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■VS.ピアス2

一度、整理しましょうか。つまり、

1.これは隠し芸という名の天下〇武〇会。
2.夢の中なので、武器は各自が使い慣れたものを思い浮かべて使う

ということらしい。
『なら余所者の私が役持ちに勝てるわけないじゃないですか!私、逃げますよ!』
体裁なんて構ってられるか。
眠りネズミさんはいじめられっこですが、それは役持ち相手でのこと。
平和に育った日本人の小娘なんか、勝利できっこない!
『ダメだナノ、そんな弱気でいると体力が……!』
そして司会の声がかかります。
「おおっとナノ選手!怖じ気づいたか!?HPが下がりました!」
何ですと!?とパネルを見ると……

『HP:9』
さ、さっきは13だったのが……!
「う、嘘……HPの方は精神力が繁栄されてるんですか!?」

ますます不利じゃないですか!誰よりも気弱で控えめなナノさんなのに!
もう敗北確定だ。なら住人全員の前で大恥をかこうと知ったこっちゃないです。
大金も豪華賞品もどうでもいい。
夢の中とはいえ、×されるのは嫌です。
私はピアスに背を向けて走り出す。するとナイトメアの声が、

『ナノ。逃げると不戦勝だ。ピアスの好きにされるぞ?』

「え……どういうことですか?」
と立ち止まるより早く、耳元で嬉しそうな声がした。
「俺、獲物を追いつめるのは得意なんだ」
同時に凶器と化したシャベルが耳元をかすめる。
い、今よけなかったら、シャベルが頭に激突してました!
眠りネズミさん、そういえばものすごい駿足だったっけ。そして、


『勝者は、敗者の武器ないし”敗者自身”をもらえるルールなんだよ……』


……ちょっと待て。
大歓声響く会場のど真ん中で、汗がタラリと頬を落ちる。
「へへ。大丈夫だよ。動けなくするだけ!
俺は君が欲しいし、友達にひどいことはしないからね!」
ニコニコと。間近のピアスは『友達』の私に、鋭利なシャベルを振り上げる。
「わっ!」
私はなけなしの反射神経を頼りに、必死でよけながら、
『ナイトメア、どうすればいいんです!逃げても戦ってもダメじゃないですか!』
あ、私のHPがさらに下がって『HP:6』になってる。
ゼロになったら負けなことは嫌でも分かる。

『こうなったら勝つしかない!素手でピアスに勝つか、何でもいいから使い慣れた
武器を出すんだ!心まで負けたら、本当に君は眠りネズミに好きにされるぞ!』

『私の武器って言われましても……』
焦りつつ、必死で考える。
何か武器になるものはないのか、何か……。

――あ。そうだ。
と思ったとき、足に衝撃が走った。

「い……いたあっ!」
ピアスのシャベルがついに私の足をとらえたらしい。
シャベルとは思えない痛みに、石畳を情けなく転がり、情けなく悲鳴を上げた。

痛い。すごく痛い!血が出たか、×が見えてるか。見たくないくらい痛い!!
それに反応して、盛り上がって叫ぶ観客。
パネルを見ると、私のHPは一気に『1』になっていた。
私は地面を転がって苦悶し、涙のあふれた瞳で眠りネズミを見た。
「ピアス……!」
「ナノ。大丈夫。俺、君が大好きだから、すぐ終わらせてあげる。
そのあと、控え室でいっぱいいっぱい、可愛がってあげるからね!」
勝利を確信したピアスは、残酷なほどに優しい目をしている。
というか、あなた、控え室でコトに及ぶ気ですか!!
『もう降参しろ……嫌な夢は、目覚める前に私が忘れさせてあげるから』
もはや沈痛を通り越し、感情を消したナイトメアの声。
しかし、究極の危機を前にして、私の腹もようやくすわり出した。
『ナイトメア……』
『ん?』
『あなたは私を××だと思っているようですが……』
『え?いや、そ、その、そこまでひどくは思っていない!私は君をもう少し……』
『私が元いた世界には、こういう言葉があるんですよ。
”××とハサミは使いよう”ってね!!』
そしてピアスがシャベルを振り上げた瞬間。
「えいっ!!」
私の手の中に出現したハサミが、宙を走る。
それは当たりこそしなかったけど、ピアスの足をかすめた。
「い、痛いっ!?」
反撃すると思わなかったらしいピアスが目を見開き、シャベルを止める。
『ナノ。その慣用句は私も知ってるが、多分使い方が違うと……』
ナイトメアのツッコミは無視し、私は腹ばいのまま一気に移動し、ピアスの尻尾を
つかむと……ギューッと引っ張る!!
そして今度はピアスが、痛みに悲鳴を上げた。

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