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■ナノ、参戦1

主人公:長編1夢主。ウマシカ。緑茶大好き。

※いろいろ悪ノリ傾向です。
※『夢主が役持ちを倒す』という内容がメインで、夢主が本編より調子こいてます。
※少しでも不快に感じられましたら、すぐにページを閉じて下さい

…………

そう。あれは夢。後から思い出しても、タチの悪すぎる、夢魔の悪ふざけとしか
思えませんでした……。

…………

「…………あれ?」
ふと目を開けたとき、そこは夢の空間でした。
それはともかく、私はそれまで自分が何をしていたかを忘れてしまいました。
「ええ!?また記憶喪失ですか!?」
私は焦って、思い出そうとし、それはいくらか成功しました。
それで自分のプロフィールをもう一度振り返ることにしたのです。


私の名前はナノ。日本からやってきた余所者の女の子。
特技は紅茶と珈琲と日本茶を淹れること。
嫌いな物は……人の意思を無視して迫ってくる男性。
「うん、記憶は正常なようですね」
夢の空間で腕組みをしてうなずきます。
しかしその割に、どうも記憶にあやふやな点がありますね……。

まず自分は、今どこの領土に住んでいたか。
目を開ける直前まで何をしていたか。
どうも頭がフワフワして思い出せませんです。
「はてさて。困りましたね」
困って困って辺りを見回す。

「あら?」
気がつくと、周囲は夢の空間ではなくなっていました。
見覚えのある街が見えます。どうやら、クローバーの塔近くの街でした。
「あらら。とりあえずクローバーの塔にでも行きますかね」
私は首をひねりながら歩き出し……三歩も行かないうちに立ち止まる。
たいそう人だかりのしている場所が目の前に見えました。

『新春隠し芸大会開催!参加受け付け中!!』

どデカい看板の文字が人だかりの向こうに見えました。
「んん?」
しかし看板以上に目を引くのは、建物です。
これ……帽子屋屋敷やクローバーの塔並みにでかくありませんか!?
元の世界の建造物に例えるなら、野球場かサッカー場か。
それくらい大きくて、間近では全貌が把握出来ないくらいです。
ここでその『隠し芸大会』とやらがあるようです。

――でも、こんな大きな建物、いったいいつ建設されたんですか?

不思議の国にしたって、やることが豪快すぎる、
でも私以外の誰も疑問に感じておられないようです。
入り口らしきところには何やら受付所まであり、顔なしの人たちが並んでます。
――賞品は何なんですかね?『隠し芸』って、紅茶を淹れるとかもいいのかな?
首を傾げつつ、私はまた看板を見る。
けど、参加条件や賞品などについての、詳しい説明はどこにもありません。
とにかく『隠し芸大会』がこれから開催され、参加者を募っている。
これは確かなようです。しかし詳細がサッパリ分かりませんです。
しかし不思議の国のことです。内容は物騒なものかもしれません。
私は顔なしの人たちの話に耳をすませてみました。

「あんたはどうする?参加する?」
「俺は無理だよ。ハサミとペンくらいしか出せないし。絶対に勝てないって」
「私も。泡立て器や麺棒を出したんじゃ、笑われちゃうわね〜」

そんなような会話が耳に入ります。
なるほど。これは私の想像通りの『隠し芸大会』らしいです。
自分たちが使える材料で、思い思いの芸を披露するんでしょう。
会話を聞くに、普通の顔なしさんたちも気軽に参加出来る大会のようです。
でも、私はちょっと迷いました
――緊張しますしね。あがり症ですし、興味はあるけど、ちょっと無理かな。
危うきには近寄らないに限ります。
私はさっさと顔なしさんたちの人だかりから離れようとしました。
そのとき、また会話が耳に入りました。

「それで優勝賞品はどんなのが出るの?」
「大金でしょ、宝石でしょ。それからものすごく稀少な紅茶や珈琲に……」

私はすみやかに、参加受け付けの列に並びました。

…………

「こちらでお待ち下さい」
と言われて通されました待合室。
そこには××人くらいの顔なしさんたちがいて、みんな静かに待っていました。
私も隅の椅子に座り、緊張しつつ待っていました。
すると突然、頭の中で大声がしました。

『ナノーっ!!何だって君まで参加するんだ!!』

「っ!!」
突然、怒鳴り声が聞こえ、心臓が止まるかと思った……!
「え?え……!?」
思わず椅子から立ち上がり、キョロキョロしてますと、
「どうしたの?」
「君、どうしたんだ?」
待合室の注目の的になっていました。
顔なしさんたちが不審そうに私に聞きます。
「あ、いえ、失礼しました……」
とっさに、何ごともなかったかのように謝り、座り直してしまう。
待合室には再び静けさが戻り、誰一人声を聞いた様子はありません。
どうも怒鳴り声は私だけが聞いたようです。
そして私は椅子に縮こまり、『声』の持ち主をどうにか思い出した。
で、心の中でそーっと言ってみました。

『ナイトメア、あなたなんですか?』

そっと辺りをうかがう。でも、待合室に病弱な夢魔の姿はありませんでした。
顔なしさんたちは緊張して座り、ときおり誰かが呼ばれ、出て行きます。
そしてやっと返事が聞こえてきました。

『大丈夫だ、ナノ。姿は見えないが私はいる。君を見ている』

「……??」
分からなくて、ますます混乱する。そして声に出さず、聞きました。
『ナイトメア?あなたは本物のナイトメアなんですよね?』
『そうだ。君の心に直接、話しかけている』
『え……でもどうして姿を見せてくれないんですか?』
現実の世界でナイトメアと会話するとき、必ずナイトメアが姿を見せていました。
こんなテレパシーのような会話は不可能だったはずです。
そしてナイトメアの返答が聞こえました。

『ナノ。落ち着いて聞いてくれ。まず君が今いるのは、夢の空間なんだ』

え……?夢?
何だ。それなら納得です。
いきなり変な隠し芸大会が開催されたり、見慣れない巨大会場が建っていたり。
同時に、一気に緊張が抜けてホッとする。
なーんだ、全て私の作り出した夢だったんですか。
私に『隠し芸大会に出たい』という願望があったことは驚きだけど、これが夢なら、
成功しようと失敗しようと怖がることはない。全部夢ですから!
すると、焦ったようなナイトメアの声が、

『違うんだ、君をこの危険な夢から締め出すのを忘れていたんだ!
いいか、今すぐ待合室を出て、棄権を……!』

そのとき、係員の顔なしさんの声がしました。

「××番のナノさん!会場に行ってください!」

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