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■恐ろしい勘違いをした話2

「おい、最近どうしたんだ」
ユリウスの機嫌が悪い。それはそれは悪い。

「え?」
私は出かける準備をしながら振り向いた。
仕事に集中……しているはずのユリウスは、仕事の手を止めこちらを睨んでいた。
「少し前まで、根を生やしたようにここにいただろう?
何で急に、他の領土をフラフラするようになったんだ」
そう言われ、私は戸惑う。
私は他の滞在地に住まいを移そうと思っていた。

ユリウスの衝撃的な嗜好に気づいて幾時間帯。
あれからエースは、頻繁に来てはユリウスとの仲の良さを見せつける。
そして私の反応をニヤニヤ眺めながらユリウスに抱きつき
『ユリウス、愛してるぜ!』
『き、気色悪い!何だ急に!出て行け!私に近寄るな!』
ユリウスは本心から言っているとしか思えない、迫真の演技でエースを撃とうと
躍起になっていた。
それを笑いながらかわし、さらに触れ、キスまでしようとするエース。
そのたび、私は二人の仲むつまじさに居たたまれなくなる。
ユリウスの幸せのため、時計塔を出て行かないと、と思うばかり。

「その……ええと、エースが……」
さすがに個人の嗜好をストレートに言うのは気が引けて、遠回しにもじもじ言う。
するとユリウスがサッと顔を青ざめさせ、
「エースに何かされたのか!?あいつもあいつで、最近悪ふざけが度を超している
と思っていたが……何をされた!コトと次第によっては……っ」
「だ、大丈夫!大丈夫だから!!」
今にもスパナを銃に変えそうなユリウスに、私は大慌てで否定する。
とにかくユリウスには怒りを消し、落ちついて欲しい。

「あの、ユリウス……私、時計塔を出ようと思って……」

すると今度こそユリウスは顔が真っ青になった。
「なぜ……どうして……!」

どんなに、ぜいたくをさせてくれる領土より時計塔が一番いい。
けど、ユリウスの幸せが私の幸せだ。
私はそっと目元をぬぐい、彼に背を向ける。
「エースがいるから……もうここには……さよなら、ユリウス」

「ナノ!」

「っ!」

視界がぐるっと回った……と思った瞬間、私はソファに背を押しつけられていた。

目を白黒させているとユリウスが真っ青な顔で、
「エースに何をされたんだ……すまない。もっとあいつを監視すべきだった」
「な、何もされてない……」
私は首を振り、自分を押し倒すユリウスを見上げた。
別れの辛さで視界がにじむ。でも両手を押さえつけられ、涙がふけない。
するとユリウスの顔が近づき。
「ナノ……嘘をついてまで、私を気づかう必要はない」
「っ!」
ユリウスの舌が私の涙をすくう。

「いえ、本当に嘘じゃ……」
「すまない。本当にすまない。あいつに脅されたのか?そうだろうな。
あいつは屈強な騎士で、おまえは銃も持たない女。
好きにされて悔しかったな、辛かったな……。気づいてやれず本当に悪かった」
「……?」
よく分からない。ええと、何かユリウスが大変な誤解をしているような。
「ユリウス……」
誤解を解こうとしたら、やわらかいものが唇に……ユリウスにキスされていた。

え……?

頭が真っ白でよく分からない。反応を返せずにいると、ユリウスの舌がこちらの舌に
触れ、ぎこちなく探り出す。
「ん……ふ……」
カサついた大きな手が髪に触れる。
私も無意識に彼の背に手を回し、抱きしめていた。
キスは終わらない。息をあえがせ舌が絡まり、次第に唾液の絡む音が大きくなる。
――何?何なの?
ワケが分からない。ユリウスが……その、両刀さんだったとしても、何で邪魔にして
いた私を押し倒すことになるんだろう。
夢の世界だもの。さらに自分に都合のいい夢に入り込んだのだろうか。
――それに、ユリウスならいいかな……。
大きな手が脇腹に、腰に、お尻の横に振れ、太腿を下る。
そのたびにビクンと身体が動き、ムズムズする衝動が奥底からわき上がる。

「ナノ……私はおまえが見てくれているだけで幸福だった。
ただ私の横で微笑んでいてくれるだけで、満たされていたのに……」

糸を引き、唇を離したユリウスが、さらに私の願望そのもののことを言う。
やはり夢の中の、さらに夢みたいだ。
でも夢に溺れちゃいけない。
「ダメ。ユリウス。こういうのはダメ……」
ユリウスは私の涙を指ですくい、そっと自分の口に持って行き、なめる。
そして何か決意をしたかのように、私を見下ろした。

「あんな男に渡しはしない。一度奪われたなら……取り返せばいい」

「ユリウス……」
こうなった理由は分からないけど、されようとしていることが何かくらい分かる。
「あの、こういうのは、もっと段階を……」
でもユリウスは苦しそうな表情で私に再びキスをした。
「男が怖いか?大丈夫だ。なるべく優しくするから」
え?ユリウスは別に怖くは……。
「ん……」
思考が止まる。胸元のボタンが外され、外の空気が肌に入った。

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