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■迷いの鳥かご6

「お姉さん、お姉さん。最近は寝込まなくなったね」
「ちゃんと食べて眠っているよね。元気になって良かったね〜お姉さん」
メイドとしての仕事をする私に、可愛い双子がまとわりついてくる。
「うん、もうすっかり元気だから大丈夫よ」
微笑むと、双子は顔を見合わせ、
「でも、お姉さんを元気にしたのがボスって言うのが気にくわないね」
「うんうん。お姉さんを元気にするのは僕らがしたかった〜」
「…………」
この双子はどこまで知っているのだろう。
結局あのとき、ブラッドは誰も入れないよう扉を閉ざしていたらしい。
あの後、彼のベッドに場所を移された私は、起きてからそのことを知らされ、枕を
投げつけ、彼をなじった。
でも、ボスは声を上げて笑っただけで、また激しく私を求めてきた。

だから、二人のことは誰も知らない……知らないはず、なのに。
「おまえら、ナノを困らせんなよ。
ブラッドに長時間つき合わされて、身体辛いんだぜ?」
「――っ!!」
絶句する私をよそに、エリオットは双子を猫の子のようにつかみ、説教する。
「そうそう。休んでいてもいいんですよ〜。私たち変わりますから〜」
同僚たちまでが私を気づかってくる。知らないはずなのに……たぶん。
「でも嬉しいな。お姉さんがいつ帰るか気が気じゃなかったけど、これでずっと
屋敷にいてくれるよね」
「ボスに感謝だよ〜給料あげてくれたもっと感謝だけど〜」
首筋をつかまれながらも私にニコニコする双子たち。
どう返していいか分からないでいると、
「やあ、ナノ」
「っ!!」
ふいにブラッドの声がした。私は反射的に真っ赤になってうつむく。
「ちょうどいい紅茶が入ってね。君と部屋でお茶会をしようと探しに来たんだ」
「え、ええと……その……」
答えあぐねていると、
「ブラッド、ナノのこと『姐さん』って呼んだ方がいいか?気が早いか?」
「エリオット!!」
思わず叫ぶ。ブラッドの方は、きっと遊びで私と関係を結んでいる。
それより、みんなの前で何てことを言うのだろう。
「ああ、別に構わないぞ。いずれはそうなるのだからな」
「え……」
ブラッドはさらりと答えた。そして呆気に取られる私の手をつかむと、
「来なさい、ナノ」
「ちょ、ちょっとブラッド……!」
引きずられていく。振り向くと、
「ブラッド、姐さん、後でな!」
「頑張ってね、お姉さん〜!」
「ボスに僕らの休憩時間を増やしてくれるよう頼んでねー!」
「しばらく仕事は代わりますから安心してください〜」
みんなの温かい祝福に見送られたのだった……。

…………

「みんな、私たちのこと知らないんですよ」
「何が?」
私はベッドの上にいる。
そして一糸まとわぬ姿で、ブラッドに抱きしめられていた。
「あなたが、迷いを忘れさせるため、私に手を出したってこと」
仲良くなったように見えたとしてもブラッドのルールは有効で、私はこの屋敷から
出られない。命令されればすぐに彼の部屋に行き、彼が満足するまで好きにされる。
……でも閉じ込められることに安心感もある。元の世界を夢見ることも減った。
「責任は取るさ。見ての通りファミリーのボスだからね」
――薔薇つき帽子をふだんから被っていてどこが『見ての通り』ですか。
内なるツッコミは胸にとどめ、私は情婦らしく腕をのばし彼に抱きつく。
ブラッドも私を抱きしめ、
「君は最高に魅力的な女性だよ、ナノ」
「……嘘はいいですよ、ブラッド。同情して、親切にしてくれるだけで満足です」
強制されたように見えるかもしれない。
でも、ちゃっかり誘惑に乗って、元の世界を忘れようとする自分だって共犯だ。
小娘につきあってくれるブラッドには感謝している。
忘れさせてくれるだけで十分。だから無理に私を愛する演技までしなくてもいい。
そう言うと、ブラッドは実に盛大なため息をついた。
「身体がつながれば心もなし崩しに、と思っていたが、君は扱いがたい。
やはり長期戦になりそうだ」
「どういう――」
問いただす前に、再びキスで言葉を封じられた。
「愛してるよ、ナノ」
逃げ道を奪われた私は、幸せな気分でブラッドの腕の中に落ちる。
「ありがとう、ブラッド……」

彼への思いは、まだ形に出来ないままに。


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