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■猫と手錠と鎖4

温泉タイムは続く。
そしてなぜかボリスも私をじっと見ている。
「ナノ。すごく可愛い……ナノ……」
「冗談でしょ。ボリスの方が、カッコイイと思う」
「本当!?すっげえ嬉しい……!」
湯に当たったのか、ボリスのトロンとしていた目が輝く。
熱い。何かものすごく熱い。
「ん……っ」
胸にボリスの手が当たる。ち、違う。ボリスは鎖を引っ張ってるだけ。
イタズラで引っ張ろうとして、たまたま当たっただけ!お、怒らないと……!
「ナノ。俺にこういうことされるの、嫌?」
乳白色の湯の中で、ボリスの手が長い鎖を追っているのが分かる。
「い、嫌って何が……」
重くないけど軽くもない鎖。
ボリスの手は胸の間をたどり、お腹の上をなぞり、その下へ……。
「俺にこういうことされるの、嫌……?」
「あ、あ、あの……」
もう一度ボリスが聞いてくる。気がつくと向き合う体勢になっていた。
手はもう鎖を離れ、つないだ手錠を撫でている。
「ボリス。嫌って言ったら……?」
真っ赤になっておずおずと言うと、
「嫌だって、言えないようにしてあげる」
超ポジティブな返事が返ってくる。
そして手錠につながれたボリスの手が私の手に重なった。

「ナノ。好きだよ。ハートの国のときから、ずっと……」
「え……!?」

驚く私に笑い、ボリスは唇にキスをした。

…………

「ふにゃあ〜」
「ううう……」
猫と余所者。二人してグッタリと、ボリスのベッドに倒れている。
ええ、ええ。長湯でお互いにのぼせましたとも。
ボリスも実は疲れてたのか、私以上に消耗していて、ベッドに倒れた。
そういえば夏はダメとか、暑さに弱いとか、前に聞いたような。
「ナノ〜」
それでも甘えた声を出してこっちに手を伸ばす。
「ボリス。ダメ」
冷たい声を出してやる。
濡れた下着はさすがに取り、お互いにバスタオルを身体にまいただけの姿だ。
でもボリスは空いた方の手で、さっさと私を抱き寄せる。
「さっき言ったこと、忘れてないよね?」
「え?温泉で泳ぐのなら、マナー違反だよ?」
「さっきすぎ!!ほら、俺がナノに告白したこと!」
「へ?したっけ?というか、手錠をそろそろ外してほしいんだけど」
「え!?お、覚えてないの!?勇気を出してやっと言ったのに……」
ボリスは軽くショックを受けているらしい。
そういえば言われたような言われてないような。
終わりの方は湯あたりして記憶があいまいで……。
「俺、ナノが好きなんだよ!ずっと側にいてくれないと不安なんだ。
外して欲しいなら、ずっと側にいるって約束して!」
えーと、ボリスは相変わらず奇抜さが多少減退した姿で。
でも目はらんらんとしてこの上なく真剣で。
ずーっと片手がほとんど使えないのに楽しそうだった。
「ナノ。大好きだよ!」
「ええと、気持ちは嬉しいけど私は止めた方がいいよ。
私なんてすごくマイナス思考だし、ウジウジしてて、うっとうしいし……」
「だから俺みたいなのと一緒にいるのがちょうどいいんじゃないか!」
否定されないと悲しいの。
「ナノ、すっごく暗い顔してたのに、この部屋に来てからずーっと楽しそうな
顔だった。だからもう、落ちつくまで絶対に出さないって決めたんだ」
そしてボリスはさらに抱き寄せる。
温泉のときみたいな、のぼせた空気はない。
でもすごく熱い。
「ボリス……」
「ナノの暗いとこ、面倒みてあげるから……。
だからナノも俺を一人にしないでよ」
フォロー付きとは言え、マイナス面を言われると悲しい法則。
自虐もたいがいにしませう。
なんて自重してる場合ではなく、抱き寄せられる。
肌が密着する。えと、バスタオルごしにボリスの……が伝わる。
でもボリスの手がこちらのバスタオルにかかると、さすがに正気に戻る。
「ボリス、ちょっと待って!こういうのは早いよ!」
私はボリスの告白に返答さえしていない。
でもチェシャ猫は、捕らえた獲物を離さない金の瞳。
「逃げられると思う?逃がさないよ」
食べられそうな感覚に陥ってビクッとする。
でもボリスはまだ手を出して来ない。
どこか不安そうに、こちらのバスタオルの端に手をかけ、開きたそうにする。
「ナノ。嫌?俺とこういう風になるの……」
私はただただ真っ赤になっている。
「嫌…………じゃない、かな……」
「ナノ……!」
ボリスの顔がパッと輝く。うう、ダメだ。
私もボリスがすごく好き。
「だ、だから手錠、もう外してよ。えと、×××、しにくいでしょ……?」
「ダメ!」
え?即答!?

そしてボリスの手が、私を覆うバスタオルをはがした。

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