続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 ■しばしの別れ そう、私は屋敷から離れた場所にある『小屋』にまた住む予定だった。 「まあ、帽子屋領を出ないだけいいけどよ……」 エリオットは不満そうだ。 この世界に来た当初、私は見捨てられた古い小屋に住んでいた。 その後、いろいろあって、そこは放棄したけど、また戻ることにしたのだ。 「恋人同士が同じ領に住んでるのに……しかもあんなボロ小屋によ……」 あああ、耳を垂れさせながらグチグチと。 「もうボロじゃないでしょう?何度も何度も改築して、最終的に水道だって引いて いただいたんですから」 「でも畑はつぶしただろ?今さらあんなとこに住んでどうするんだよ!」 エリオットはやかましい。 「私はあそこで、やることがあるんです」 絡んでくるウサギさんの耳をペチペチ叩きながら言った。 「ペナルティをちょっと払うために」 「日ごろから、よく分からねえけど、今は特におまえの言ってることが分からねえ」 何だと。でもまあ、私にもよく分からないことを説明出来ない。 「とにかく、私はあそこに行くんです。あなたのために」 「……よく分からねえし、必要ねえよ」 エリオットはバッサリ。 「俺のために何かしたいのなら、俺のそばにいろ」 と腕を腰に回し、抱き寄せる。私は首を振った。 「ダメったらダメですよ」 「そんなことねえよ。なあ、これから俺の部屋に行こうぜ?」 エリオットの笑いに邪悪なものが混ざり出す。 「…………××××」 「はは。おまえも痛みは引いてきただろ?久しぶりに可愛がってやるから」 と、私をもっと抱き寄せ、身体を意味ありげに撫でる。 ……今度は、からめ手に出て来たか、動物が。 「それで私をまた外に出さないで、屋敷を出る話そのものを流す気でしょう?」 私はイヤイヤと首を振るけど、エリオットは楽しそうに、 「俺から逃げられると思うか?どうせおまえは走れないもんな」 「……××××××」 ディーとダムからせしめた、最新の罵倒語を口にのぼらせるけど、 「それくらい言われなれてるぜ。マフィアだからな」 と一笑に付された。 「おのれ、かくなる上は!」 と私は椅子から立ち、松葉杖を振り上げる。するとエリオットは慌てて、 「おい!そんなことをしたら、治りかけの足が……!」 松葉杖は別に怖くないらしい。 ――あ。そうだ。足を地面についちゃいました。 私はハッとして、次に訪れるだろう足の痛みに…… 「……あれ?」 痛みはいつまでも来ない。ケガした方の足をぶんぶん振るけど、何ともない。 「あれぇ……」 失礼して、と服をちょっとずらして、足の包帯をほどいてみる。 すると、きれいサッパリ傷口が消失していた。 「何と!」 どうやら時間帯が経過して、傷が巻き戻ったようだ。 私は大喜びで、大地の上をクルクル回る。 「あははは!良かった良かったです!」 「ああ、良かった良かった」 二人して手に手を取って、クルクル回って笑い合い…… 「……それじゃあ、エリオット、また!!」 と、元気いっぱいに走ろうとして、 「おっと!逃げられると思ったか!?」 つないだ手をガシッとつかまれ、でっかいウサギさんに捕らえられました。 「ナノ……」 そして顔を上げさせられ、唇が重なる。 別の手がケガした部分をいやらしく撫で、背筋がぞわぞわする。 「まあ、そこまでおまえが、俺の部屋に戻りたくねえなら……」 お?珍しく物わかりがよろしい?私の完治に感極まりました? そしてエリオットは近くの茂みをチラッと見て、 「屋敷に移動しないで、ここですますか」 「…………」 ええ。傷口を確かめるときにちょっと見せましたものね、私の脚線美。 扇情されていただけて何より……嘘です。冗談です。調子こいてすいません。 「はあ……」 足は治っても結局、抵抗するすべなく、茂みの中に引きずられる。 「たまには外もいいだろ?な?ナノ」 「はああ……」 それでも押し倒され、何度も何度も何度も、そう、何度もキスされるうちに、何だか 心の中の硬い部分がほだされていく。 「ナノ……愛してる」 「ん……エリオット……私も、です……」 舌を絡め、角度を変え、深さを変え何度もキスをするうちに肌の熱も高くなる。 気がつくと私もエリオットの大きな身体を抱きしめ、求められるままに足を絡め、 彼の身体に触れていく。 「愛してる……おまえを、ずっと……」 「私も。いつまでも……」 私はエリオットの顔の包帯をほどいてあげながら笑う。 「あなたが、ずっと大好きです」 「それが嘘じゃねえなら、すぐに戻って来いよな。 おまえのルールなんか誰も気にしねえって」 「はいはい。ちょっと時間が経ちましたらね」 「時間なんか、ここじゃ意味ねえよ」 エリオットが私の服を緩めながら言う。 「会うのは問題ないんだろ?なら、また行こうぜ。休みのときに。 弁当を持って、おまえと初めて会った麦畑にな」 優しく笑う三月ウサギ。 私はもちろん微笑んでうなずき、目を閉じる。 そして優しいキスを受けた。 「あなたに会えて、本当に良かった……」 3/6 続き→ トップへ 短編目次 長編2目次 |