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■VS.エース・上

そして私は、また戦場に戻ってきました。
空は青、大歓声が聞こえます。
もう……説明する必要はない気もしますが、ここは、夢の中の円形の闘技場。
ナイトメアが作った夢の中の戦場で、皆が武器を持ち寄り、戦うというもの。
で、満員御礼の観客。中心には緊張と恐怖で震えながら立ち尽くす私。
いつもなら、まずステータスの確認から行きますが、今回はそれもままなりません。
なぜなら、私の目の前に立っているのが……。
実力差を確認するのも怖くて、見られやしねえ。
そして声がする。

「あはははは!君と戦えるなんて、嬉しいぜ、ナノ!」

誰が勝てるんだ、こんな優勝候補。

「ええと。確認しますが、次の対戦相手はあなたなんですよね、エース」
風にふかれ、冷や汗をかく。
「あはは。認めたくないんだ?」
さいです。間違いだと言って欲しい。うっかり会場に迷い込んだだけとか。
次の相手は、本当はエースじゃなくて、キングでしたーとか。
……というか、あの人の実力ってどうなんだろう。
仮に王様に負けたら、私って王の愛人?
うわー、ビバルディとリアル昼ドラですよ。
『ナノ、現実逃避をするんじゃない』
頭の中に、現実逃避しまくりの夢魔の声が響く。
「わ、分かってますよ」
とりあえず電光パネルをチラッと確認する。
一瞬だけ見えたHP:2342は見なかったことにしよう。
――ていうか、HPの上限、999じゃないんですか!!
大御所国産RPG見習えよう!!
でも名前欄は間違いなく『エース』。
どう見ても私の対戦相手はハートの騎士エースだ。
万雷の歓声。反比例するように、女王に勝った高揚感が、みるみる失せていく。
『ナノ……こうなったら、もうどうしようもない。騎士の慈悲を請うんだ』
ナイトメアはすでにあきらめモードだった。

『試合開始!!』
そして無慈悲な司会さんの宣言が響いたのである。


「さて、と」
エースはいつも通り。さして苦も無く、笑顔でハートの大剣を出す。
わざとらしく剣を構え、騎士の礼までし、
「それじゃあ、楽しもうぜ、ナノ。試合中も……試合後も、ね」
――ううう!ここまで勝ち残った自分の無敵さが怖い!!
『ふざけている場合か、ナノ!どうにかして、この場を……』
とはいえ、もはやナイトメアでさえ、対策を考えつかないらしい。
背後では司会さんが、私のHP(精神力)がどれだけ下がっただのハートの騎士の
攻撃力がどれだけ上がっただのまくし立ててるけど、それどころじゃあない。
――ええと、弱点、弱点!エースの弱点!
何やら大量に思い浮かべど、この場に役立つことなどあるだろうか。
あれこれ考えようとすると、
「っ!!」
殺意を感じ、私は反射的に横に飛び退いた。
一瞬遅れて、エースの剣がその場所の空気を斬る。
――あ、危なかったあ……今動いてなかったら……!
夢の中とは言え、一刀両断になっていただろう。背筋がぞっとする。
そしてエースはというと、よけた私を見て首をかしげ、
「あれえ?一撃で終わらせてあげようとしたのにな」
で、間近の私に微笑む。
「苦しまないようにしてあげるから、次はよけないでくれよ」
『武器を出すんだ、ナノ!騎士に対抗しろ!!』
ナイトメアの声援が響くけど、
「あ、あ、あの……」
ナノさん、すでに気合いで負けている。足も声も震えています。
こんなことなら、ビバルディに負けた方が、まだマシな結末だった!
――何でこんなことにー!!
『いや、君の自業自得だろう……』
うーむ。ピアス、ユリウス、ビバルディと、ツッコミどころのある挑戦者が続き、
どうにか私もノリで勝てたのだ。が、エースは本物の剣士。軍事責任者。
私ごときが、私ごときが勝てるなど!!
『だから、時計屋に負けておけと言ったんだ、私は!』
そんな!『何で夏休みの宿題を、早く終わらせておかないの!』って叱るお母さん
みたいな言い方しないで!
と、そこでまた殺気を感じ、慌ててよける。
そしてまたエースの剣が振り下ろされる。
どうにかまた間一髪でよけられたみたい。歓声がちょっと心地良い。
「ナノ」
だけど次の瞬間、頭にポンと手を置かれる。い、いつの間にこんな近くに!!
「は、はい!」
思わず返答してしまう。エースは青空のような爽やかな笑みで、
「俺に優しくしてもらえるなんて、思わない方がいいぜ?」
う、うん。そうですよね。騎士様ですものね。
――……て?騎士?あ!そうだ!!

貧弱な私の頭に、騎士様の弱点が思いついた。

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