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■たのしいおにごっこ3

私のプレハブ小屋を吹っ飛ばして現れたのは……ハートのお城の騎士と白ウサギ。

「二人とも!扉の修繕代と精神的苦痛に対する慰謝料を払ってもらいますよ!」
ブラッドに床に押さえつけられながら、顔を上げてそれだけ抗議する。
「あははは。開口一番にお金のことなんだ!」
「何て可哀相なナノ!!修繕と言わず、お城に引っ越しましょう!エース君と
一緒にあなたを……というのが気に入りませんが、僕が必ずあなたを守ります!」
エースと一緒に……私をどうするのでしょうか。
返答次第でウサギ耳を引きちぎるか。
「ああ、心配しないでくれよ。ペーターさんの後には、ちゃんと君を消毒してあげる
からさ。一緒に風呂に入って、動物の匂いをちゃんと取ってあげるよ、ナノ」
とんでもないことを言いながら、爽やかに片目をつぶる。
「何を言ってるんです!エース君の後に僕が消毒しますよ!!
迷子騎士の不潔な外の匂いなど、僕が隅から隅まで完璧に消毒してさしあげます!」
「あはは!ペーターさん。何か言い方がいやらしいぜ!」
いえ、いやらしい以前に話の内容が……というか消毒されすぎてお肌が荒れそう。
「はあ。つまらない横やりが入ったものだ。さっさとナノを連れ帰るぞ」
私を抱きかかえて起こしながらボスが言う。
すると、背後の腹心と門番が武器をかまえる気配。
むろん騎士と白ウサギもそれぞれの武器を……当然のことながらこちらに向ける。

「あの……お邪魔になりそうですので、私は安全な場所に隠れたいのですが」
ブラッドの腕の中から手を上げて主張してみる。
が、ブラッドにさらに抱き寄せられただけであった。
「はは!帽子屋さん、ナノを離したくないんだ。必死だよな。あははは!」
「言っておくが、帽子屋屋敷に引き込んだら、もうこちらのものだ。ナノが外に
逃げたときは、城のおまえたちも屋敷に追いかえす。そう決まったはずだ」
なるほど。二度と出られないようにするって、そういうことですか。
なおさらBADENDの予感。
「それはマフィアごときが勝利したら、の話でしょう」
軽蔑しきった目でペーター=ホワイトが銃を構える。
「ナノは僕が守る。彼女は永劫、ハートの城の、僕の部屋で暮らします」
「あはははは。それじゃ、ペーターさん。俺の順番は?」
「フン、彼女を物扱いなどととんでもない。あなたは指をくわえて僕と彼女が愛し
あうのを見ていればいい」
「……へえ、そうなんだ」
あー、赤い目に殺意がちょっとよぎった。×××に目がくらもうと、この二人が
一致団結という構図に無理があったのか。
「よし、それじゃ、ナノはいただくぜ……っ!」
とエースが剣で攻撃する……ペーターを。
「何をするんです、エース君!!」
と言いつつ、予想していたようにペーターが反撃して銃を撃つ。
一方ブラッドは私を片手に抱きながら、嘲笑を浮かべマシンガンを構えた。
「女を奪いに来て早くも仲間割れか?これほど見苦しいものもないな」
「ナノは俺たちの屋敷に来るんだよ!!」
「とっとと城に帰れよ、クソウサギ!」
「二度と屋敷に来るな、迷子騎士!!」
順番の割り振りも完璧な帽子屋連中は、容赦なく城二人に銃弾と斬撃を浴びせる。
ああああああああ!!!私のプレハブ小屋の壁に銃痕が!ああ!窓に!窓に!
……あれ?窓に今何かが……いあ、いあ、はすたぁ?
「あ」

そしてガラスの砕け散る派手な音と共に、第三の勢力がプレハブ小屋に飛び込んだ。

全員が動きを止め、そちらを見る。塔の補佐官殿だった。
「ナノ!君を助けに来た!俺と一緒に塔に行こう!」
窓ガラスを突き破った男は、ガラスの破片を踏み、こちらに手を伸ばす。私は鋭く、
「グレイ!!窓ガラスと窓枠と、扉の修繕費!あと、精神的苦痛に対する慰謝料を
払っていただきますからね!!床掃除もちゃんとして下さい!」
そしてグレイは、私にやわらかな微笑みを向ける。
「任せてくれ。二人の新居を用意しよう。
俺だって……君と家庭を持つくらいの幸せは許されるはずだ」
ツッコミどころ満載の私の発言に、どこか哀愁ただようボケを返すグレイ。
そういえば、顔がちょっと疲れてる。また上司に苦労させられてるんですね……。
そして室内の役持ちも黙ってはいない。
「トカゲさん!ナノをめぐってトカゲさんと真剣勝負出来るなんて嬉しいぜ!」
ペーターの銃弾をかわしながら、かなり嬉しそうに言うエース。
うーむ。『ナノ<トカゲさんとの一騎打ち』というランクづけなんだろうか。何だかなあ。
ともあれ、グレイがエースと競い合うレベルなのは周知の事実。
単独であろうと、その存在感は並ではない。

「お嬢さんは帽子屋ファミリーがいただこう」
「彼女は僕が守ります!」
「ナノを離せっ!!」
ああ、三すくみ。みんな、私のためにケンカしないで!
……というか、単に皆ヒマで、私は例によってダシにされてるだけだろうな。
まあ、そういう悲しい扱いに慣れているとはいえ、遊びの延長で奪い合われ、何より
住居を着々と破壊されちゃ、たまらない。
――でも、最強の役持ち連中から、どうやって逃げたものか……。
と頭を悩ませていると、
「ん?」
そのとき、プレハブの床がミシミシミシミシと……。

『あ』

多分、全員がそう言った。

そして轟音と共に床が崩れ落ち、支えを失った壁がこちらに……。
「いやああっ!!」
ああああ、だって男が大人数で駆け回るわ、銃弾や剣で傷つけるわ、したから……。
「お嬢さん!」「お姉さん!」『ナノ!』
何人かが私を守ろうと手を伸ばしてくれた気がする。
そして紙の家のように、プレハブ小屋がアッサリとつぶれ……。

「プレハブ再建代と慰謝料は、後で全員に請求しますからね!!」

皆さんが守って下さって無傷でしたが、だからといって誰が礼をする気になるか。
もうもうと立ちこめる砂煙を突っ切って、私は真っ先に脱出。
猛ダッシュで街を駆け抜けていった。

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