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■ハロウィン・パーティー・上

夜の時間帯の帽子屋屋敷。
エリオットの部屋には二人の悲鳴が、にぎやかに響いていた。
「い、痛い痛い痛い!超痛いです!エリオット!!」
「黙ってろよ!俺だって痛ぇんだ!くそ、あいつら、好き勝手にやりやがって……」
いつものように甘い、もしくは痛い雰囲気になることなどなく。
私たち二人して、ベッド上で絶叫していた。
私は鎮痛剤の効果切れ。エリオットは監獄での傷のため。
あと、流れた赤の量も多かったため、絶対安静なのでありました。

ううう、自分を抑えようと思ってたけど、あの鎮痛剤、もう一度飲めないものか。
でもエリオットは私の顔から考えを読んだらしい。
「あの薬を使うなんて、馬鹿か。おまえは!あれは最後の最後に使う薬なんだよ!」
「え、エリオット。もう一回だけでいいですから……」
「ダメだ!」
と、動けない私より先に机に走り、薬のケースを秘密の箱から取り出して……
「そらっ!!」
「あああ〜」
中身を窓の外の夜空にばらまいた。たちまち闇と草むらの中に見えなくなる薬。
エリオットはついでにケースまで外に放り投げ、ぴしゃっと窓を閉める。
そして痛みに顔をしかめながら、私の横に戻った。
痛みにシクシク泣く私に、
「本当に目が離せねえ奴だな……」
「ん……」
「でも、ごめんな、ナノ……本当にごめん」
エリオットはシュンとして、私の包帯の上を撫でる。
……動物って卑怯だなあ。
可愛く耳を垂らしながら言われたら、怒るに怒れないじゃないですか。
「馬鹿……」
頭を叩くと、その手を取って手首にキスをされる。
「な、医者を呼んでるから、二人して安全な痛み止めを打ってもらおうぜ」
と、私の頭を乱暴に撫でる。そこでふと、私は思い出し、

「……それはそうと、机の上の雑誌は捨てていただけないのですか?」

と、机の上にきれいに置いた××雑誌を指差す。
すると、私を撫でてたエリオットがビクッと動きを止め、
「あ、ああ……えーと、捨てる!もちろん捨てるぜ!
あ、あれはずっと読んでねえ雑誌だったんだ。お、おまえがいるのに読む理由なんて
ないもんなあ。は、はははは……はは……」
笑いが空々しすぎる。これは置き場所を変えると見た。
恋人の××雑誌探索能力を舐めないでいただこう。ハイ、焼却処分決定。
再び頭を撫でられながら、ポキポキと指を鳴らす私であった。
でも苦笑するエリオットの耳は、ピンと立ったまんまだった。

…………

…………

それから、それなりの時間帯が過ぎた。

パーティー会場からは、にぎやかな笑い声が聞こえてくる。
「よっと……」
私は松葉杖をついてハロウィン・パーティーの会場に入る。すると、
『ナノっ!!』
「っ!!」
でかくなった双子に抱きつかれ、即効で逝くかと思った。
が、痛みに悶える間もなく、双子がまくし立てた。
「馬鹿ウサギに××されて、一時はどうなるかって思ったよ!!」
「またひよこウサギに×××されたら、今度は僕たちに守らせて!!」
――人の多い会場で、大声で××とか×××とかしゃべるな、貴様ら!!
と思いながら双子をかわしていると、
「ナノ、久しぶり〜」
「エリオット様と仲直り出来たんだね〜、良かったよ〜」
と知り合いの使用人さんたちが、ワラワラと近寄ってきてくれた。
騒々しく囲まれ、私は、
「ええ。まあ、それで全然、パーティーのお手伝いが出来ませんで……」
「いいわよ、いいわよ〜。おかげで被害が少なかったし。何か食べる〜?」
「ドレスが着られなくて残念だったね〜」
と、ねぎらってくれる。そう、私は足のケガが原因でドレスを着ていないのだ。
人の多い会場で、ドレスが松葉杖に引っかかっては、私もみんなも危ないし。
……というか、その前に微妙に引っかかることを言われたような。
まさかりカボチャの恨みか?
最近は、そこまで材料をデストロイしたりしませんよ?……多分。
ともあれ、私は普段着だ。
私のドレス選びに奔走したエリオットは、最後までグチグチ言ってたけど、足をケガ
した経緯が経緯だったもので、結局折れてくれた。
それに正直言って、浮かれてドレスを着る気分でもなかった。
「それじゃ、後でまた!」
双子や使用人さんたちを適当に振り切って、私は広い会場をさ迷った。

――うーん、注目されてますね。
使用人服や正装、もしくは仮装の人たちに混じり、普段着に松葉杖という、場違いな
格好だ。いろんな人の視線を受けながら会場にとどまるのは、結構キツい。
けど、それでも来なければいけない理由があった。
やがて、お目当ての人はすぐに見つかった。

「ブラッド」

呼びかけると、すぐに気づいてこちらを振り向いてくれる。
悔しいくらいに吸血鬼の衣装が似合っている。会場でも一番目立つ人だ。
彼は、あいさつをする周囲の人たちに、一言二言声をかけてから背を向け、格下の
私のところに来てくれた。
「やあお嬢さん。無事に道化どもを振り切ったようで、何よりだ」
……誰から聞いたか知らないけど、堂々と話すなあ。
「今回は、向こうにあまり入れる気が無さそうでしたからね」
お役人とのコネも、たまには役に立つ。
「まあ君は入っても、すぐに脱獄しそうだからな」
ブラッドは愉快そうに笑い、それから私についてくるように合図し、歩き出す。
私も松葉杖をつき、よたよたとついていく。
そしてブラッドは、会場のすみの長椅子に私を導いた。
私はやっと松葉杖を置いて座り、一息つく。のどが渇いたなあ。
ブラッドはというと、周囲の使用人をチラッと見る。
すると気が利く彼らはすぐにボスの意図を察し、ブラッドには新しいワイン。私には
カシスオレンジのグラスを差し出してくれた。
「あ、どもです」
お礼を言って受け取り、ぐいっと飲む……何?アルコールが入っていないだと!?
「それで?無事に我が腹心を丸め込んだようで、何よりだが。
すっかり元の木阿弥……いや、元の鞘に収まったのか?」
……今、ワザと言い間違えたな。
私は苦笑して頬をかき、ブラッドに言った。

「いいえ。私は帽子屋屋敷を出ますよ」

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