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■双子の助言

「うーん……」
どうにも退屈で、ガタガタと部屋の窓枠を動かす。
でもマフィアのお屋敷の防犯は完璧。小娘がいくら揺すっても開く気配がない。
――ていうか、何で内から開けられない仕様なんですか。
うん。頑丈な錠がかけられていて、もちろん鍵は部屋の主の手の中だ。
「はあ……」
がっくりとうなだれ、窓から手を離す。
愛想良くしてるつもりだけど、ああもスルーされると虚しさがつのってくる。
そして……どこからか声がした。

『ナノ!ナノ、聞こえる?』
『ナノ、差し入れに来たよ』

私はパッと顔を輝かせた。
「ディー、ダム!どこにいるんですか!?」
『窓の外。ちょっと待ってて!』
『窓から離れててね、いくよ!』
「え?ちょっと待って……ちょ――っ!」
高速でダッシュし、窓から離れた瞬間。
窓枠が……ぶっ飛びました。

…………
「ナノ!もう足は震えてない?」
「あそこまで怖がるなんて、馬鹿ウサギにひどいことされたんだね〜」
デカい双子に、交互に頭をなでなでされる私。
双子は何やらリボンのついた大小の箱をたくさん持ってきていた。
「ど、ども……」
私は双子の手を借り、へたりこんだ姿勢からやっと立ち上がれた。
いや、私が怖がったのはあんたらなのですが。
そりゃ窓には鍵がかかってたけど、斧で力任せに叩き破ることないでしょう。
ああああ、部屋の床がガラスだらけ。あの窓枠が私に直撃してたら、冗談ではなく
本当に×んでたなあ……。
そして窓の消失した窓辺は、開放感あふれるスタイルに。
すきま風どころか、びゅうびゅう吹き込んで風通しが良すぎる。
秋になって夜は肌寒いっつうのに、もう……。

「ひよこウサギがまたナノにキレたって聞いたから慰めに来たんだ!」
双子どもは惨状をスルー。テーブルに、持参した箱を置き、次々に中を開いていく。
「たくさんお菓子を持ってきたんだよ。パンプキンパイに、モンブランに……」
「あ、ありがとう、ディー。でもですね、私は今、食欲が……」
「それと、焼き芋」
「いただきましょう」
私はホクホクの秋の味覚に手を伸ばした。

…………

トントントン、と釘を打つ小気味のいい音が響く。
双子が持参した菓子も(主に双子の腹の中に)だいたい消費された後のことだ。
今、双子は壊れた窓に板をあて、釘を打ちつけていく。
私はマロンチョコを茶うけに茶をすすり、作業を監視していた。
露出狂じゃないんだから、こんな部屋でエリオットと愛の営みなんぞ出来やしない。
そして窓を修繕しながらディーとダムが話す。
「でね、ボスに言ってみたけど、ボスは放っておけって。ヒマだから……じゃない、
ナノが真剣みたいだから見守ってあげなさいって」
……あの悪趣味帽子とは、いずれ決着をつける時が来るんじゃないかと思う。
「でも僕ら心配でさ。ひよこウサギがナノをいじめてたら助けてあげようって
思って、見に来たんだ」
まったく……放置したり、心配で見に来たり。子どもは本当に気まぐれだ。
私は番茶を飲み、一息つく。
「あいにく、何ともなかったでしょう?エリオットとは仲良くやってますよ」
「そう?でも暗い顔してるよ、ナノ」
「秋の日差しのせいです。季節がやってきて、日が沈むのが早くって」
「ここ、室内だよナノ」
「…………」
そして少し経ち、やっつけ工事的ながら窓の補修がどうにか終わる。
二人はまた私のところにやってきて、心配そうに上からのぞきこんだ。
「ねえ。何か助けてほしいことがあったら手伝うよ、ナノ」
「×してほしいなら、馬鹿ウサギを×してもいいよ?」
「いえいえいえ!」
ダムの提案にはぶんぶんと首を横に振っておく。
とりあえず立ち上がり、作業のねぎらい(?)に甘い紅茶を用意することにした。

「何て言うかこう、ね。言葉は通じるのに、何だか壁がある気がするんです」
子どもに言っても仕方ない気がしたけど、特に相談相手もいないから話してしまう。
「私も悪いんですが、信じてもらえなくて、いつも疑われてる気がして」
三月ウサギは大好きだ。この世界で一番好きだ。
でも私たちは一歩進んでは一歩、いや二歩下がる。
いい雰囲気になっても長くは続かない。
蜜月は決裂、努力は放棄され、力の論理で好きにされる。
でも逃げ出すほど嫌ではない。かといって享受できるほど終わってもいない。
「どうすれば、ケンカをしないようになれるんでしょう」
「それは無理じゃないかな」
アッサリとディーが言った。
「へ……?」
思わず顔を上げる。するとダムもうなずいていた。

「ナノはひよこウサギに信じてもらえないって言ってるけど、多分向こうも同じ
ことを思ってると思うよ」

「――っ!」
「そうそう。ナノって、いつ何をされるかって、ビクビクしてるんだからね」
「それで信じろって方が無理だよ。力で支配して可愛がる方が確かに簡単だよね」
「…………」
どうしよう。反論も出来ない。あとグッサリ来たなあ。
というか支配どうこうって、それ、冗談抜きで飼い主とペットの関係なんじゃあ。

意気消沈して茶を飲んでいると、双子が動く気配がした。
「!!」
両頬からキスされ、危うく湯呑みを落とすところだった。
間近の双子。大人になってもイマイチ区別のつかない双子が微笑んで言う。
「だから別にいいんじゃないかな。ケンカしたまんまで」
「え?」
「そうそう。イチャついてるだけのバカップルなんて見てて面白くないしね」
いや、あなた方を楽しませるために、三月ウサギの女をやっているわけでは……。
そしてどうにも言葉をひねり出せないでいると、二人は立ち上がる。
「ナノはしたいようにすればいいと思うよ。僕たちは応援してるからね」
「うまく馬鹿ウサギを手玉に取って、僕らがサボれる時間を増やしてね」
……あんたら。最後の一言が本音でしょう。
「どうもありがとう、ディー、ダム」
でも心配して来てくれたことには変わりない。
私は素直に微笑んでお礼を言った。

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