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■ナノ、参戦2

「はいです!」
いよいよ私の出番です!
緊張と高揚を半ばに、私は元気よく立ち上がる。
にしても、夢と分かってる夢なのに、会場も顔なしさんたちも、私が作った夢だと
思えないほどリアルです。
自然、緊張してしまう心を、これは夢だと自分に言い聞かせ、待合室を出る。
『ナノ!止めておきなさい!今なら間に合うから……!』
別にいいじゃないですか、と私はナイトメアに応える。
『だって夢じゃなかったら、こんな大会に出る機会なんて一生ないですよ?』
ハートがチキンな私のことです。
現実の不思議の国だったら、参加する想像だけで震え上がって、受付を後にするに
違いありません。
私は顔なしの係員さんに導かれるまま、会場までの道を歩き出した。

『ナノー!冗談じゃすまないんだ!負けたら大変なことになるぞ!』
『勝てばいいんでしょう?私は飲み物の腕には自信があるんですよ?』

審査員の人の前で芸を披露して点数をつけてもらうんでしょう。
それで一番得点の高い人が優勝という感じで。
夢とは言え、燃えるなあ。
そして必死なナイトメアの声がする。
『違う!全然違うんだ、ナノ!これは対戦形式なんだよっ!!』
『対戦?』
うーむ。二人の挑戦者がそれぞれ芸をし、得点を競うトーナメント方式ですか。
さすが私の夢。漫画っぽい。料理対決とか、そういうジャンルが好きだったのかな。
けどナイトメアの声は相変わらず必死です。

『ナノ!いいから今すぐ帰るか夢から覚めるんだ!
これは君が想像している隠し芸大会とは、根本から違うものなんだ!』

『でも、私の夢なんでしょう?それに、もう会場についちゃいましたよ?』
『何……っ!?』

会場に続くトンネルをくぐると、さーっと視界が明るくなりました。
気がつくとそこは青空の下でした。
「……うわあ。本当に格闘大会そのものの会場ですねえ……」
自分の声すら聞こえないような大歓声。
ローマの闘技場のような丸い会場、階段状の客席。もちろん客席は満員。
そして巨大な円形の闘技台。
あの闘技台から落ちたら場外負けというやつですか。
隠し芸大会なのに、これじゃ何とか武道会ですね。
つくづく自分の想像の貧困さに涙が出ます。
するとまたまたナイトメアの、傷ついたような声がしました。

『貧困で悪かったな。私の作った会場だぞ……。
あと、別に落ちても負けじゃないからな。そこまで細かいルールじゃないんだ』

棄権を勧めるワリに、親切に解説してくれるナイトメア。
私は戸惑いつつ、歓声に押されるように、とりあえず闘技台に上がりました。

――でもさっきから何か変ですね。
私の夢のはずなのに、ナイトメアが会場を作ってるらしい。
そして私が参加しちゃダメ?今すぐ逃げろ?
どういうことなんでしょう。
それに観客席の顔なしさんたち……一人一人、顔も違えば歓声も違う。
アニメで言えばモブキャラまで、丁寧に描き分け出来ている状態だ。
本当によく出来ている。私、実は作画監督の才能があったりする?
『またマニアックな例えを……いや、だからなナノ。これは……』
そして頭の中の声をかき消すくらいの巨大な音声が響きました。

「ナノーっ!!ナノっ!!」
「え……?」

私のいる、ちょうど向かい側。反対の入り口から現れた対戦者は、ピアスでした。


「ピアス……ピアスなんですか?」
知り合いの姿に思わず声をかけると、
「ナノ!一回戦の相手は君なんだね!俺、すごく嬉しいよ!」
いつも通りにはしゃぎ出して、くるくる回るピアス。
まあ、余所者が参加出来るんだから、役持ちが参加出来て当たり前だろうけど。
『でもピアスなんて意外ですね……』
夢の中で芸を競う相手。
苦手な人、もしくは好きな人が出て来そうなものなのに。
いえ、ピアスも友達。嫌いじゃないです。

『あのな、ナノ!いいか、眠りネズミに負けたら君は……』

「それでは、パネルにご注目下さい!両者のステータスを表示いたします!」
と司会さんの、ノリノリの声がマイクを通した音声で響きました。
そして耳が割れそうな拍手と歓声がした。
「へ?ステータス……?」
隠し芸大会にステータスっているんですか?というか何のステータス?
どうやって調べたんですか?

――あ、そうか。ナイトメアが用意した夢だからですね。

ナイトメアなら、不思議の国全員のステータスを知っていて不思議じゃない。
『ナノ、頼むから聞いてくれ!この大会はなあ……』
ナイトメアの声も聞こえますが、私は『ステータス』という言葉が気になって、
会場に設置された巨大な電子(?)パネルを注視しました。
そしてピアス側のパネルにでっかく表示されたのは……

『name:ピアス=ヴィリエ
 HP:275
 攻撃力:17
 レベル:7
 階級:役持ち(お掃除ネズミ)』

え?RPG?いえ、分かりやすいけど。
「とはいえ……ピアスはレベル7ですか。HP275も高いですね……」
いえ、基準もよく分からんですけど。さすが役持ち。

が、これは私の夢の中!
私に好意的なナイトメアなら、私の能力をより高くしてくれているはず!
そして私は私の方のパネルを振り返る。そこには……こうあった。

『name:ナノ
 HP:13
 攻撃力:1
 レベル:0.15
 階級:余所者(バカ)』

「ナイトメアぁぁーっ!!」
そして私の怒号が会場にこだました。

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