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■ゲームの始まり

「何ですか、これはあぁぁっ!!」
私は牢獄の前で、絶望的に崩れ落ちる。
「お、多い……ちょっと多すぎですよ……前はスッキリ収納だったのに……」
「うん。まあ、よくここまでため込めるよね」
私の傍らに膝をつき、ポンポンと肩を叩くジョーカー。

監獄の私の檻の中は、ゴミ集積所かというほど物がつめこまれていた。
玉露の袋、畑の作物に大量のニンジン、間違いだらけの問題用紙、どこかで見た気も
する手作りの砂時計、ティーカップ、破れた写真、ドアのノブ、その他いっぱい。
一体何で入ってるのか首をかしげる物ばかり、それはもう雑多につめこまれていた。
私は、そばにしゃがむ所長さんにかみついた。
「ジョーカー、監獄の所長さんなら、たまには掃除してくださいよ!
これが私の牢獄って、いくら何でもみっともないじゃないですか!!」
すると監獄の所長さんは鞭を構え直し、頭をかいた。
「そうは言われてもねえ。いきなりスタスタ入ってきて、文句を言われてもさあ。
俺はここの管理をしてるだけだよ?…………に、みっともないも何もないだろう?」
一部聞き取りにくかったけど、ジョーカーはそう言った。
「俺にはどうすることも出来ないね」
私は恨みがましく檻の中を指す。
「だけど、これじゃ座る場所も怪しいじゃないですか。
監獄に入ってまでオレンジの物とか見たくないし計算問題もしたくないですよ!」
するとジョーカーは困った顔から、一転、嬉しそうになる。
「ふうん。そのうち入るのが前提なんだ。良い子だね、ナノは」
嬉しそうな顔で私の頭を撫でる。私は全然嬉しくない。
「どうする?今入ることも出来るよ?」
爽やかな顔で嫌な笑い。私はもちろん首を横に振る。
「もう少し、檻の中をスッキリさせてから入りますよ」
ゴミっための牢獄なんて冗談じゃない。
とりあえずニンジンは消えろ!消えろと念を送るけど、消えてくれない。
ジョーカーはニコニコと、
「まあ焦らなくてもいいよ。サーカスを見てってからでも遅くないんじゃない?」
「そうですかね……」
また頭を撫でられ、私は涙目でうなずく。
そして涙の視界が少しずつボヤけていった……。

…………

…………

エリオットの部屋の窓辺で、また私はため息をつく。
「はあ〜……」
季節が秋というのがマズいんだろうか。
「はあ〜……」
さらに最大級のため息をつき、途方に暮れた。

エイプリル・シーズンになってから早々、エリオットの登山に同行させられた。
……下山してから猛烈な筋肉痛に悩まされました。
うめきながら一人で寝ている間に、内容は覚えていないけど変な夢も見た。
え?もちろん独り寝ですよ。エリオットは私との登山でかなり時間帯をつぶした。
多忙なNO.2は、下山して休む間もなく仕事に出かけ、まだ戻らない。
一方、無職……もとい!紅茶係な私はダラダラとエリオットの部屋で過ごしていた。
「…………」
そしてまあ、山頂でのことを思い出すのである。

…………

そしてナノさんは考える。

まあ、どうでもいいことだから、ハッキリ言葉に出来ないけど、いろいろ考える。
しかしまあ考えるのが苦手だから、それは大変な戦いだった。
頭を抱えたり、うなったり、うめいたり、たまに紅茶を淹れ、慎重に部屋の鍵をかけ
隠し戸棚からこっそり珈琲セットを取り出し、珈琲をコソコソ淹れる。
そして何やらブツブツつぶやき、テーブルの上に正座し、壁に頭をぶつけて、その
痛さにのたうち回ったり、ベッドの上をゴロゴロ転がったり。

そして何回か時間帯が変わる頃。
やっとナノはとある結論を胸に、部屋の扉を開けて出て行った。

…………

会う人会う人が言う。
「ナノ!それは止めた方がいいわよ〜!」
「出かけるって、この間、エリオット様が大暴れしたんだよ〜?」
「ナノ、あそこだけは止めなさいよ〜お屋敷で遊んでいてよ〜」
「ね、ねえ〜厨房でケーキを食べない〜?」
「エリオット様にお出しするニンジンクッキーを一緒に作りましょうよ〜」
「そうだよ〜ナノが作ったってお耳にしたらきっと大喜びされ――」

必死で引き止める使用人さんたちに、私は笑顔で返した。
「ごめんなさい。急ぐのでもう行きますね」

そして私を実力行使で止めるべきか迷っている使用人さん達を背に、スタコラと
屋敷を抜け出す。そして帽子屋屋敷の門をくぐり、外へ出ていった。
逃げるのではない。私はちゃんと会う人会う人全員に言って、エリオットにも伝言を頼んだ。

『クローバーの塔にいってきます。グレイとナイトメアにココアを淹れて、街で
買い物をして、三時間帯後に戻ります』


多分、私がちゃんとゲームを始めたのは、この瞬間なんじゃないかなーと思う。

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