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■店を改装した話7

「馬鹿ネズミ、おまえ、生きてるか?」
「っ!」
「え……ナノ!?」
扉のないはずの場所から、扉を開けて姿を見せたボリス。
ピアスに組み敷かれた私を見て、目を見開いた。

隠そうにも何も隠せず、私はボリスに小さく聞いた。
「どうし、たんです……?」
「いや、その、最近、ピアスを見かけないから、くたばったかと思って……」
「はあ……はあ……」
当のピアスはというと、相変わらず私を揺さぶっている。
さすがというか動物の本能なのか、ボリスが見ているというのにピアスは止めない。
「で、馬鹿ネズミ。何でおまえなんかがナノを囲ってるんだ?」
尻尾をゆらゆら振りながらボリスは言う。
ピアスは何度も何度も私の奥に入れながら返事をする。
「だ、だって落ちてたし、抵抗、しなかった、んだよ?」
「おまえみたいな危ない奴に、丸腰のナノが抵抗出来るわけねえだろ」
ピアスをはたく。何だか妙な光景だった。
「あ……ナノ、俺、もう……イキそう……」
まさか見られて興奮……とは思いたくないけれどピアスは直前なのか動きを速める。
ボリスは呆れたように舌打ちし、腕組みして背を向けた。
私はやっぱりぼんやりと天井を眺め、次の食事について考えた。
「ナノ、ナノ、ナノ……だい、す、き……」
「……っ!」
ピアスが身を折って達する。中に吐き出される感触と、耳を素通りする愛の言葉。
白いものをこぼしつつ、私の中から出たピアスが微笑む。私も微笑み、
「すごく良かったですよ、ピアス」
「えへへ。俺も。ナノ、大好き!」
笑顔でキスをする。ボリスの方が見られない。
――ボリス、きっと蔑んだ目で見てるんでしょうね……。
「ねえ、ナノ、もう一回いい?」
「え……と、それは……あの、私、お腹が空いて……もう限界っていうか」
いろんなことが限界。本当に休ませてほしい。
「ピアス。せめてお水だけでも……」
「ねえ、いいでしょ?ナノ、チーズ出しても食べないんだし」
「そうなんですけど……でも喉がカラカラで……」
空腹感はあるのに、いざ出されると何も食べない。奇妙なものだった。
「あと、ちょっとだけ身体を洗いたいんですけど……ずっと洗ってないですし」
「時間が経てばきれいになるから、いいじゃない。
ね。騎士やボスやトカゲさんとは寝られて、俺はダメなの?」
ピアスの尻尾が不機嫌に揺れる。視線がノコギリにちらりと行き、私も息を吐く。
「……分かりました。いいですよ」
生き延びるには愛想よくするに限る。
「ナノ、大好き!」
ピアスがまたのしかかってくる。
というかボリスはいつ帰ってくれるんだろう、と思ったとき、
「いつまで盛ってんだ!いい加減にしろよ、ピアス!」
ボリスが横からピアスを殴りつけた。
驚いたピアスがベッドから転げ落ちる。
「ちゅう?ボリス、どうしたの?」
眠りネズミさんの顔に怯えが走る。
「どう見てもナノは嫌がってるだろ!?いつからやってたのか知らないけど、
女が休みたいっていうなら休ませてやれよ!」
「ちゅう……ナノ、いつから?俺が来たとき、騎士にやられた後だったよね」
無邪気に聞かれ、私も渇いた喉で笑う。
「あはは、ここに来てからずっとピアスと一緒ですし、分からないですね」
ボリスはというとぎょっとした目で私を見て、
「ナノ、騎士さんに襲われたの?ピアス、おまえ、ちゃんとナノを介抱したんだろうな?」
「ええとね、ナノ、見つけたとき動けなくて服来てなくて、だから俺……」
ピアスは淡々とその後のことを説明し、ボリスの表情がどんどん険しくなる。
「もういい。気分が悪くなった」
突然ピアスの話を遮り、くるっと私に背を向け、壁の方へ向かう。
空間をつなぐ扉を作るつもりらしい。
私は安堵する。これ以上いてほしくない。
「ナノ、続き、していい?」
「ええ、ピアス」
ベッド下のピアスに震える手を伸ばす。パッと顔を輝かせるネズミさん。
「俺、いいもの拾った。俺みたいに汚れて、俺より弱い落としもの」
「…………」
もう、どうでもいいか。
笑顔だけは崩さないようピアスの手を取ろうとしたとき、私の身体が浮いた。
「よっと」
「え?」
ボリスが私の身体にシーツを巻き付け、抱き上げていた。
「ボリス?」
「にゃんこ!何するの!それ俺のだよ!」
「ナノは誰の物でもねえよ!」
ピアスどころか私まで怯む、チェシャ猫の怒声だった。
二人して反応できないでいる間に、ボリスは私を抱き上げたまま扉をくぐった。

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