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■VS.エース・下

「エース!あなたは誇り高き騎士なんでしょう!?」
エースの手を振り払い、数歩下がる。
「ああ、そうだぜ。今さら何?気がつかなかった?あはは!」
いやあそうなんですよ。あまりにもいかがわしいから、騎士様と気づかなくってー。
と、猛烈にノリツッコミしたいけど、さすがにそんな状況じゃあないですしな。
「エース!騎士様が、か弱い余所者の女の子をいたぶるんですか!?」
ちょっと主張してみました。女であることに甘えて、とか怒らないでくださいな。
こうでもなければ隙が見つからない。
負けたら負けたで、待合室でどんなアダルトな制裁を受けることか!
「うーん。確かに君は騎士が守るべき女の子だ。俺もそう言われるとなあ……」
もくろみ通り、エースは腕組みし、困った顔になる。
――よし、あとは隙を見て、ビバルディから奪ったマシンガンで……。
卑怯だろうと、勝てば官軍!
私は、さらに数歩後じさりつつ、エースの様子をうかがうも、エースはその前に顔を
上げる。そして、私に底知れぬ澄んだ笑みで、

「ごめんな、ナノ。今の俺は騎士だからね。上司の恥は部下がすすがないと」

――ビバルディを気絶させたことか!ユリウスを吹っ飛ばしたことかぁー!

「さて、もう手加減出来ないな」
エースが改めて剣を構える。
な、何かさっきよりエースの雰囲気が本気モードになっているような!
私はもはや、蛇に睨まれた蛙状態。エースには、敵とも映っていないだろう。
――うう、作戦大失敗です!
弱点をついたつもりが、騎士の忠誠心を微妙に刺激してしまったらしい。
チラッと電光パネルを見ると、口に出すも恐ろしいほど、エースと私のHPの差は、
開きに開いていた。あとは少女をいたぶることを期待した観客の、不快な声援。
――あ、あああ!もうどうすれば!!武器!何か私の武器!!
と、必死に想像し……ここで奇跡が起こったのか、手が光り、何かが手の中に……
「おお!?」

そして私の手の中に、大変よろしい香りの大茶筒がのっていた。
あらあら。これは重畳(ちょうじょう)。さっそくお茶を点てて……

「て、こんなときに抹茶なんぞいるかあー!!」
「うわっ!!」
とりあえず、せめてもの目くらましに、エースめがけて大量の抹茶をぶちまける。
「……え?ゴホッ!ゲホッ!!」
「あ、ヤバ……ゴホっ!む、むせる!!」
目くらましにはなったようですが、私まで大量の抹茶の粉末で咳き込むというオチ
つきでした。しかもこっちの目の中にまで抹茶が入り、もう何も見えやしない。
――もういいや、何かあきらめがついてきました。
自分が情けなさ過ぎて、涙が出てくる。
「あ、あれ?ナノ?どこだよ?」
エースもまだよく見えないらしい、でも心には焦りがわいてくる。
そして私が必死に目をこする背後で、観客のざわめき声が聞こえた。
――……?
何か様子がおかしい。でもまだ視界は自由にならない。
『え、エース選手!?そっちでは……!』
歓声にまぎれて聞こえないけど、司会の人も何やら叫んでいる気がする。
何だろう。たかが抹茶煙幕に、大げさすぎる反応な気もするんだけど。
――と、とにかく武器を出さないと!
今度こそビバルディのマシンガンを出し、構える。
このマシンガンを上手く使って、何とか少年漫画バリの逆転のチャンスを!!

そして私は晴れた視界の中でエースを探した。エースを……。
――あれ?

ハートの騎士がどこにもいない。360度見回しても赤い騎士の姿はどこにもない。
「え?あれ?」
そして私がキョドっていると、司会さんの声が重々しく響いた。

『ええと、ハートの騎士が視界不明瞭のため、会場外に迷い出て、そのまま迷子、
いえ行方不明になられたため……ナノ選手の不戦勝となりました!』

……あの短時間に会場外へ?どれだけ豪快な迷子ですか。

そして、もんのすごいブーイングが響いたのだった。
いや、私にブーイングされてもなあ……。

…………

そして、さらに盛り上がらない続きがあります。
その次の対戦相手はペーターでした。
もちろん宰相といえど、ステータスの開き具合は圧倒的でした。
しかし、試合開始直後に、

「あの、ペーター、申し訳ありませんが、私を……」
「うわっ!!やーらーれーたぁ!!さすがは僕の愛しい人!!もう動けません!!」

こちらが頼む前に、白ウサギは、大げさすぎる演技で地面をのたうち回り、負けて
下さいました……もうブーイングがすごいったら。
というか、私の方が負けるつもりだったんですけど。
私を穏便に負かして、ゲームから出さして下さい、とお願いしようとしていたのに。
空気読んでください、畜生が。

かくして余所者のナノさんは、五人の役持ちを負かしてしまったのであった。
あとちょっと気になってた王様ですが、私より前にビバルディと戦って、普通に
負けていたそうな。

10/20
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