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■準決勝戦!・1

私は待合室にいる。
ロッカーとベンチしかない、ひとりぼっちの待合室。
そこで、私は腕組みをする。そして虚空に声をかけた。
「ナイトメア」
『何だ?』
私を見守ってくれる夢魔の声。
「他の役持ちの様子はどうなっていますか?」
私もかなり戦ったし、残りの試合は、せいぜい一回か二回のはずだ。
『芳しくない』
夢魔の声は低い。
『まず、現在までに分かっている試合結果だ。
前々回の試合で帽子屋がチェシャ猫と戦い、もちろん帽子屋が勝った』
「グレイは?あと、エリオットとも、まだ戦っていませんが」
『その二人はさっきぶつかった。激戦の末にグレイが制したらしい』
確かに芳しい状況ではない。
抗争のプロのエリオットが脱落してくれたのは助かるけど、グレイも強敵だ。
「まだ役持ちで、他に残っている方はいますか?」
『ゴーランドが勝ち残っている。もう少ししたら帽子屋と戦う予定だそうだ』
「まさか、私の次の相手はグレイですか!?」
『いや、まだ不確定だ。いい加減な大会ということは君も知っているだろう?』
主催者が自分で言うか。確実にグレイに当たるわけではないらしい。
でも、ぼちぼち準決勝ですか。ナノさんも強くなったものだ。

私は待合室のベンチから立ち上がる。
「とにかく、残りのメンツさえ分かれば十分です。あとは自分で何とかしますよ」
『ナノ。君、少し顔つきが変わったな』
ナイトメアのちょっとほめるような声。
「ふ。歴戦の女勇士のようになっていますか?」
『いいや。野生に還ったと勘違いしているチワワのような――』
くそやかましいですわ、エセ主催者。
そして、私は腕組みを解き、パチンと指を鳴ら……鳴らしたつもりが、盛大に指が
滑ったので、仕方なくパンと手を叩く。
すると待合室の扉をガチャリと開けて、大きな影が二つ入ってきた。
「来ましたね、ディー、ダム」
「は、はい……」
「し、失礼、します……お姉さん」
おずおずと入ってきたのは、油断と不運ゆえ私に負けてしまった双子です。


いちおう、この戦いには『勝った側は、敗者の武器、もしくは敗者自身をもらえる』
というアレなルールがあったりします。
今までは武器をいただいていましたが、今回はディーとダムをいただいたわけです。
二人は私に負けたというのに、嬉しそうにこちらへ近づいてくる。
それと、すごく緊張しているみたいだった。
「そ、その、意外だったよ。お姉さんが武器じゃなくて、僕らを欲しいなんて」
ディーが顔を赤くし、照れたように前髪をいじる。
しかし、双子の方からは何だかいい匂いがするけど……ええと、石鹸?
「あの……戦いが終わったから、あのすごい臭いは取れたけど、いちおうお風呂に
入ってきたから。念入りに洗ったから、大丈夫だと思うよ」
ダムがもじもじと、何度もヘアピンの位置を直している。
何なんですか。
そしてディーが、思い切ったような顔で、
「それで、どっちから先にする?お姉さん」
「……何の話ですか、ディー」
「別に同時でもいいよ。お姉さんが欲しいなら」
「……だから何の話ですか、ダム」
よく分からずに聞くと、二人は同時に首をかしげ、
『え?今ここで×××するんじゃないの?』

…………

「待合室で二人同時って、どれだけ特殊な趣味なんですか、私は!!」
握ったこぶしを振るわせ、私は肩で大きく息をする。
「だ、だってお姉さんは経験豊富だし、やっぱり一人じゃ満足出来ないのかなって」
私にぶたれた頭を抑え、涙目のディー。
『やっぱり』って何だ、『やっぱり』って。
「そうそう。ボスもよく言ってたしね。
『ナノは一見、大人しいがベッドの中では、かなりアレになる』って」
同じく涙目のダム。『かなりアレ』って何ですか、ご主人様……。
「何を勘違いしてるんですか、私は二人の身体が欲しいわけじゃないですよ!」
『えー!?』
同じ表情で驚く二人。
「じゃあ何がしたいのさ、お姉さん!」
「×××目当てじゃないなら、武器の方がいいんじゃない?」
口々に言われた。だから、何でいつもそちらの発想に行きますか。
「武器はいりません。斧も銃も使えませんよ」

この世界の人たちは、たいていの武器を扱える。
だから他人の武器を奪えるというルールは、とても役に立つ。
が、私は銃も使ったことのない素人。
シャベルは振り回せても、マシンガンは撃てない。
マニュアル的な操作方法は分かっても、実践で使いまくってる人たちには勝てない。

待合室のベンチに座る双子に、私は腕組みし、歩きながら言う。
「私は誰のオモチャになるつもりもありません。
ここまで来たからには、負けるわけには行かないんです」
すると双子は顔を見合わせ、言いにくそうに、
「ならどうするの?お姉さん。悪いけど、お姉さんはもう無理だと思うよ」
「さっきの攻撃はちょっと驚いたけど、他の奴らには使えないね」
「でしょうね」
ご家庭で作れる爆弾なんて、しょせんは子供だまし。
『子供だまし』なので『子供』な双子にはどうにか通じた。
でも、大人の役持ち相手には使えない。銃にわりばし鉄砲で対抗するようなもんだ。
かといって、双子の重そうな斧なんかもらっても仕方ない。
「そういうわけで、私が欲しいのはですね――」
私が続けた言葉に、双子は目を丸くした。

…………

…………

そして声が響く。

『準決勝戦!試合開始!!』

私は風に吹かれ、対戦相手をにらみつける。
歯の根が鳴り、足が震える。でも今や自分の尊厳がかかっている。
負けるわけにいかない。

「先だって失敗した調教の続きを再開出来るとは。君は幸運だな、ナノ」
どうやらゴーランドは負けてしまったみたいだ。

私は怯えを顔に出すまいと、ただブラッド=デュプレをにらみつけた。

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