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■怒らせた話17

それから時間帯は飛びます。ちょっと飛びます。
場所はブラッドの部屋のベッドの中です。
パーティー?ナイトメアが飛びかかろうとするグレイを夢魔の力で無理やり抑えて、
クローバーの塔に強制送還。ブラッドは私を伴い、会場を後にしました。
現在、情事は終わっております。ドレス効果なのかグレイに圧勝したせいか、いつも
以上にブラッドは激しく求めてきました。
さすがに情事の最中は鎖をしませんが、ブラッドの部屋に戻ったので、また首輪を
つけられてます。それで激しく動いたから、ちょっと首が痛いの。

…………

「嬉しくはないのか?ナノ」
暗闇の中、ぼんやりと光るベッドサイドランプ。
淡い光に照らされたボスは、前をはだけたシャツ姿。
私の手をとり、その甲に口づける。
「私が君と結婚までしてやると言っているのだ」
「いえ……それが、あまりにも意外すぎて……」
私はネグリジェ一枚。ふかふかのベッドに沈みながら言う。
「寂しい反応だな。困った子だ」
無意識に丸まろうとしては、ブラッドにほどかれ、抱きしめられた。
声は甘いけれど、同時にその声は、いつでも私に非情な命令を下すことが出来る。
「結婚ですし。実感がないというか」
こうも堂々とペット扱いされ、まさかそこから『結婚』という言葉が出ようとは。
「おかしくはないだろう。私は君にプロポーズをしたことがある」
ブラッドが、私の胸元に口づける。ちょっと熱い。所有印つけられたかな。
「それは、そうですが……」
困ってブラッドに背を向ける。
するとまた身体を引き寄せられ、今度は背中に口づけられた。
そしてマフィアのボスは私の首輪を撫で、おぼろな光の中で私にささやく。

「私の求愛を受けてくれるだろう?ナノ」
「……はい」

あっさり答えるけど、愛ではなく恐怖から。
ただ100%嫌ではなく、どこか安堵している、打算的な自分もいる。
――これで、少しは扱いがマシになるでしょうか。
いかにマフィアのボスといえども、自分の妻に人前で奉仕させることはないだろう。
私がブラッドに向き直り、その胸に顔をよせ、息を吐いていると、
「では、しばらく君とはお別れになる」
「……え?」
言われた言葉の意味をはかりかね、ブラッドを見上げると、
「花嫁修業だ。しばらく別の場所に行ってもらうことになる」
「あ、はい。そうですか」
確かに、組織の長の妻だし、それなりに準備はいるでしょう。。
お料理とかお洗濯とか……いえ、マフィアのボスの女のすることじゃないか。
社交術とか、各種マナーとか、徹底的にたたき込まれるんでしょうか?
――でも、ブラッドの目がないのなら……。
逃亡への期待が、心にわずかな光を落とす。
ブラッドの目がないのなら、こっちのもの。
誰が指導役になるか知らないけど、隙を突いて逃げ出せるだろう。
そう甘く考えていた私は、ブラッドの次の言葉に凍りついた。

「君が行く場所は――――だ」

「…………っ!!」

ブラッドが口にした、その『店』の名は知っていた。
帽子屋ファミリーが所有する中でも最大規模の……えーと、その、し、娼館。
えーと、きれいなお姉さんたちが、男の人に××なサービスをするお店ですね。
確か、あそこって会員制で、その会員にも色々ランクがあって、一番低いランクでも
かなりの収入がないと入れなかったような。
でも、その最低ランクでさえ『入会が許可された』というだけで男としての泊がつき
周囲の男性から一目置かれる。そういうステータス的な意味さえ持つ超高級娼館だ。

「君はその中の、最高クラスの蝶たちから学ぶことになる」
「え……」
一番上のランクともなると王侯貴族並、いやそれ以上の会費が求められる。
その代わり、供される美女たち、その美女たちのテクも超絶だそうな。
「いえ、あの、でも……わ、私の、その、そっちの、し、しつけはあなたが……」
あまりのことに、しどろもどろに言うと、ブラッドは私の頭を撫で、
「男では教えにくいこともある。
君もそういった場所なら、学ぶことも多いだろう」
学びたくない!一生学びたくないですよ!!
「で、でも……わ、私はそっち方面のことは、あなた以外からは……」
媚びも入れつつ、遠回しに遺憾の意を表明してみる。しかし、
「命令だ。行きなさい」
……拒否権はないらしい。

でも、いくら何でも妻になるため、娼館で夜のテクを学んで来いなんてあんまりだ。
「それに……あの、まさか、お客さんを取らせることは……」
恐る恐る言ってみる。そういったことは無いだろうけど、いちおう確認の意味で。
だってグレイがちょっかいかけただけで、あれほど激怒した独占欲の持ち主だ。
他の人前に私の身体をさらすことはあっても、まさか身体を……させるなんてねえ。

「ありうる」

ほーら、分かってはいましたが、即否定……。

…………え?

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