続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■VS.女王・上 「うーむ……」 専用の控え室で私ナノは腕組みをして、目を閉じていました。 イメージトレーニングというやつです。イメージでも馬鹿にしちゃあいけない。 何しろ、イメージしたものが武器になるという、バトル漫画な夢なのです。 こうして精神集中し、脳内鍛錬に励むことも、次の勝利につながるわけで……。 ――……そういえば、あのカビ生やしたアラビカブレンド、どうしますか。 ……何となく雑念が入ってしまう。 この前、店をリフォームし(させられ)たのに、また珈琲豆にカビを生やしたのだ。 やはり帽子屋屋敷の門前に不法投棄しますか。いえ、門番がいない隙を見計らって、 火をおこして焚き火焙煎すれば、匂いが屋敷にさぞ飛散するでしょうし……。 「……イケる!」 カッと目を開き、私は呟く。 『……何がイケるんだ。ナノ』 脳内に、主催者の冷たい声が響く。 しかし私は前髪をかき上げ、キラリと虚空に微笑む。 「ナイトメア。今の私の作戦、超イケてませんか?クールでしょ!?」 『……本当に珈琲が嫌いな人間に、そういう嫌がらせをするのはどうかと思うが』 意外にも夢魔は帽子屋サイドだった。まあナイトメアは薬嫌いだから、嫌いなものを 押し付けられる苦痛が分かるのでしょう。 『珈琲豆の匂いが屋敷にまで染みついたら、今度こそ帽子屋は君をタダではおかないと思うが』 しかし私は虚空にチッチッと指を振る。 「ナイトメア。報復は苛烈に、かつ徹底的に行うべきですよ。 二度と立ち上がれないくらい叩きのめして、屈服させるべきなんです!!」 ああ、焚き火焙煎をした後の、マフィアのボスの顔が目に浮かぶ。 クククと忍び笑いをもらし、私は自分の嫌がらせ作戦に浸った。 『後先を考えないのは君の悪い癖だ。復讐で奴を怒らせ、逆に、徹底的かつ苛烈な 報復をされて。最後に泣くハメになるのは、毎回、君の方だったと思うが』 ……現実が!夢魔のくせに現実を突きつけやがりました! 『だが、そうだろう?この間だって、君が帽子屋に……』 あ……えーと、そういうこともありましたっけ。 まあ、いろいろと不幸な事情が重なりまして、つい…… 『約束をスッポかした挙げ句、カビた珈琲でたき火をして、奴の頭から煙が全身に かかったんだろう?おまけにうちの部下との仲もかぎつけられて……』 ……うむ。あの後、さっさと拉致されてしまった。 「いやあ、マフィアのボスの復讐は並では無かったですね×××時間、監禁されまして ×××とか×××とか他にもいろいろされちゃいまして……」 『わ、分かった!ナノ!そこまで過激な映像を見せなくてイイ!……うわっ!』 何か液体が噴出する効果音が聞こえる。血は血でも、鼻から吹き出ましたか。 「もう最後のあたり、素でブラッドを『ご主人様』と呼び出しちゃいましてね。 あなたの部下が助けに来てくれなかったら、完全にペットになってたと思います」 私は淡々と、取れたてのトラウマを語る。すると困ったような声が、 『いい加減、奴との上手いつきあいを覚えたらどうだ? 適当に機嫌を取ってやれば、可愛がってくれるんだろ?』 マフィアのボスのペットになる気はねえですよ。やはり人はお役所に従うもの。 例え、汗水垂らして稼いだ金を税金で搾り取られようとも!! 『……まあ、それはさておき』 あ。真っ正面から流された! ……いちおう、公的融資を受けてる身分ですもんね、私。 ショックを受ける私に夢魔が告げる。 『それで、次の対戦相手だが……』 ………… そしておなじみ、大歓声の会場。電光パネルに、大きく私のステータスが表示される。 『name:ナノ HP:17 攻撃力:1 レベル:0.455 階級:余所者(´・ω・`)』 うーむ。前回不戦勝だったせいか数値は変わらず。 いや……どこかが少し変わってるような。気のせいかな……。 そして首を振りつつ、対戦相手のステータスを見た。 『name:ビバルディ HP:282 攻撃力:17 レベル18 階級:役持ち(ハートの女王)』 「…………」 「次はどこのむさ苦しい男と戦うのかと思ったら、おまえか、ナノ!!」 凛と立つスーツ姿の女王は、私を見て、可愛い物を見たように頬を染める。 「可愛いナノ!わらわは男どもとの戦いに飽き飽きしておったのじゃ。 わらわが勝ったらすぐに可愛がってあげようね! つまらぬ男など、二度といらぬと思える世界を味わわせてあげよう!」 「あの……ビバルディ……そういうことを大声で言うのはちょっと……」 まあ会場の歓声で、誰にも聞こえてはいないと思うけど。 冷や汗物の私でございました。そして声が響く。 『試合開始っ!!』 7/20 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |