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■ダラダラしてる話

※R12ぐらい

客室の窓の外は、夕暮れだ。
――眠いです……。
ひたすらに眠い。私は一糸まとわぬ姿のまま、ベッドの中でまどろむ。
私たちはあれからずっと、塔の客室にそのまま泊まっている。
……いえ占拠という方が近い。だって会合終わってるし、許可もいただいてないし。
客用の軽食、保存食が室内にあったのも災いした。
エリオットはブラッドたちとも合流せず、私をかまい続けていらっしゃる。
何でも、彼が荒れて『仕事をしすぎた』ことにより、マフィアも今、ヒマだそうな。
で、ブラッドは報奨として、私をあてがって臨時休暇を与えたとか。
エリオットはたいそう喜んでそれを受けたらしい。

この客室を占拠していた短くない時間帯に、どれだけ襲われたか……。
彼の××に関しては、最初に関係を持った頃が一番すごいと思ってた。
けど今は、あのときに匹敵する×××さだ。
服?もう原形をとどめてませんがな。
なのに、エリオットのスーツには染み一つないって、どういうこと。
おかげで、こっちは何も着てなくて、エリオットはスーツ完全装備という、何だか
マニアックなプレイになったことも。まあ、あれはあれでお互いに……。
……コホン、閑話休題。

…………
どのくらい惰眠を貪ったか。
迷惑そうな声が聞こえる。
「……塔の客室は連れ込み宿ではない。会合も終わったんだ。早く帰ってくれ」
「っ!!」
聞き覚えのあるグレイの声に、私は一気に目が覚めた。

「悪い悪い、トカゲ!いやあ、ナノがせがむから、つい、な」
「…………」
対するエリオットの声は非常に上機嫌だ。
そして、無言ながらこちらに伝わる空気は険悪になっていく。
「帰ろうって言ったんだけど、もう一回××××なきゃ、イヤだってダダこねてさ。
俺から逃げたくせに本当、しょうがねえ奴だよなあ」
――嘘つけ……。
逆だ。私が帰ろうと繰り返すたび、エリオットに押し倒されて封じられた。
真実をグレイに伝えたくて仕方ない。けど、どう考えても悪質なノロケでしかない
ので、かろうじて抑えた。
私に対し、上向いてきたグレイの感情は再び地に落ちることであろう。
――いえもう、落ちてますよね。このピリピリ伝わる空気といい……。
空気中で放電して火花でも散りそうだ。
けど大人なグレイは、何とか自分を抑えてくれたのか、怒りに震える声で、
「……注文された食事とナノの服だ。早く出て行け。
マフィアに居座られては、塔の規範が乱れる!」
あ、そういえば客室の食料がなくなったんだっけか。いい加減出て行く頃合いだ。
で、グレイの声は険しい。それはもう、噴火口求めて這い上がるマグマを感じる。
――うう、本当に私って奴は……。
ベッドの中でお馬鹿な頭を抱えるしかない。
恩人にろくに礼もせず、帽子屋屋敷に連れ戻される。適当にコトを丸めたものの、
マフィアと縁を絶ちきる選択肢は本当になかったか、改めて考えたくなってきた。
そしてエリオットが気安くグレイの肩を叩く音。
「分かった分かった。そう怒るなよ、トカゲ。
そんなに独り身が寂しいなら、彼女を紹介してやっても……」
某騎士並みに上機嫌だったエリオットの声は……ナイフの音と銃声に消えた。

…………

「全く、トカゲの奴、何であんなに怒りっぽいんだ?やっぱりひがみか?」
朝食を乗せたトレイを持って、こちらにやってくるウサギさん。
すごいですね、本人も朝食も無傷だ。あ、珈琲とBLTサンド美味しそう♪
「いえ他領土の人間に客室を占拠され、そこで延々と×××ざんまい。
しかもフロント代わりに服や食事まで頼まれたら、普通は怒ると思いますよ」
ベッドから顔をのぞかせ、ツッコミを入れるけど、
「ナノ!起きたか。悪いな。激しくするつもりはなかったんだ。
でも、おまえにあんな格好で誘われちゃ、なあ」
ウサギは聞いちゃいねえ。落とすのではないかと思う速さでこちらに走り、サイド
テーブルにトレイを置くと、私の横にもぐり込んだ。
あんな格好って何ぞ。誘った私が悪いですか。
ていうかエリオットは髪がやや乱れ、シャツは前が開いて胸板が見えている。
塔の補佐官に、こんな格好で応対したんですか、あんた。

まあ、それはそれとして、朝食のBLTサンドはなかなか美味しそうで。
「ちょ……っ」
サイドテーブルに手を伸ばそうとしたら、その手をつかまれ、抱き寄せられた。
「ぐっすり休んで、元気になったか?」
「え、ええ。まあ……」
私をいたわる親切そのものの言葉……なワケがない。
裸の背を撫でられ、後ろをくすぐられ、ヒッと妙な声が漏れてしまう。
するとエリオットが苦笑する声が聞こえ、胸に抱き寄せられる。耳元で低く、
「な、帰る前に……いいだろ?」
……本当にこれで終わるんでしょうね。それに帰った後の展開も予想がつきすぎる。
ああもう、密着してるせいで、エリオットの『その気』が嫌でも伝わるし。
あきらめて彼の胸に頭を預けると、時計の音が聞こえる。私はふと、
「規則正しい音ですよね、どんなときも……」
「ああ。そういえば、おまえ、余所者だったんだよな」
今、気がついた、というように言われる。
「そうか。最初の頃、それでよく俺を避けて……」
「…………」
エリオットが無表情になる。嫌なことを思い出した、という顔だ。
私も悪夢の思い出が頭をかすめ、慌てて話題を変える。
「私の音も聞いてみます?」
彼の手を取り、胸元のあたりの素肌に押し当てた。
「…………」
手を通じて、逆に私にも心臓の鼓動が流れてくる。
エリオットは目を閉じて、その音に集中しているようだった。
そして目を開け、穏やかな瞳で、私に微笑む。

「……ありがとな」

「ん……」
そのまま互いに顔を近づけ、唇を重ねる。
そしてエリオットは手を胸の方にずらし、愛撫を始める。
「……んんっ……」
じわりと、奥深くが熱くなる。窓の外はまだ日の見える夕暮れ。
「終わったら、帽子屋屋敷に帰るぞ」
「はいはい。終わったら、ですね」
そして私は、ため息まじりにベッドに押し倒されたのだった。

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