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■怒らせた話14

※R12

そしてまた、どれだけ時間帯が経ったのやら。
ブラッドの部屋は窓が見当たらない。よって時間帯が分からない。

今はブラッドも仕事に出かけ、私はお留守番。かといって私ナノはすることも
なく、ソファで膝を抱え、ぼんやりしていた。
――困ったですねえ……。
私は丸まった姿勢のまま首筋を撫でる。そこには鉄の感触があった。

鎖。チェイン。拘束具。変態か。変態か。
そう。首にですね。囚人を拘束するみたいなゴツイ首輪がされてるのですよ。
それだけでも重いのに、鎖までつけられている。
だがしかし。鎖が結びつけられてるのは、テーブルの脚。
なめてんのか。テーブル持ち上げたらスポッと抜けるわ。
「…………」
私は身体を伸ばして緩慢に起き上がり、テーブルを持ち上げようとした。
「ん……ん……」
お、重い……。
しかし頑張れば持ち上げられなくもない気がする。
「……ま、いいですか」
でも私はあきらめ、またソファに戻る。そして背中を丸くし、膝を抱えた。
何回逃げたって、ブラッドに捕まってひどいお仕置きを受ける。
それに、半強制とはいえ服従を誓ったことだし、仕方ない。
「……寝ますか……」
他に出来ることもなく、私はソファのクッションを枕代わりに目を閉じる。
丸まった背中をさらに丸め、膝を抱えた。
私はずっと、ずーっと鎖でつながれている。
え?鎖でつながれて、いろいろなことはどうするかって?
そこがマフィアのボスの情婦。ベルを鳴らして使用人さんを呼ぶのです。
必要な用事は使用人さんたちがこなしてくれる。歩かなくて良い安楽生活だ。
ただし『必要な用事』のみ。他はダメ。
例えば少し歩けば本棚があるのに、本は禁止らしい。
紅茶は良くてもお菓子はダメ。使用人さんに話し相手になってもらうのもダメ。
結果として、私はこの何十時間帯だか何百時間帯だか、ブラッドに抱かれる以外、
ぼんやりと丸まっている。
そういえば、鎖につながれ出した頃。最初、鎖の先はテーブルの脚じゃなくて、重い
家具の金具に溶接されていた気がする。
いくら暴れても取れなかったんだった。
持ち上げれば抜けるテーブルの脚に、いつ変わったんだっけ。
何か思い出せない……。

「やあ、お嬢さん。待たせたな」

そしてガチャッと扉を開けて現れたのは、ブラッド=デュプレである。
後ろには使用人さんも控えていたので、私はちょっと身体を硬くし、言った。
「お帰りなさい」
「ああ、ただいま。会いたかったよ、ナノ」
ブラッドは帽子と上着を、連れてきた使用人さんに片付けさせ、紅茶と茶菓子を
用意した後、下がらせた。
私はホッとして、全身の緊張を抜いた。なぜか汗が流れた。
後にはボス、テーブルの紅茶と茶菓子、そしてソファで身体を丸くする私がいる。
「ふむ」
ボスはソファに丸まる私に近づいてきた。
まず、鎖の先、テーブルの足を確認する。むろん鎖は抜けていない。
そして満足したように私の首輪を撫で、
「大分、慣れてきたようだな。ほら、丸くなるのは止めなさい」
と鎖を引っ張った。私は顔をしかめるも、反抗はしない。
そしてブラッドはソファに座ると、私に顎で何かを促す。
私も心得ていて、ノロノロとソファから下り、ブラッドのズボンに手をかけた。

いつもではないけど、帰ってきたブラッドにご奉仕させられる。
もちろん私が応じなければ出来ないはず。でも逆らうとお仕置きだ。
この首輪だって、ブラッドと二人きりのときでさえ外してもらえない。
ちなみにお仕置きといっても色々ある。確か、何時間帯もぴくりとも動かないでいる、
みたいな変なお仕置きをされたこともあったっけ。あれは地獄のような拷問だった。
もし動いたらどうなるかって?ご想像にお任せします。
とにかく、もっとひどい目に、ひどい目に遭うのですよ。
おかげで常にブラッドの顔色をうかがう癖がついた。
彼の許可なしには、何一つさせてもらえない。

そしてまあ私はブラッドに、必死で慰労のご奉仕をする。
口を動かしていると、頭を撫でる気配。
「悪くはない。もっと舌に力を入れなさい、ナノ」
「はい、ブラッド」
ひたすら悦んでもらうために技術を尽くす。
部屋に誰が来ようと関係ない。
そして、もう少しかというところで、ブラッドは止める。
「服を」
「はい」
私は顔を離して立ち上がると、スッと自分のシャツに手を伸ばし、ボタンを外す。
ブラッドの見ている前で、一枚一枚服を脱いでいく。

帰ってきたブラッドにはご奉仕をする。人がいようといまいと関係なく。
しかし服を着させてもらえるだけ、マシ。
人がいるというのに、私に服を全部脱がせて×××とか、普通にあったりする。
もちろん最初は猛烈に抵抗したけど……まあ、激しいお仕置きを受け、今は普通に
出来ます。ファミリーの関係者さんたちも精神が出来たもので、私がどんな格好で
何をしていようと、完璧に私を無視して、ブラッドと会話してのけるのである。
ただし平静を装いながらも、私を見る目には、間違いなく欲情の色。
彼らはボスの部屋を出た後、結構な割合で、彼らの客室に足早に消えるらしい。
そして扉に耳をつけると、中から、××な声と私の名が聞こえるのだそうな。
……聞きもしないのに双子どもが教えてくれた。
エリオットに命令して、しこたま殴らせておきましたが。

一度は結婚を申し込んだ相手に、この仕打ち。
これは変態趣味というより、調教が目的なんだろう。
人前で恥をかかせ、貶めることで精神的に屈服させる。
同時に内外に私の××な噂を広め、外に出られなくしてしまうと。
実際に私は、そういった調教が始まってから、恥ずかしさでブラッドの部屋を出られ
なくなり、考えるだけで足が震えてしまうようになった。
そして調教なものだから、例え機嫌を損ねていなくても、人前で屈辱的なことを
強要されたりする。彼の気分次第で、どんな残酷な恥をかかされるか分からない。
おかげで知人や友人の前で奉仕するのも、複数の人前で服を脱ぐのももう慣れた。
ボスの女とは名ばかり。私はペットとしか見られていない。

あー、そういえば鎖をつなぐ場所がテーブルに変わったのは、その頃からでした。

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