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■VS.双子・下

会場は水を打ったように静まりかえっています。双子も斧を構えたまま呆然。
そりゃー、地面に焦げ焦げのあとが残ってますもんね。
私自身、出現した火柱の大きさにビビッたくらいだし。
これぞ平和な国の文明の生み出した、日常の武器だ。
つまりスプレー缶を使用するときに、煙草を吸うのは超危険なんです。
――でも、これだけじゃあ終われないですよね。
双子にこれ以上の猶予は与えない!
私はまたイメージする。
分子式H2××4。そしてH×O3……!!
あ、もちろん、そのまま出たら危ないから瓶入りで♪
そして手の中が光り――劇物入りの瓶が姿を現した。
「よし、出た!」
「あ!兄弟!またお姉さんが何か出した!」
「止めなきゃ!早く!!」
あと残るは……そして手の中にフワリと、白くて軽いものが舞う。
そう、ごくごくありふれた、ただの『綿』だ。
「はい、注入」
瓶の中身をジョロジョロとその綿にしみこませ……。
「お姉さん!」
「覚悟してよ!!」
「おっと!!」
双子が襲いかかってくるのを寸前で交わし、
「はい、点火」
指先ではじき、火のついたマッチを放り、地面に伏せる。
『っ!!』
闘技台を揺るがす爆音。立ち上がる白煙。綿火薬というやつだ。
直撃はしたらしく、双子の悲鳴が響く。
だがしかし、もちろん双子は倒れない。煙の中に動く気配がある。
「やれやれ。日本には危険なものが多いですねえ」
と私は立ち上がり、スタスタ歩きながら、手の中に『空のペットボトル』を出す。
その中に『あるもの』と水を入れ、フタをしてガシャガシャ降り……高温の爆風が
吹き荒れる、双子のところに放り投げる!!
もちろん私はすぐ地面に伏せ、耳をふさいだ。

そして地面が揺れた。

ふさいだ手を通して聞こえる大爆発。頭上を瓦礫が飛ぶ。
そして今回も双子を直撃したらしい。苦しそうな声にはちょっと胸が痛い。
ド●イ何とか爆弾。ご家庭にある材料で、一番お手軽に出来る爆弾である。
『君、ピンチになると変な引き出しが開くな……』
困った声のナイトメア。私はなおも伏せながら指をチッチッと振る。
「あの子たちが子供だからですよ。子供の知識と、異世界出身の私の知識の差。
だからこそ、次に何が来るか予測困難で、防ぐことも難しいんです」
少々の小銭と手間と時間を惜しまなければ、爆発物は簡単にできるのだ。
ただし素人が生半可な知識で作れば、爆発で手が吹っ飛んだり、失明したり、猛毒を
近所にまきちらし、莫大な賠償金を請求されたりします。マジで止めときましょう。
え?私はいいのかって?いいんですよ、ここ、夢の中だし!

そして、私は追撃を緩めない。
地べたに腹ばいになりながら密閉容器を召喚する。
大量の小麦粉と……ある物を容器に押し込め、また双子の方に投げた。
「ファイアー!!」
で、容器が火気に反応し、さらなる爆発と爆音が起こる。
ご家庭にあるもので、お手軽にできる爆弾その2。
小麦粉って意外に危険なのである。

そして小麦粉の爆発による大量の粉塵で、視界が真っ白になる。
だがまたも直撃した双子が、倒れるのが見えた。
それから沈黙。
しばらくの沈黙。

「…………」
やったか?私はわずかに顔を上げ、真っ白な粉塵の中を慎重にうかがう。
だが、未だに動く影があった!
「げ、ゲホ……ちょ、ちょっとやられたかな」
「お姉さんにゲリラの才能があるなんて、知らなかったよ」
斧を杖代わりにヨロヨロと立ち上がる双子。なんたること……!
とはいえ双子は無傷では無い。全身がぼろぼろ。元の世界だったら即、救急車だ。
この世界の人らは、相変わらず無駄に頑丈ですね。
――なら、次はどんな爆弾を……。
と、思っていると、
「わっ!」
ざばぁっと集中豪雨のように水が降り、一瞬で全身がずぶ濡れになる。
「でもさ。どんな爆発物を作っても、火気が無ければ無意味だよね」
「僕らはまだもうちょっと戦えるよ?同じ手は使わせないからね?」
二人が雨を、イメージで呼び出したらしい。おのれ、ちょこざいな!!
だが私はこの展開を予想していた。
「はてさて。火力があればいいんでしょうかね?要は……あなたたちが倒れれば、
それでいいんです。今やHP:12となった、あなたたちがね」
電光パネルのステータス表示を見て、ほくそ笑む。
「……その12を、どうやって削るのかな、お姉さん」
「もう同じ手は使わせないからね」
「こうします!!」
そして私は起き上がり、両手で華麗にふりかぶって、あるものを投げた。
「させないよ、お姉さん!火気はないんだよ!」
「何だろうと、斬って分解して、無力化する!」
双子の斧が、私が投げたものを一刀両断する。
私は暗黒面な微笑で微笑むと……迅速にガスマスクを装着する。
『……え?』
そんな私に一瞬ワケの分からない顔をする二人。だが気づいたらしい。
「しまった……兄弟!!」
「兄弟!すぐに鼻と口をふさいで……」
もう遅い。
そして一瞬遅れ――悲鳴が響いた。


『勝者!!ナノ選手!!』


司会者の声が高らかに宣言する。でも今度は歓声もブーイングも無い。
会場は大騒ぎだ。
私はガスマスクをしたまま、静かに戦場をあとにする。
そして頭の中に、ナイトメアの声が響いた。
『何なんだ?最後のは……双子が悶絶して気絶したが……』
そう。それで、たかが12のHPなんて、あっという間に0になった。
「まあ、直撃を受ければ、そうなるでしょうね」
『何を投げたんだ?毒ガスなら、あまりにもエゲつないというか……』
いいえ。化学兵器は断固反対。
知識はあっても、ナノさんはそこまで外道ではありません。
「幸か不幸か、私にある知識が保存されていたみたいで。あれはタダの缶詰です」
『タダのって、会場をこんなことにしておいて!?』
そう、会場はやはり大騒ぎ。
攻撃のため、実際よりずっと大きな現物を出した。
それで、被害が会場全体に広がってしまったらしい。
みんな猛烈に咳き込み、涙を流し、身体についた匂いを落とそうとしている。

私が最後に出したのは爆弾でも何でも無い。
開封さえしなければ無害な、ごく普通の缶詰。

「その激臭は納豆の約20倍。世界一臭い発酵食品――シュールストレミングですよ」


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