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■たのしいおにごっこ2

プレハブ小屋の窓からは昼の明かりがさす。
「……ブラッド、ど、ど、どうも、お久しぶりで……」
ガタガタガタと震えながら振り向くと、ノドにヒヤリとする感触。
ブラッドは刃物のように、ステッキを私の首筋につきつけ、いつもの笑いで、
「やあお嬢さん。その様子では、我々の話し合いについては知っているようだな。
私は君があまりにも愛しいから、一番に来てしまった。
愚かな男と笑わないでくれたまえ」
「笑いません、笑いません。笑いませんから私に自由を下さい!」
「それは出来ない相談だ」
白い手袋が、怯える私の頬をそっと撫でる。
「どれだけ君を捕らえようとも、君は私の手からこぼれ落ちる。
だから、逃げても無駄だと君に分からせるためにゲームを提案した次第だ」
……コトの元凶は、やはりこの男か。

「冗談じゃありませんよ!私の身体は私のもの!
私はユリウスと一緒に深海でアイロンをかけなくちゃいけないんです!」
「…………」
動きをピタリと止め、ずいぶんと長いことブラッドは沈黙していた。
そして手袋を取って私の額に手を当て、その次に私の目の前で指をチラチラ振る。
何となくそれを目で追っていると、
「ナノ、やっぱり疲れてるんじゃねえ?」
プレハブ小屋の入り口から、大きなウサギさんが入ってくる。
「お姉さん、ボスがしつこすぎて、最近ノイローゼ気味だってウワサだしねえ」
「やっぱり、この間、監禁したときの×××××がいけなかったんじゃない?」
そしてその後ろから大きくなったブラッディ・ツインズ。
ああああ!大の男が、そんな大人数で入るから、プレハブの床がギシギシと……。
私は必死に逃げようとする。
でもブラッドはそんな私の身体に腕を回し、強引に抱き寄せながら、
「そうか?しかし嫌がっていたワリに×××は、ずいぶんと××××になって……」
「ブラッドっ!昼間っから、そんな××な単語を口にしないで下さい!!」
逃げることを忘れ、食ってかかったけど、
「かまわないだろう。君は『私の物』ではなく『帽子屋屋敷の役持ちの物』になる。
本意ではないが、臨時の話し合いで決まったことだ。
我が屋敷に来たら、しばらくは私の他に、エリオットと門番達の相手もしてもらう」
「…………」
沈黙。そういえば、私をかっさらった領土の役持ち『全員』が私を好きにするとか
言っていたような……。
「え、えええと、ブラッド。あなたがそんなことを許すなんて珍しいですね!」
もしや、私への執着が薄れてきた?と内心期待するも、ブラッドは渋い顔だ。
「苦渋の決断ではあるがな。君を私一人の物にしてすぐ逃げられるか、君を屋敷の
『共有品』にして、逃げられないようにするか。その二択なら選ぶ余地がない」
「二択じゃない、二択じゃない。決して二択じゃありませんよぉー。
もっと可能性を追求しましょうよ、ブラッド」
滝のような汗を流しながらニコニコニコと笑い、手下どもを見やる。
「え、エリオット。あなたはブラッドの犬と自称されていますよね。
ボスの女を共有するなんて、男としてありえませんよねぇー!」
するとスーツ姿のエリオットは、私から微妙に視線をそらし、
「ま、まあ、第一の権利はブラッドだ。けど、ブラッドが許可してくれるなら……」
そわそわしながら、私に向かって照れたように笑う。ブルータス、おまえもか。
でも私の悲壮な表情に気づいたのか、慌てて言う。
「だ、大丈夫だ!あんたがブラッドの女ってのは、ちゃんとわきまえてる!
傷つけないようにするし、すっごく優しくするからな!」
……どこらへんがわきまえてるんだ。可愛くしたってダマされないですよ。
「ディー、ダム!」
仕方なく恐怖のツインズ(大人バージョン)に訴える。
「あ、あなた方は、ボスや2に譲りますよね!
せめて交代制、もしくは子どもに戻ってくれますよね!」
涙目で訴えるけれども、ディーとダムは厳粛な顔で、
「そうだね。僕ら、お姉さんが大好きだ。
だけどボスやひよこウサギがライバルじゃ心配だよ」
「そうそう。お姉さん、きっと大人の二人に夢中になって、僕らなんか相手にして
くれなくなっちゃう。だから僕らも、大人としてお姉さんを満足させないと」
「いえいえいえ!満足します!だから子どもでいて!子ども大好きですから!」
かなり誤解されかねないことを言った気もする。でもエリオットは腕組みし、
「クソガキども。ナノと×××出来るように、ちゃんと仕事も励めよ。
おまえらがしっかり決められた仕事をしねえと、順番を回さねえからな」
「え?ちょ、エリオット。何で私『勉強のごほうび』的扱いになってるんですか?」
慌ててツッコミを入れるけど、大きい双子は斧をカッコ良くかまえ直す。
「言われるまでもないさ、ひよこウサギ」
「お金もいいけど、お姉さんも大事だから仕方ないね」
ブラッドも引き続き、私を逃げないように抱き寄せながら、感慨深げに、
「君のためにファミリーが一つになるとは……。
血の涙を呑んで、君の共有を受け入れただけのことはあるな」
「さっすがブラッド!そこまで頑張れるなんて、さすが偉大だぜ!」
「え?あの、頑張るの、私になるんじゃないんですか?
何でブラッドが、褒められる流れに?え?え?」
しかし、ブラッドは早くもまとめに入る。
「そういうわけで、開始から半時間帯で、帽子屋ファミリーの勝利が決まった。
さあ帽子屋屋敷に帰るぞ、お嬢さん。次の時間帯からさっそく働いてもらう」
エリオットがしびれた、というように両のこぶしを握り、
「くーっ!やっぱりブラッドは偉大だぜ!最高だ!!
あっさり勝ってナノを手に入れるなんてよ!」
「ちょ、ちょっとブラッド!ねえ、やっぱりあなたが讃えられる流れなんですか?
あの、誰か私のことも褒めて下さいよ!これから一番頑張るの、私ですよ!?」
「可哀相に、お姉さん。すっかり錯乱しちゃってるね」
「ダメな大人はやっぱりダメだね。僕らが頑張ってお姉さんを悦ばせてあげないと」
同情顔の双子が頭を撫でてくれる。うう、その優しさが嬉しい。
そして私ががっくりとうなだれ、帽子と薔薇と桃色の牢獄に行こうとしたとき、

「ナノ、伏せろっ!!」
「っ!!」

突き飛ばされ、ブラッドに地面に伏せさせられる。
瞬間、頭上を轟音とともに……えーと、私のプレハブ小屋の扉が吹っ飛んだ。
そして光と煙の中から現れた二人の……いや、一人と一匹の影!

「正義の騎士、参上!!」
「ナノ!!恋人の僕が助けに来ましたよ!!」

助け、なのかなあ……。

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