続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■たのしいおにごっこ5 「うーん。もう少し初々しく怯えてる感じがいいんだけどなあ」 「いや、×××な私に今さらそんな反応を期待されても……」 とやりとりするうちに、エースはさらに膝をこちらの足の間に割り込ませる。 ちょっと、何するんですか……と思っていると腰を持ち上げられる。 「わっ!」 バランスを失い、私は慌てて地面に手をついてしまい。 えーと、何というかうつぶせから、後ろを突き出してる体勢にチェンジ完了……。 「あの、エース?早くハートの城に行きましょうよ。 もうあなたとペーターがお相手でいいですから」 騎士はアレだけど、女王陛下は同じ女だし、ペーターもストーカーとはいえ、私が 本気で嫌がることを強要はしない。上手く立ち回れば、騎士の魔の手から逃れ、皆の ほとぼりが冷めて、店に戻れるまで、安全に城で暮らせるはずだ。 「だって君のことだし、どうせ陛下やペーターさんに守ってもらう気だろ?」 ……バレてるし。 エースはジタバタする私を無視してこちらの下の服を下ろそうとする。 「だから先に俺のだって主張しなきゃ。大丈夫大丈夫。のぞき見する役なしがいたら ×しといてあげるから」 「…………」 さすがにそろそろのんきに構えていられなくなった。ああああ!お、お尻が半分、 見えかけて……でも今さらウエスト部を抑えても抵抗にさえならない。 「や……!エース!や、止めて下さい!触らないで!」 「お!やる気になった?そうそう、そんな怯えた感じがそそるんだよ」 片手で乱暴に私の胸を愛撫する。い、痛いってば。 もちろんカケラも気分じゃない私は、好きにされながら涙声だ。 「違う、今のは演技じゃ……や……っ!」 服越しに××するのにさっさと飽きたのか、片手で器用に上着をまくり上げてくる。 「や、やだ!エース、止めて!誰かっ!!」 「あははは!そうそう。そんな声がいいんだよ」 こいつ……絶対に演技じゃないと理解してるな。 半裸に剥かれかけ、真っ昼間の路地裏でシャレにならない事態になりかけたとき、 「エース。そいつから離れろ!」 鋭い声がする。 『!!』 私とエースは同時に顔を上げた。 路地の向こう側に立っていたのは時計屋ユリウス=モンレー。 銃をまっすぐエースに向け、激怒の表情だった。 「ユリウス!」 しつこく脱がそうとするエースの手を必死に抑え、私は喜んで名を叫ぶ。 「ユリウスー!」 そしてなぜかエースも嬉しそうに言う。 「ちょうど良かった!ナノの手を押さえててくれないか?脱がすのに邪魔でさ」 『押さえるか!!』 ユリウスと私、二人同時にツッコミ。 そしてユリウスはエースに銃を向ける。 「エース。そいつから離れろ!おまえのしていることはそいつの意思に反する!」 「ええ?ナノの意思?そんなのいらないだろ?とりあえず身体があれば」 ……その心底から不思議そうな声は、冗句……ですよね? 「撃たれたいか!三つ数えるまでに離れろ!これは警告だ!一、二……」 「うーん、ユリウスが言うなら仕方ないか」 上司の言うことに素直に従い、私の上からどくエース。 「っ!!」 私はバッと立ち上がって、服を整える間もなくユリウスの元に走った。 ユリウスはすぐに私を背にかばい、変わらずエースに銃を向ける。 私は彼の背中に守られ、急いで服を整えた。今さらながら足が震え出す。 『ナノ!』 と、その頃になり、私を追いかける鬼さんたちの足音が響いてきた。 「エース」 ユリウスは銃を向け、抑揚のない声でエースに言う。エースは苦笑して肩をすくめ、 「分かった分かった。ユリウスは俺の上司だし、そういう意味じゃ俺は時計塔の 所属になるからな。じゃ、後で俺も混ぜてくれよ」 「私は、この女の共有などしない!誰とも。断じて!」 「…………」 私はユリウスの後ろに隠れ、ぎゅっとユリウスのコートをつかむ。 「あははは!じゃ、トカゲさんと鍛錬の開始といくか!」 ××騎士は謎の笑いを残し、剣を抜くと、足音の方向に走っていった。 そして、すぐに聞こえる銃弾の音と、剣の音……。 「エース、大丈夫でしょうか……」 つい声が陰ってしまう。奴は私にひどいことをしようとした××だけど、ユリウスの 親友で大事な部下ということもまた、知っている。 けどユリウスの声に乱れはない。 「あいつは、そこまで弱くはない。 それに状況次第では白ウサギやトカゲもエースに加勢するだろう」 「え?何でですか?」 「あいつらも、おまえを愛しているからだ」 「…………」 にわかには信じがたいことを言い、ユリウスは私の手を引っ張って塔の方へ行く。 背後の喧噪はみるみるうちに聞こえなくなった。 「あの、ユリウス……」 「…………」 「出来れば、一度お店の方に……」 手を引かれながら、恐る恐る主張したけど、無視された。 ユリウスの手は大きくて力も強くて、ふりほどこうにもふりほどけない。 私はユリウスに手をつながれ、妨害らしい妨害も受けずにスタスタとクローバーの 塔に入り、長い廊下を歩いて階段をいくつも上って。 「おおー」 ユリウスの作業場に到着。なじみのある機械油の匂いとチクタク時計の音。 こうして、私は鬼さんに捕まってしまった。 5/7 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |