したりするんですね!」
私が出したブツは、今、ブラッドの目の前でど派手に爆発しました。
しかも立ち上る紫色の煙はヨウ素蒸気。ちょっとヤバ気です。
でも見事に煙を割って、ブラッドが苦しげな顔をしながら走ってきた。
両腕で直撃をどうにか押さえたらしい。そしてギロリと私を睨む。
「ナノ……」
「なかなかやりますね、ブラッド」
「…………」
殺気が無数の槍のごとく私をさす。
うーむ。昼行灯(あんどん)に見えて、あの身のこなし。
腐ってもマフィアのボスですなあ。
でも上手く使えば、銃よりも爆弾の方が有効な気がしてきた。
「何で他の方は、私みたいに爆弾でやらないんだろ。さて、お次は――」

「君の悪いところは、少しでも上手く行くと調子に乗ることだ」

ブラッドの声に背中がゾクリとした。
短くはないつきあいだから、分かる。
ブラッドは本気だ。

気がついたときには、ブラッドが手の中に何かを出していた。
小さな小さな筒状の何か。なのに……どうしてか汗が出る。

「君に出来ることは私にも出来る。なぜそう思わない?
私はマフィアのボスで、エリオットと門番たちの上司でもある。
より毒性を持ち、君の自由もしくは生命を奪える、化学物質の知識が無いと?」
「え、えーと……あなたがお持ちのその容器の中には……」
ブラッドはすぐに回答せずに続ける。
「他の参加者が、君のように、なぜ爆薬を使わないか。
それではつまらないからだ。火薬の量、毒物の量が全て。そこに何の快楽がある。
戦略も駆け引きも何もない。実に無粋なことだ」
……意外と真面目に参加してるんですね、ブラッド。
そう言ったら、即否定されそうだけど。
とはいえ、私も反論しないわけにいかない。
「無力な小娘が、やっと役持ちの方々に対抗する手段を得たんです。
しょうがないじゃないですか。嫌なら負けて下さいよ!」
うーむ。どこぞの国の核保有宣言に近いかもしれん。
「反省のカケラもないようだな。なら、こちらも全力で叩かざるを得ない。
より確実に……苛烈な手段で」
そしてブラッドは私に筒を見せるようにし、ニヤリと笑う。
え、えーと。だから中身は何かな?

「ジフェニルシアノアルシンだ。博識なお嬢さんは、もちろんご存じだろう?」

えーと……聞き覚えがありませんが。学校の実験では扱わなかったのかな。
「嘔吐剤と呼ばれる軽度の化学兵器だよ、お嬢さん」
「か、化学兵器!?」
「致死性はない。暴徒鎮圧などに使用されることもあるそうだ。これは少量で皮膚と
粘膜に強烈な刺激をもたらす。私がこれを君に放てば、君は咳と嘔吐で一瞬にし
て戦闘不能になるわけだ。むろん、君が門番たちに投げつけた缶詰の比ではない」
つ、つまり吐きまくり、くしゃみしまくり、あと涙と鼻水も流しまくりってことか。
こんな大観衆の前で!う、ううう。マフィアのボスめ!悪の権化が!
――ナイトメア!助けて下さいよ!何か良い知恵を!!
そして、さっきからだんまりだった夢魔がやっと答えた。
『ナノ。私も考えを改めた。君自身も吹っ飛びかねない危険な戦い方には賛成
しない。だから私の助言もここまでだ』
え!えええ!ここに来てナイトメアがサポート拒否しやがった!

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