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■VS.双子・中

前門のディー、後門のダム。突きつけられた斧は二本。まさに絶体絶命である!
『降参してくれるよね、お姉さん?』
「ぐ……っ!」
冷や汗が頬をつたう。だけど、ここで負けて双子に好きにされるわけにはいかない!
一方、双子はもう勝利を確信したらしい。二人で顔を見あわせ、ニヤニヤ笑い、
「やれやれ、とんだ隠し芸大会だよね。でもお姉さんがもらえるなら、良いか」
「終わったらお姉さんをたっぷり可愛がって、疲れを取ってあげないとね」
――うう!ガキどもがマセやがって!本当は子供のくせに!
こんな、こんな凶悪な双子に、平和な国出身の私が、どう対抗しろと!
とか思うけど怖くて声も出ません。
余裕しゃくしゃくの双子には殺意しかわかない。

――ん?待てよ。子供?

――あ、そうだ。
そして、神の啓示のごとくアイデアが降ってくる。
『ナノ、何かいい考えが浮かんだのか?
複数の思考が交錯して、上手く読めないのだが……』
心配そうな夢魔に返答する。
――安心して下さい、ナイトメア。この戦い、恐らく余裕で勝てます。
『本当か!?ブラッディ・ツインズに!?どうやって!?』
この場で一から説明するは早計。まずは双子の拘束から逃れないと……!


「お姉さん?」
「降参の言葉はまだ?」
会場の歓声が遠い。双子に斬れ、×せ、と叫ぶ不快な愚民どもの声がする。
だがフォースのダークサイドに染まった私は、もはや何とも感じない。
『いやフォースのダークサイドって、ナノ、ちょっと古……』
「ディー、ダム!」
律儀にツッコミを入れてくれる夢魔は無視して、私は双子に声をかける。
――ほんのわずかな距離さえ作れればいい。それで全ては終わる。
「急に元気になって、どうしたの?お姉さん」
「声に邪悪なものを感じるけど、今さら命乞い?」
そして私は顔を上げる。
すると目の前で斧をつきつけていたディーが、なぜかビクッとする。
しかし私は念じた。

――今こそ集え!私の余所者パワー!!ザ・チャーミング!!

余所者という存在に秘められた『住人を惹きつける力』。
私は全神経を集中し、宇宙のアレとか何か適当なフィーリング的なパワーを最大限
動員し、視線にこめて微笑む。
そう!胸に白い花束を抱えて、丘をダッシュで下る乙女のように!!

「ディー、ダム……」
うるっ。

『……っ!!』
そして子供たちは、見事に顔を赤くした。

しかし彼らは歴戦の門番。頬を赤くしながら、慌てて私から眼をそらし、
「ど、どうしたの?お姉さん。そういう風に色っぽく笑っても、む、無駄だよ!」
「お、お色気作戦とか、通用するなんて思わないでよ?僕ら大人なんだから!」
フ。それこそがお子様の証拠よ。
「ねえ、ダム?もう少し、お姉さんと遊びませんか?」
後ろに手を回し、ダムの身体に触れる。するとダムがわずかに力を緩めた。
私は決して焦った様子を見せず、優雅にダムの手をすり抜け、彼から距離を取る。
「ね?ディー。お姉さんと、楽しい遊びをしましょう?」
最大限の、くーるびゅーてぃーな微笑みで双子に微笑む。
「お、お姉さん……」
顔を真っ赤にして、斧の切っ先を私から外すディー。
……というか、はたから見るとかなり寒いことをしてますな。
二人が子供で良かったあ。他の役持ちなら絶対のってくれなかったと思う。
『さすがだなあ……伊達に多くの役持ちを手玉に取っているだけのことは……』
夢魔がまたも茶々を入れて来やがる。
「人を悪女みたいに言うな!!誰とも交際する意志はないですよ!!」
思わずナイトメアに怒鳴った。
……て、あ。ヤバ。
「……っ!お姉さん!逃げた?」
「色仕掛けなんて、お姉さんらしくない手を使うよね」
数瞬の奇跡は終わり、双子はハッと正気に戻ったらしい。

二人は私に、慌てて斧を構える。
距離は空いた物の、依然、戦況は私に不利。
一見するとそう見えるだろう。
「まさか、ちょっと逃げて優位に立ったつもり?どんな武器も無駄だよ」
「お姉さんは平和な世界で育ったんでしょう?マフィアの僕らには勝てないよ」
「ふっ」
しかしわたくしナノ、髪を風になびかせ、あるものをイメージする。
そして、それはすぐに私の手の中に現れた。
それは剣でも銃でも無い。
「……え?何それ?」
「ライターと……何、その缶?それがお姉さんの武器?」
『え!?おい、まさかナノ!ちょっと待て!!』
ナイトメアの慌てた声は無視する。そして二人に言い放った。
「確かに私は平和な世界で育ちました。
……でも危険物が何もないほど平和な世界でもないんです!」

そしてライターを持ち、別の手で双子に噴出ノズルを向ける。
『虫を駆除するスプレー』のノズルを……。

12/20
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