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■VS.ユリウス

※微妙に長編2ネタ有り


そして夢の中で夢から覚めました。

…………

再び、場所は会場。割れんばかりの大歓声です。
そして会場の巨大な電光?パネルに、私と対戦者のステータスが表示されます。
まず私側。武器はシャベルだ。

『名前:ナノ
 HP:15
 攻撃力:1
 レベル:0.35
 階級:余所者(ちょっとバカ)』

「…………」
かなり微妙ですが、まあ、いいか。
まずHPは13→15、レベルも0.15→0.35と、スズメの涙程度には上がってる。
そして、私は対戦相手のパネルを見る。

『名前:ユリウス=モンレー
HP:382
攻撃力:13
レベル15
階級:役持ち(時計屋)』

時計屋ユリウスは、藍色の髪をなびかせ、私にだけ聞こえるように呼びかける。
「ナノ。いいか?合図をしたら、こちらに攻撃するフリをしろ。
そうすれば私がおまえを眠らせて、私の不戦勝にする。痛みも何もない。
後は夢魔がやる。そのまま、この馬鹿馬鹿しい夢から出ろ……聞いているのか?」
「…………」
私はユリウスをじっと見る。
藍色の髪、細身の身体、陰気そうな目……日に当たってない白い肌。
そして会場のどよめきがする。司会のお兄さんが、

「ナノ選手!試合前からHPが上昇しました!役持ち相手に強気ですっ!」

「…………」
ステータスパネルを見ると、精神力を表す私のHPが『15』から『45』に急上昇
している。
そして私は……よく分からない不思議の世界パワーでピアスのシャベルを取り出し、
ユリウスに向かって構える。やる気満々の私に、

「おまえ……私になら『勝てる!』と思っただろう」

口元を引きつらせながら、ユリウスはスパナを取り出した。
そして試合開始となったのでございます。

…………

重い音が響きます。
シャベルとスパナがぶつかり合い、何度も火花を散らす。
うう、ユリウスとはいえ、やはり男性です。
シャベルもかなり重いなあ。腕がしびれそう。あと音が耳に痛いです。

ユリウスはスパナをふるいながら私に怒鳴ります。
「このじゃじゃ馬娘!私に負けないで、他の誰に負けると言うんだ!
おまえみたいな、ひ弱な小娘が優勝するとでも言うのか!?」
「い、いえ、その、何というか、ええと、戦う体裁くらいは取っておかないと、と」
勝てるなんて思ってませんよー、勝てるなんて、ねえ?
そして武器らしくない武器二つがぶつかり、火花が散る!
「だったら今、私が戦いを終わらせてやる!」
ガッとスパナを打ち込まれる。
慌ててシャベルで受けたけど……腕がじーんとしびれる!
ユリウスの攻撃は明らかに重くなりました。
なまじ身長が大きい分、体重をかけスパナを打ち下ろされると、冗談抜きでこちらの
腕が曲がりそうになります。
まあ仮にも役持ちが余所者の小娘に負けたなんて、とんでもない失態ですもんね。

と、呑気に考えていると、夢魔の声が脳内で響いた。
『そう思うなら、とっとと降参しろ、ナノ。ケガをするぞ!』
「ナイトメア?」
「芋虫、ここは私に任せるという話のはずだ」
夢魔の声はユリウスにも聞こえるらしい。
戦いに割って入られたユリウスは、ムッとしているようです。
「それに私がこいつを傷つけるような真似などするか!
ネズミ程度に勝って、図に乗っているようだし、お灸を据えてやるだけだ」
「あ、あははは」
私が勝つ気でいたのに対し、ユリウスは十分に手加減していたようです。
そして困ったようなナイトメアの声。
『ナノ。君も、悪ふざけは大概にしてくれ。君をこの夢から、安全に逃がすため
努力している私たちの身にもなってほしい』
うわ、よりにもよって夢魔からお説教されましたよ。
「おっと、ナノ選手、葬儀屋の攻撃に弱気になったか!
HPが『45』から『18』に急降下だーっ!!」
……ていうか堂々と蔑称で呼ばれてますね。時計屋さん。
「わっ!」
一瞬気がそれた隙に、ユリウスがスパナを私のシャベルに打ち込んだ。
痛……っ!手首が脱臼するかと思った……。
そして衝撃に耐えきれず、シャベルが私の手の中から離れる。
「あ……っ!」
カランと音を立てて、金属が地面に転がった。
瞬間、私の攻撃力が再び『1』に戻り、対するユリウスのHPが上昇する。
ワーッと会場の大歓声。
「あうう……」
心が砕けて、地面に膝をつくナノ。葬儀屋さんは冷酷にスパナをかまえ、
「おまえの負けだ。もう気は済んだだろう。降参しろ」
「…………」
降参しなければ。する以外に道は無い。
なぜなら葬儀屋が敵だから。ユリウスはとってもとっても頭が良いから!
し、しかしまだ勝機はあるはず。そう、常識を越えた意外な場所に……。
「言っておくが、高価な珈琲豆で釣る、という戦法は通用しない。
おまえに勝たせるわけには行かないからな」
……読まれてました。い、いやでも、もう少し考えれば何か……。
すると、ユリウスはため息をつきました。
スパナを下ろして腰に両手をあてる、いつもの仕草をした。
そして私だけに聞こえる声で、
「そこまで私が信用出来ないか?勝ったからといって、おまえを弄ぶとでも?」
「そ、そんなこと考えてるわけないじゃないですか!」
大慌てで否定する。
「なら降参しろ。仮に私に勝ったとしても、とても優勝までは行くまい。
そして役持ちなり顔なしなりに負け、悲惨な結末を迎えることになる」
「うう……っ」
く、くそう葬儀屋め。理詰めでは反論出来ない。

まあ確かに、ユリウス以外の誰に負けても悲惨なENDになりそうな気がします。
私は地面を見つめたまま、拳を握りしめ、イヤイヤながら、
「こ、こうさ……」
と言いかけました。
けど勝利を確信したのか、全て言い終える前に、ユリウスは、私に手をさしのべ、
「全く。最初からそうしていればいいんだ。ほら、土がつくから立て」

……土?


そして、私は咆吼した。
「畑仕事をなめるなあーっ!!」


そして手の中に出現した『クワ』が、長身の時計屋を吹っ飛ばしました。

…………

ええ、ええ。何ででしょうねえ。
畑仕事などなじみがないはずなのに、なぜか日常的に畑を耕し、ニンジンを作ってた
気がいたしましたのです。
きっと異次元の私が助けてくれたのでしょうね♪

……そういうことにさせて下さい。

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