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■準決勝戦!・2

準決勝の相手、ブラッド=デュプレは余裕だった。
ご愛用の武器さえ構えず、会場の大歓声も無視して、悠然と立っている。
私も顔色悪く、天地ほどのレベル差あるご主人様をにらみつけた。
どうでもいいけど、私のレベルはやっと1.5になりました!

「ナノ」
ブラッドに呼びかけられると、それだけでビクッとする。
「まさか君がここまで残るとは思わなかった。だが私も、愛する君を傷つけるほど
外道では無い。この場で土下座して永遠の忠誠を誓うのなら、××××時間帯、鎖で
つないで引き回す程度で勘弁してあげよう」
「そういうのを外道っていうんですよ!!」
市中引き回しか!しかも四桁時間帯!!
あと誓うのは『愛』ではなく『忠誠』なんですか!
……相変わらずツッコミの追いつかない人だ。
「逆らうのなら、飼い主自らが罰を与えるとしよう」
勝てる気200%だなあ。どことなく、サディスティックな笑みさえ浮かんでいる。
……て、この間の監禁調教の悪夢が蘇ってきた。
あのときは、精神崩壊寸前でグレイに助け出され、長いことナイトメアのお世話に
なったんですよね。最近、やっと普通に眠れるようになってきたのになあ。
「……負けません」
私は静かに言って、マフィアのボスをにらみつける。
「ほう?」
珍しくやる気な私に、ブラッドは目を細める。
「いつもいつも、私を好きに出来ると思っていたら、大間違いですよ」
子猫の虚勢にブラッドは笑う。
「その様子だと、この間の調教がよほど堪えたようだな、ナノ。
安心しなさい。次はより過酷で容赦のない物にしてあげよう。
他の連中が助けに来ようと、救いを拒み、私を求め続けるように」
ちなみに私が元いた世界では、それを『洗脳』と言う。
何か悪夢がぶり返してきましたかねえ。
今夜また、ナイトメアのお世話になりそう。
『ナノ。気をそらすな。こうなったら勝つことだけに集中しろ』
あ、何か存在忘れてたナイトメア。
『ひ、ひど……!君が集中出来るように、静かにしていてあげたのに!』
はいはい、どうも。でも確かに、静かにしていてくれると助かる。
今回の戦いは、ネズミがカバに立ち向かうようなもの。
余計な会話をしている暇はありません。
『え……立ち向かう相手は、ライオンや象じゃないのか?』
えー、最近の最強伝説はカバなんですよ?
実際アフリカじゃ、象やライオンより、カバに殺される人の方が圧倒的に多――。
『いや、君の方から集中を崩してどうする!伏せるんだ、ナノ!!』
「っ!!」
自分から話を振ったナイトメアに怒鳴られる。
でも忠告通り、反射的にガバッと地面に身を伏せた。
瞬間、頭上を銃弾が通過した。
ううう、とっさだったから手が痛い。ちょっとすりむいたかなあ。
「……て、ブラッド!当てるつもりですか!!」
起き上がって怒鳴った。
目の前には、ボスがいらっしゃる。例の物騒なマシンガンをかまえていた。
「安心しなさい。今はわざと外れるように撃った。
だが直撃しようと、夢の中の戦いだ。現実の身体には影響がない。
例え君が蜂の巣になったとしても、試合が終われば元通りだよ」
……蜂の巣にする気か、あんた。
とはいえ、こちらからも、打って出ないと。
「仕方ない。私も反撃するしかないみたいですね」
重々しく言うとブラッドは嘲笑を浮かべ、
「ほう?使えない銃を無理矢理にでも使うか?
それとも門番たちをやっつけたように、私に缶詰でも投げるつもりか?」
「その余裕面、ぶちこわしてやりますからね!」
悪役のようなセリフをはき、私はイメージする。
ブラッディ・ツインズから聞き出した知識を。
それに、記憶喪失の向こうの遠い記憶を組み合わせる。
二度と戻れない『学校』の実験室、数々の薬品、器具……。
それを強烈にイメージすれば、必ず出るはず!
『……ん?ちょっと待てナノ、君は何を作ろうとして――』

――C3H5(ONO2)3……!!

『っ!!ま、待て!!それは絶対に危険だ、止めるんだ、ナノ!!』

そして魔法のように、手の中に小瓶に入ったソレが出る。
「えいっー!!」
ブラッドが私にマシンガンの第二波を放つ寸前に投げた!!

…………。

あれ?爆発音がしなかった。でも目を上げるとすっごい煙。
私に怪我は無い。でも数秒ほど気絶していたかもしれない。
幸い、まだ負けてないようだけど。
私はよろめきながら、起き上がった。
「……?」
何か静かすぎる。さっきまで聞こえていた歓声も銃声も何も聞こえない。
生成は成功したはずなんだけど……。
『耳がやられているんだ、当たり前だろう』
頭の中に、呆れたようなナイトメアの声がした。
――えー!そうなんですか?
『自分が作ったものを思い出してみろ。ペットボトル爆弾とはワケが違うんだ!』
で、でも理論は成功した。ブラッドは?当たったんだろうか。
爆煙も晴れてきた。急いで周囲を確認すると……。
あ、いた。ブラッド。残念ながら無傷。足下にはでっかい円形の穴。
何とか、かわしたらしい。さすがマフィアのボス!
「――――っ!――――!――っ!!」
でもブラッドは私に、珍しく真剣な表情で何か怒鳴っている。怒鳴りまくっている。
――えーと、ナイトメア。ブラッドは何をあんなに怒っているのですか?
どうも爆発で鼓膜がイカれたらしい。なので翻訳をお願いすると、
『訳すまでもないさ。君の無謀さに激怒している。今回は私も同感だ』
――えー、でもブラッドに勝つにはアレくらい使わないと。
『君が出したのはニトログリセリン!ダイナマイトの主原料だぞ!!』
うむ。本当はダイナマイト召喚!と行きたかったけど、さすがに知識が追いつかず、
ニトロを出すのが精一杯だったのである。
ダイナマイトの原料だけあって、ちょっと揺すっただけで起爆するんですよね。
『呑気に言ってる場合か!君自身が吹っ飛ぶところだったんだぞ!!』
あーやっぱり?あ、あはははは!
『で、見ての通り帽子屋が……怒っている』
でしょうなあ。
ブラッドの顔から、確かに余裕面は消えた。
だけど代わりに……何かすっごく怖い顔になっています。
真の強敵を見つけた戦士のような!
『嘘をつくな。小さい子がライターで遊んでるのを見つけた、親の顔だろう』
……ですよね。

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