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■三月ウサギのペット2

引き続き、最近のエリオットとの生活を思い出してみる。

…………

朝のお勤めを終えた私とエリオットはシャワーを浴びました。
そのシャワーで私はまたエリオットに襲……。
中略ですよ、中略。そこまで私生活を詳細に語る必要がどこにあろうか。
これから仕事があるのに、たいがいにせいよ、××ウサギ……とだけ。
そして一人は上機嫌、一人は疲れ果てた顔で。使用人さんが持ってきた朝食を適当に
いただいて。それからやっとNO.2のご出勤となる。

エリオットは私室の扉の前で、私を振り返る。
「じゃ、行くか、ナノ」
「いってらっしゃい、エリオット。気をつけて」
私はニコニコと手を振る。エリオットもニコニコと、
「行くぜ、ナノ」
「行くわけないでしょう。私は構成員じゃないんです。足手まといになりますし」
私は笑顔で首を振る。エリオットも最高の笑顔で、
「行くぜ、ナノ」
「流れ弾の危険があります、重要機密に触れちゃいますし、私などとてもとても」
私は笑顔で後じさる。エリオットは私の手首をつかみ、笑顔で、

「行くぜ、ナノ」

「………………はい」

……あれ以来、エリオットの仕事に無理やりついて行かされる。ありえない。
でも、この間の顔なしさん暴行事件で、エリオットは自分の行為を反省するどころか
『おまえは目を離すと風みたいに消えるからな』
という理由で、余計に私を離したがらなくなった。
執着と言うと微妙に聞こえはいいけど、要は、お気に入りのぬいぐるみが無くなる
のが心配で、常に持ち歩く子どもみたいなもんだ。
本当、この世界は大人なのに子どもっぽい人が多いこと。
で、いかにその行動がおかしかろうと、誰一人文句をつけられない。
私はエリオットに引きずられ、行きたくもないマフィアの仕事につき合わされること
になりました。

…………

自分が必要ないと分かっている空間にいる苦痛。
帽子屋屋敷の一室で、エリオットは精鋭の部下を整列させ、指示を出している。
「××地区に×××の残党がいると密告が入った。一網打尽にするなら今しかねえ」
精鋭の構成員さんたちはビシッと構え、エリオットの説明を真剣に聞いている。
エリオットもそうだ。私に対して、やに下がっていた顔はどこへやら。
今は、まさしくマフィアの幹部という厳しい顔……あとお耳がピンと立ってる。
「××区画へ追い込み、一掃する。爆弾班と切り込み部隊、狙撃班、それに……」
ドラマかアニメぐらいでしか聞かないような言葉が、私の耳を流れていく。
しかし半分くらいしか入らない。私はエリオットのかたわらに忠実に立つ……わけで
なく、椅子でうとうとしているのだ。

……うん、私ナノ、ひじ掛け椅子に座って寝ております。
場違い感ハンパない。構成員でもないのに作戦会議に参加し、一人だけ座って爆睡。
皆が直立不動で仕事の指示を受けているのにVIP気取りか、おまえ、と。
我ながら根性がなさ過ぎる。
でも椅子はエリオットが用意してくれたもの。私は朝からの不埒(ふらち)な行為の
連続で、立っているのが辛いほど疲れ切っている。

連れ回されるようになった当初からそんな感じだったから、本当に私は何度か倒れ、
そのたびにエリオットは、仕事どころではなくなってしまった。
で、私が休めるように椅子が用意されるようになり、皆さんもそれで納得。
……そういえば学校とかで、朝礼のとき倒れる子っていましたよね。あの気分。
保健室に運ばれる子に、ちょっぴり憧れた純白シーツの甘ずっぱい思い出。
現実は……単にこっ恥ずかしいだけでした。

しばらくして、指示が終わったらしい。
「以上だ。質問は?……え?ンなことはてめえで考えろよ!」
――いえ、それ質問を受け付ける意味がないのでは。
と、内心ツッコミ入れたところで、腕を引っ張られる。
目を開けるとエリオットが私を見下ろしていた。
「ナノ、起きろよ。行くぜ」
「え……はい?起きてましたよ?」
「どこか起きてる顔だよ。ほら、シャキッとしろよ」
「わっ!」
叱咤激励(?)に背中を強打され、胃が出るかと思った。
私は半覚醒の頭のまま、ひじ掛け椅子から立ち上がり、エリオットについていく。
私の後ろを、構成員の皆さんが続く。微妙に私を取り囲む体勢で、ちとVIP気分。
「で、どこに行くんです?街の見回りですか?」
ええ。作戦会議の内容をさっぱり聞いてませんでした。
私の先を行くエリオットは、心底から楽しそうに、
「ああ、狩りだ」
ウサギさんの先導する狩り。何だかほのぼのした響きだ。

…………

…………

数時間帯後。そこは戦場さながらだった。
「よし、これでだいたい片づいたな」
銃を手に、満足そうな三月ウサギ。
建物は爆弾で倒壊し、壁には銃弾による穴、ガラスは全て砕け散り、硝煙に爆煙、
それに赤の嫌な臭いがする。何よりも、地面に倒れる人、人、人……。
エリオットの作戦により追い込まれ、追いつめられ、袋のネズミにされ、恐怖の末に
×された人たちだ。でも中には、どう見ても民間人や子どもの姿もある。
私は離れた場所で、口を両手で押さえ、吐き気を何とかこらえていた。
強引に作戦に参加させられた後は、エリオットや護衛の構成員さんに守られ、後方に
退き、ひたすら身を縮めて震えていた。

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