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■VS.女王・下

「すぐに終わらせてあげよう、ナノ!」
女王の動きは速かった。
大歓声とともに、ビバルディはさっそくマシンガンっぽいものを出し。
……こっちに乱射しやがった。

私は武器を出すどころではなく、必死に会場を駆ける。
「いやああああ!!ビ、ビバルディ!止めて!マジ止めて下さい!!
私たち、心の友でしょう!?(多分)」
しかし女王さまは冷酷無慈悲な笑顔で、私にマシンガンを撃ちまくる。
鼓膜を破るような銃撃音。大歓声もあって耳がどうにかなりそうだ。
威嚇射撃どころじゃない!あ、あれ、絶対に当てる気だ!
服をかすった!髪の毛が焼ける!!止まるとヤバイ!マジヤバイ!!
そして女王の非情な声が、
「ナノ。降参せい。最初からおまえに勝ち目はないのだ。
何。わらわは女同士。おまえにむごい真似はせぬよ」
「ならなんで、そう言いながらマシンガン乱射してんすか!!」
必死で逃げつつもツッコミは欠かさない。

「……つぅ……っ!」

撃たれた、と思った瞬間に、腕に焼けるような激痛。すでに服は赤く染まっていた。

痛みになれていない私は、もんどり打って転がった。
歓声が、私の気力をさらに萎えさせる。HPがどんどん下がって……。
――ダメです……戦わないと……。
そうは言っても、恐怖と痛みに、意識が全て持って行かれる。
まともな判断なんか出来るわけがない。痛い痛い痛い。何とかして、誰か助けて!
ああ、HPが『1』になってるぅ!もうダメそうだ。
と、そんな私のそばに、スッと立つ誰か。
私の額に銃口をつきつけ、

「降参せい、ナノ。ここから先は、役持ちたちの戦場。おまえのような平凡な
小娘ごときが立ち入れる世界ではない。わらわはおまえに優しくしてあげる。
だが、それでも逆らうのなら、夢の中であろうとも……」

「く……」
ビバルディの目はマジだ。
だけど、彼女の蔑みのまなざしに、私の中のなけなしの闘争心に火がつく。
そして司会者さんの声。
『おおっと、ナノ選手!武器を出しました。最後の反撃かあ!?』
最後とか言うな!!だけど、司会者さんの言うとおり、私の手の中に、ピアスの
シャベルが出現し、HPもちょっとだけ上がった。
でもビバルディは呆れを通り越した憐れみの目で、
「やれやれ。相変わらず愚かな子よのう。
そんな土木用品で、どうわらわに勝つと言うのじゃ」
私の額に押し当てた銃口をグリグリする。マジ怖い!やめてぇっ!!
と思いつつ、声を震わせながら叫ぶ。
「最後の最後まで戦いますですよ!シャベルにこめられたピアスの怨念とともに!」
あれ?決めゼリフっぽいことを叫んだつもりだったのに、イマイチカッコ悪い。
怨念じゃなくて想い、とか祈りの方が、それっぽかったかな。
いやいや、ピアスの祈りって、それチーズ教か何かですか。
と、シャベルを握りつつ、ビバルディのとどめの一撃を待っていると、

「ピアス……?……ひっ!」

恐怖の声が聞こえた。私ではなく女王陛下の……。
「ん?」
額に押し当てられた銃口が震えていた。
見上げると、ビバルディが真っ青な顔で私を見下ろしていた。
「あの?ビバルディ?」
と、大歓声がする。
『ああ!こ、これは何があったのか!女王陛下のお力が……!』
「あ……!!」
な、何!?電光パネルを見、私も目を見ひらいた。
ビバルディの精神力を表すHPが『282』→『23』に急降下している!
「でも、私は何もしてませんのに……」
『いや……私には何となく分かるが……』
傍観を決め込んでいたらしい夢魔が、ようやく声をかけてきた。
「あの?ビバルディ……」
シャベルを持って、恐る恐る立ち上がる。
だけどビバルディはさらに顔を青ざめさせ、ヒッと、一歩下がる。
「あの……」
さらに一歩踏み込むと、
「ち、近づくでない!ね、ネズミ!!汚らわしい!!」
「……はあ?」
真っ青になった女王陛下は、私に向けるとは思えない、憎悪のこもった目で、
「汚いネズミの道具を持って、近づくでない!!」
「は……?」

そういえば、ビバルディは大のネズミ嫌いだったっけ。
何か病原菌扱いで傷つく。

「…………」
『おおっとナノ選手!!HPが『25』に急上昇!!女王陛下を上回ったぁ!!』
調子こいてません。調子こいてませんよお?
「く、来るな!来るでない!!」
もはや女王陛下は、私をエンガチョ扱いで戦意喪失。
マシンガンを放って、後じさりし、いえ、後じさりしそこねて尻餅をつく。
「あ……ああ……ナノ……頼む……近づかないで……」
私は酷薄に笑いつつ、じりじりと女王陛下に近づいた。
「ビバルディ……怯えることはありません。一瞬で片づけてあげましょう」
悪の組織の幹部のような笑顔と声で、私はニコニコと女王に近づく。
「ひ、ひぃぃ……!」
恐怖で、もはや言葉も出ず、少女のように真っ青になってへたり込む女王。
私は近づきつつ、愉悦にこぶしを握る。
「か、快感です……弱者をいたぶり、追いつめることがこれほど愉しいとは!!」
『……ナノ。多分、夢から覚めた後、君は恐ろしい報復にあうと思うぞ……』
だが私はにたりと笑い、こたえる。
「……かまいません。今この場で、奴らに復讐かなうのならば……」
私はシャベルを剣のごとく地面に突き刺し、吠える。
「全ての役持ちを葬り去ってみせましょう!
我が恨みを力とし、奴らの屍で山河を築いてくれるわ!」
そして会場の大歓声。
「……ナノ。おまえ、キャラが違っているのではないか?」
『何か大魔王っぽいよなあ……』
うわ、役持ち連中からツッコミが!!
……と、ビバルディが油断してるうちにぃー。

「てい!」

シャベルの先で、ビバルディのほっぺをちょん、とつつく。
恨み憎しみ怨念と犠牲者の血がたっぷり染みこんだ、ネズミのシャベルの先で。

「…………ぁ……」

ビバルディはその場で卒倒した。
『0』になるHP。

……勝った。

『大勝利!余所者の大勝利です!!女王陛下に余所者が勝利しましたー!!』

司会者さんの大絶賛と鳴り止まぬ歓声、大喝采。なぜか座布団も飛んでいる。
とはいえ四戦目となると、勝利の高揚感もやや薄れる。
私は前髪をかき上げ、観客に軽く手を振った。なぜかキャーッと、女性の歓声。
「……それに、ビバルディの武器を手に入れられたのは、大きいですね」
会場に転げ落ちたマシンガンを手に取る。うう、重い!!
でもさすが『相手の武器を自分のものに出来る』ルール!
手に取るなり扱い方が頭にスーッと入ってきた。

「……勝つ」

必ず、勝ってみせる。余所者のプライドにかけて!!

『ナノ……浸るのはいいんだが……次の対戦相手はだな……』
「え……!!」

ナイトメアのささやいた名に、私は背を凍りつかせました。

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