続き→ トップへ 短編目次 長編2目次

■VS.ピアス3

会場では痛いくらいの大歓声です。
「痛いっ!ナノ、止めてよ!!君は優しい子なのにそんなことしないでよ!」
「ごめんなさい、ピアス……でもあなたが言えた義理じゃないですよね!」
よし!私のHPが『10』まで戻りました!
逆にピアスのHPが『107』に急降下する。
私の土壇場の逆転劇に、観客席がどよめき、大歓声!
「よし……」
足をかばったまま立ち上がり、手を離すと、間を置かずピアスの尻尾を踏む!
会場を揺るがすような悲鳴!!そして観客のさらなる歓声!!
「ナノーっ!!」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい、ピアス!」
『そのワリに、すっごく嬉しそうな顔だぞ。靴のカカトでグリグリしてるし』
やかましい、主催者。
あと、気のせいかピアスの頬が上気しているような……。
「ちゅう……俺のこと、みんながいじめるんだ。でも君にならいいかも……」
コラコラ。変な趣味に目覚めないで下さい。
『だが、君の攻撃力は1のままだ。これからどうするんだ?』
『抜かりはありませんよ、ナイトメア』
そして私は『私の最強の武器』を想像する。
瞬時に、正確な形が手の中に出現し……私の攻撃力が『25』と表示される。

そして私の武器を見たピアスが、恐怖に目を見開いた。

…………

「勝利!ナノ選手ーっ!!」


司会の人の声が気持ち良い。
「どうも!どうもーっ!」
私は観客席に両手を振り、大歓声に応えた。
それとさすが夢の中の大会!傷は戦闘終了とともに消える仕様らしく、さっき、
シャベルの打撃を受けた場所には傷一つ見えません!
そして私は一転、敗者を見下ろし、
「それじゃあ、ルールに従い、あなたの武器はいただいていきますね。ピアス」
何か変な褐色の染みのついたシャベルをピアスの手から取りあげ、肩にかつぐ。
「くすん。俺のことは欲しくないの?」
「いえ、別に」
「ちゅうう……」
ピアスは悲しそうだった。
傷も痛いのか、まだ地面にうずくまってシクシク泣いている。
私はため息をつき、
「大げさですよ。尻尾の先に、少しかけただけじゃないですか」
「熱かったよ!尻尾が溶けたと思ったよ!尻尾はネズミの大事な器官なのに!」
「申し訳ないです。でも勝負の世界だから仕方ないでしょう?」
まだ泣いてる眠りネズミの頭をなでなでしてあげ、私は立ち上がる。
そして乾いた風に髪をなびかせ、勝負の場を後にしました。

シャベルと……『熱湯の入ったヤカン』を持って。

…………


そこは、どこだか分からない夢の空間です。
私は夢の中で、さらに夢を見ているのです。

「ナイトメア〜、この夢、棄権出来ないんですか?」
私は虚空に呼びかける。頬は何回つねっても痛いだけで、夢から覚めません。

…………

私はナノです。
現在、不思議の国では、住人全員が夢を見る、という形式の催しが開かれています。
しかしそれは隠し芸大会を装った『不思議の国の天〇一武〇会』……。
私は余所者ながら、それに出場することになりました。
自分の意思というよりは勘違いと物欲につられて……。
で、本来なら瞬殺のところを、初戦の相手がのんびりな眠りネズミさんだったため、
どうにか勝たせてもらえました。
私はその後、控え室に戻り、仮眠を取ることにしたのです。
そして夢の中の、さらに夢の中で、改めてナイトメアに会いました。

「一回戦に出たのはまずかったな。他の役持ちが君の参加を聞きつけたんだ。
棄権は難しい……というか君を棄権させないよう、主催の私に圧力がかかっている」

宙を浮きながら、ナイトメアは難しい顔をします。
「はあ……」
自分もフワフワと夢の空間を漂った。
私、ナノさんはこの世界の方々からモテモテです。
でも、それは私がもともと持っている魅力でも何でもなく単に『余所者だから』
好かれているんです。そう思えば役持ち連中の寵愛も、全然嬉しくありません。
「君の魅力もあると思うがなあ。余所者だからと、全員が愛されるわけでは……」
「そういう議論はいいですよ。ナイトメア。それより一緒に考えて下さい」
私は夢魔に懇願します。

初戦はほとんどノリのマグレ勝ちでした。
けど、ビギナーズラックが何度も続くほど役持ちは甘くないでしょう。
友達と戦うのも嫌だけど、勝った相手に好き勝手にされるのは、もっと嫌だ。
「ね、お願いします。負けたら好きにされるなんて、夢の中でもごめんです。
助けて下さいよ。あなたにしか頼れないんです。ね、ナイトメア」
プライドのない女とか仰らないで下さい。それくらい八方ふさがりなんざんす。
そしてしばらく沈黙があり、夢魔の声がしました。
「分かった。なら二回戦は、主催者権限で、君の対戦相手を私が強制指名する。
そして絶対に君を傷つけない相手を出そう。そいつにワザと負けるといい」
「ありがとう、ナイトメア!!」
私は大喜びで夢魔に礼を言いました。

5/20
続き→
トップへ 短編目次 長編2目次


- ナノ -