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■VS.ピアス1

『いったいどういうことですか!”バカ”って何!ケンカ売ってんですか!!
あとレベル0.15って何すかっ!1くらいくれたっていいじゃないですか!』
どこにいるか分からないナイトメアに、パネルを指差し絶叫する。
『ち、違う違う違う!!君とこの世界の住人と比較した、相対的な能力なんだ。
私は確かに君が好きだが、主催側だから一方への肩入れは許されないんだよ!!』
「主催……?」
聞き覚えのある単語にピクリとする。

舞踏会、会合、サーカス……『主催』とはそのたびに聞いた言葉です。
――ん?もしかして、この隠し芸大会って……。
ふと、いやな予感が胸をかすめます。

けどナイトメアに問いただす前に、夢の中のピアスが嬉しそうに言った。
「へへ。ナノは俺よりずっとずっと弱いんだね。安心しちゃった」
私はピアスを振り返る。私は震える声で、
「で、でも隠し芸大会ですよ?レベルがどうだろうと、優れた芸さえ見せれば……」
でもピアスは聞いちゃいない。ニコニコして、
「なるべく、すぐに終わらせるようにしてあげるね!君が好きだから!
よし、ケガの少ない武器で終わらせてあげる!」
「え?武器……?」
すると、ナイトメアの慌てた声が響いた。
『ナノ!君も武器を出すんだ!早くっ!』
と、いきなり言われましても……!
『ぶ、武器?隠し芸大会なんですよ?それにどうやって出すんですか!?』
『思い浮かべるだけでいい!何でもいいから早く!!』
ナイトメアの声には、私の反論を許さない迫力があった。そしてすぐに修正が入る。
『いや、何でも良くない!君が使い慣れた……』
でも、夢魔に急かされ、私も焦り始める。
『ええ?お、思い浮かべればいいんですか?』
まあ夢ゆえに、私も手ぶらで会場に来ちゃったんだけど。
思い浮かべるだけなんて楽でいいですね。何だか魔法っぽい。
いや、そんな場合じゃない。早く出さないと……!
『ナノ、落ち着いてこの場を乗り切るんだ。頼むから……』
じゃあ、普段は使わない銃を思い切って出そう。
――銃出ろ、銃……。
瞬間、私の手がゲームの効果のように光った。そして手の中に『銃』が出現した。


「すごい、さすが夢ですね!本当に出ました!……あれ?」
喜びかけた私は声を止めます。
……何だコレ。他の役持ちが使ってる銃と違う。
ええと、例えるなら『イラストを描き始めたばかりの子が、資料を全く見ないで描いた
銃』みたいですな。撃鉄がないし、引き金の場所が間違ってますし、何よりラインが
フリーハンドみたいにふにゃふにゃ。
でも正しい銃は……と思い出そうとしてもイマイチ思い出せませんです。
「へへ。ナノは銃を使ったことないでしょ?
それじゃ、『隠し芸大会』で使える銃なんか出せるわけないよ。
それに、出したところで銃は使用禁止だもんね!」
ちょっと勝ち誇った感じのピアス。
「ええ?銃はダメなんですか!?」
ピアスはというと、いつも使っているシャベルを、いつの間にか手元に構えてます。
――あれ?シャベルなんて、会場に持って来ましたっけ?
あ、そうか。彼も私みたいな謎パワーでシャベルを出したんだ。
そして司会の人の声がする。
『おおっと!ピアス選手、攻撃力が一気にアップしました!』

「へ?」
私は会場の観客さんたちと一緒にパネルを見る。
するとピアスの攻撃力の表示だけが、
『攻撃力:47』になっていた。さっきは『17』だったのに!
でもやっと理解し、私は落書き銃を放り出して、ポンと手を打つ。
「ああ、なるほど!空想で武器を出す。それに応じて攻撃力が上がるんですね!」
そういえば会場の外の顔なしさんもハサミとペンとか、泡立て器とか言ってたっけ。
それじゃあ確かに、参加出来ないわけですか。
私の銃が落書き同然だったことも納得です。
細部なんてろくに覚えちゃいないから具現化出来るわけがない。
すごいなー。ゲームだなー。だから『隠し』芸大会なんだ。納得しましたー。

――て、あれ?

そして私は我に返る。ちょっと待って。
『隠していた』武器を出すから隠し芸大会……ということは……。
同時に、静かなナイトメアの声がした。

『そういうことだ。ナノ。
この大会は銃以外の武器を使った、立派な勝ち抜きバトルだ。
そして、気づいているだろうが、これは君の夢でも何でもない。
不思議の国の全員が参加する、夢の空間内での催しなんだ……』


「え……?」
ナイトメアの言葉に反応する前に、冷酷な司会の声がした。

「それではピアス選手対、ナノ選手の試合……開始!」


声と同時に動いたのはピアスでした。
「ナノ、行くよ!動かないでね!!」
「う、うわっ!」
シャベルを振り上げるピアスを慌ててよけ、私はナイトメアに叫ぶ。
『つ、つまり、ピアスも観客の人たちも、私が作ったんじゃなくて、みんな本人
だって言うんですか!?』
『ああ、そうだ!それぞれが夢を見る形で催しに参加しているんだ!
君も現実の空間ではベッドに入っている。そしてみんなと同じ夢を見てるんだ!』
催し……会合や舞踏会と同じく、全員が参加必須というアレですか!
『君は余所者だから、参加しなくても良かったのに。
しかも初戦でピアスに当たるとは最悪中の最悪だ……!』
もうナイトメアの声には半分あきらめが入っていた。

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