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■猫と手錠と鎖2

まあ冗談はともかく。お仕事の紹介ならクローバーの塔かな。
私は元気が出ないながらもクルッとボリスを振り返り、
「ボリス。私ね、アルバイトを増やすから」
「えええ!?」
ボリスはあまりにも意外なことを言われた、というように目をむく。
「ダメだよ!バイトなんかしたら俺と過ごす時間帯が減るだろ!?」
ボリスはすごく嫌そうに言う。それこそ意外な返答だ。
私の面倒を見る負担が減って喜ぶと思ってたのに。
「遊園地がないんだし、いつまでもボリスに迷惑かけてるワケには……」
「俺は全っっっ然かまわないよ!!」
食ってかかる勢いで怒鳴られた。
「今やってるバイトだって、止めてほしいくらいなんだぜ?」
「ええ?」
それはさすがにどうかと。でも猫さんだし、仕方ないのかな。
「はいはい。じゃ、行ってくるね」
ナイトメアも、彼のお母さ……もとい!トカゲさんもいい人そうだった。
いつまでもボリスに頼っていたら迷惑がかかるし、塔の一室を借りて、お家賃を
払いながら生活が出来ないか……と、思いつつ歩き出そうとしたとき。
カチャッと、何かが閉まる音がした。

「ん?」
あれ?進めない。あれ?それと手首に何やら違和感が。

手元に冷たい感触。不思議に思い、視線を下ろすと、
「やっぱりよく似合う。俺とおそろいだよ、ナノ」
やけに嬉しそうな声。
ふむ。片手に手錠。首に鎖のついた首輪。
手錠の反対側はボリスの手。鎖の先を持つのもボリス。
ほほう。手錠はともかく、鎖は確かにボリスのアレとおそろいだ。

「……はあ?」
呆けてボリスを見る。チェシャ猫はいつもと全く変わらないチェシャ猫笑い。
「とう」
とりあえずボリスに向き直り、空いた手で頭を叩いておいた。
「みぎゃ!何するんだよ、ナノ!!」
「それはこっちのセリフ。冗談じゃすまないから、外してよ」
ちょっと声を怒らせる。でもなぜかボリスも怒っている風だった。
「俺だって冗談じゃないよ!無理にアルバイトを増やさなくてもいいだろ!
何だってそんなに仕事が好きなんだよ!ナノは真面目すぎるんだ!」
「その心は?」
「俺と会ってくれないのが嫌!」
とっさに振ったネタに即答とな。
私は首を振った。
「そんなワガママ、ダメ。それに私は真面目じゃなくて、普通なの」
「俺だって普通だよ!」
戯れ言は耳に入らなかったことにしておこうか。
仕方なく私は説明する。
「ボリスにはお世話になったから、ずっと迷惑をかけっぱなしでいるのは嫌なの」
だから悪質な冗談は止めて、と手錠をカチャリと動かすけど、
「迷惑じゃないし、そう思うなら俺のそばにいてよ!ずっと俺に面倒を見られてよ!
あのバイトはこのまま辞めて、ずっと俺の部屋にいればいい!」
「いえ、それはそれで先方に迷惑が……ちょっと、ボリス!!」
抗議したけど、チェシャ猫は扉を作り、勝手に空間をどこかにつなげる。
「仕事の話は終わり!ほら、ナノ、行こう!」
「わ、ちょっと、手錠を引っ張らないで……!」
抗議したけど、チェシャ猫は私の手……というか手錠を引っ張って入っていった。

…………

…………

そこは、ボリスのお部屋だった。
そしてボリスはご機嫌。超ご機嫌である。
「最初からこうしてれば良かったよ。これでずっと一緒だよね」
「…………」
ボリスはソファに私を座らせ、膝に頭を乗っけてゴロゴロゴロ。
ゴロゴロは別にいいけど、じゃれつくのに手錠が邪魔じゃあないか。
このままだとお互いに困るから、仕方なく妥協案を提示する。
「ボリス、アルバイトを増やすのは止めるから、手錠は外してよ」
「ダメ。あんたと一緒にいたい」
即座に否定された。
ボリスは私の腰をぎゅーっと抱きしめる。うわ、意外に力が強い。
「ナノがここで落ちつくまで、外さないよ」
そう言って、こちらの首輪についたおそろい(!)の鎖をジャラッと引っ張る。
「あんたはいつも勝手に落ち込むし、そうでなくても一人で完結して別のところに
行こうとする。鎖でもつけて手元に置いとかないと心配だよ」
いい加減、遠回しな嫌がらせをされてる気分になってきた。
「勝手に行ったりしないってば。ボリスは私の一番の友達だし、引っ越しのとき
一番お世話になって感謝してるんだよ?」
「本当!?俺がナノの一番の友達!?」
あ、耳がピンと立った。もちろん私はうなずく。
「うん。大親友!あなたを忘れて会いに来なくなるなんて絶対にないから」
「そ、そっか……」
ボリスはまんざらでも無さそう。なのに……何だか尻尾を苛々と振ってる。
あれ?会話の選択肢を間違えた!?大親友だと思うんだけど。
「じゃ、ナノが来たお祝いに、ごはんにしよっか!」
ボリスはチェシャ猫の笑いでそう言う。
まあ役持ちだから、材料の調達はどうにかなるんだろうけど。
「…………」
私はカチャリと鳴る手錠を見た。こっち、利き手側なんだけどな……。

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