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■店を改装した話12

暗闇の中、何か奇妙な感触を抱く。
違和感。でも気持ちいい。
足を抱え上げられ、秘部を晒し、そこに何かが押し入る。
声を上げようとしても上げられない。身体がちゃんと動かない。
何とか目を開けようとしていると、誰かが私の顎を持ち、口を開かせる。
割って入ってきた大きな形には覚えがある。
私は無意識に『いつもどおり』舌を動かした。

どこからか声が聞こえる。
『へえ、こんなになってもちゃんとご奉仕してくれるんだ。すごいね』
『念入りにしつけたからな。エリオット、次はおまえが入れるか?
後で、外の双子も呼んで筆下ろしをさせてやらないとな』
『あ、ああ……』
『帽子屋、もう少しいたわって……』
『トカゲさん。自分が終わったからって、取って付けたように心配するなよ』
『ブラッドさん。その次は俺だよ。協力することにしたんだから』
知り合いの声がたくさん聞こえる。
でも目が開かない。自分の力で動けない。
『こんなに大人数でユリウス一人に対抗するってのも変な話だよな。あはは』
ぐちゅっと音がして突き入れられる。
口の方の行為も続いており、誰かが私の頭をつかみ、揺さぶっている。
『俺は扉を時計屋さんのところにつなげない。それは誓うよ。
でもナノにひどいことするのに賛成したわけじゃないよ』
『わかっている。今だってナノを目覚めさせずにやっているだろう』
……マフィアの言い分は相変わらず勝手だなあと、意識の底で思う。
『順番の割り振りは任せろ。ナノに過重な負担は強いない。
時間帯を管理して、監視付きの外出も許可するし、たまには店もやらせる。
要はドアに近づけなければいいんだ』
『ダルいが、ナノのためだ。時計屋に盗られるくらいなら協力しよう』
『あ、俺、イく……ん……ん……』
強く突き入れられ、中に何かが放たれる。どろりとした感触。
『これで俺たちも平等にナノを愛せる。ユリウスには可哀想だけど、引越しで
ユリウスが合流すれば一緒にナノを愛せばいい。
ナノだって俺たちが監視し合うから、極端にひどい目に遭わない。
ちゃんと休ませてもらえるし店だって続けられる、自由に歩ける。大団円だぜ』
『フン、そういうおまえが真っ先に出し抜きそうだがな……ん……』
瞬間、口の中に苦いものが放たれ、それで一瞬だけ目が覚める。
「…………」
ぼやけた視界の中に、知り合いたちの姿が見えた。
でもいつものような服では無く、互いに服を緩めていたり、上を脱いでいたりする。
――みんなしてお風呂でも入るんですかね……。
エースがどき、エリオットが椅子から立ち上がる。
私に覆いかぶさるエリオットをぼんやり見ながら、私は再び意識を闇に落とした。

…………
「あーよく寝ました……」
新しいふかふかのベッドの中で目覚めた私は大きく伸びをする。
何だか妙な悪夢を見た気がする。
よりにもよって他の役持ち『達』に愛された夢。夢の中の夢ではナイトメアにまで
抱かれた。えらくぎこちなかったけど、幸せそうだった。
「欲求不満をためこむ生活でもないつもりなんですが」
歯を磨き、顔を洗ういつもの生活。朝食を取ろうと、ピカピカの厨房に向かった。
「ん?」
壁を見ると、妙なものが貼ってあった。
カレンダーみたいな変な貼り紙だ。
最初は本当にカレンダーかと思ったけど、この世界にカレンダーはない。
そこには日付の代わりに役持ちの名が書いてあった。
たいていは一人だけど、複数の名が書き込まれている欄もある。
誰の名前も書かれていない欄はない。必ず誰かの名前がある。
そして下には、ところどころ備考のように『外出可』『店可』と書いてある。
ただし数はとても少ない。
「何なんでしょうね?」
この几帳面な字はグレイのような気もするけど。
「…………」
私はそのカレンダーらしい何かに背を向け、朝食を作ることにした。
そして立ち止まる。ふと不安になった。
「……今、本当に朝なんですかね」
窓を開けようと思い、はたと気がついた。
窓がない。
改装前にはあったはずなのに、今は全部壁になり、一つも無くなっている。
換気口はあるけど、外は見えない。
何だろう。心の警鐘がどんどん強くなっていく。
私は小走りに扉に駆け寄った。
ガチャガチャとノブを回すけれど、開かない。
「そんな……」
よく見ると、外鍵に変えられていた。
つまり、こちらからは開けられないということだ。
「…………」
起きる前に見た不吉な夢を思い出す。
服を着崩した役持ちたちの奇妙な話し合い。
夢の中のナイトメア。
変わっていた私の家。
カレンダーのような妙な張り紙。
すべてがつながるには、さして時間はいらなかった。

「………………」
私はクルッと厨房に行き、珈琲を淹れる準備をする。
そして息を整えた。

――引っ越しが起こって時計塔が戻れば……。

でも引きこもりの時計屋は助けてくれるだろうか。
それとも彼も『飼い主』の一人になるんだろうか。
分からない。私は珈琲カップの波紋を見ながら、ぽつりと呟いた。
「……これが終わりなんて嫌ですよ。アンハッピーエンド反対派ですから」
そしてカフェオレを一気飲みして、思う。
「何とか、しないと……」
いつまでも受け身でいて役持ちたちに好き勝手に蹂躙される前に。
時計塔に自力で行くか、ユリウスと合流次第、彼らに立ち向かうか。
そのとき、部屋の扉の鍵を誰かがガチャガチャと開ける音がする。
――今度は、私の方から攻めていかないと。
静かに息を整え立ち上がる。
足が震え、顔から血の気が引くのは隠せない。
でも戦わなければいけない。

「ゲーム開始、ですね」

全身が震えるのを必死で押さえ、私はゆっくりと扉に向かった。

『銃とそよかぜ』
〜Another End...

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