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■涙の再会、あふれる思い、通じる心

会合の開かれている会議室にたどりついたとき。
その扉の向こうからは、銃声や怒声、悲鳴。ありとあらゆる喧噪が聞こえてきた。

『塔がナノを帰せばすむんだよっ!さっさとナノを出せ!!』
どこかで聞いたようなウサギさんの咆吼。それと銃声。

『本人は塔で働くことを望んでいる。何でも力ずくで思い通りになると思うな!』
と、これまたどこかで聞いたようなトカゲさんの怒声。それとナイフの高音。

『塔や帽子屋屋敷など、雑菌だらけのところにアレを保管しておけますか!
アレは、僕が厳重に衛生管理します!!』
と……何かの衛生問題について、熱く語ってる白ウサギさん。やっぱり銃声。

『ちょっとちょっと、本当に止めてよ!ていうか、ナノが余所者だったとか、
他にも話すことがあるんじゃ……ああもう、騎士さんはいつ戻るんだよ!!』
と、聞き覚えのある猫さんの叫び声。こちらも銃声。

『迷子騎士に、ボスたちを呼びに行かせる方が間違ってるだろ?』
『でもこっちの方が分かりやすいよ。ナノは元々うちのだしね』
と、何か聞いたことのある大人な双子の声。こっちは斧の高音。

『ちゅう……というか、騎士の席にあったこの袋、何?
紅茶でも珈琲でもないし、何か変な匂いがするよ?食べられるのかな』
と、記憶に新しいネズミさんの声。これは銃声も鉄の音も何もしない。

マズイ。私の玉露が食われる……っ!!

瞬間、私は音を立てて大きく扉を開いていた。


「待って下さいーっ!!」


そして全ての武器の音が止まった。

「……ナノっ!!」

ウサギさんの声がした気がしたけど、それどころじゃない私は室内に目を走らせる。
玉露、玉露はどこ!?ピアスは!?
……いた。ピアスだ。机の下に隠れている。
うう、でかい影がその前あたりの位置に立っていて、よく見えないよう。
「ちゅう?どうしたの?急に静かになったけど」
あ。ピアスがちょっと顔をのぞかせた。同時に、彼が懐に抱えた玉露が見えた。

玉露。ああ、玉露!高級そうな和紙の袋に包まれている。
まるで長いこと引き離された恋人に出会ったようないとおしさがこみ上げてきた。
私はそっと目元をぬぐい、うつむきながら、玉露の方を見る。
というか、私と玉露の間に立ちはだかる、あのでかい影、邪魔だなあ。

「良かった……やっと会えた……。ずっと会いたかった……本当に」

「……え?」
ギョッとしたような、どこかで聞いた声。途端にざわつく室内。

「『ずっと会いたかった』?
ナノ。君は、奴を嫌っていたのではなかったのか?」
トカゲさん……あ、思い出した。グレイが驚いたように言う。
玉露を嫌うなんて天地がひっくり返ってもありえない。
私はあふれる涙をぬぐいながら、
「嫌うなんて。そんなことは決してありません。愛しています。心の底から……」
さらにザワザワする室内。
「一時は離れてしまったけど、離れて初めて大切さが分かりました」
愛する玉露の大切さが。
私は顔を上げ、涙に揺れる視界で玉露のある方を見る。
ピアスのいるあたりに何か長身の影があり、ちゃんと方向が分からない。
でも玉露はあそこらへんだろうと、長身の影の方、マイ玉露に情熱をこめて語る。

「あなたを愛しています」

「ナノ……」
玉露?玉露が話しかけてくれた!?

「離れてごめんなさい。やっぱり私はあなたが大切です。
忘れるなんて出来ない。あなたから離れようなんて愚かな選択でした」
玉露好き。やっぱり嗜好飲料っていいよね!
「そ、そうなのか?俺のことをそんなに思って……」
やはり玉露が話しかけてくる。戸惑ったような声で。
それはそうだ。私の心の友だもの。
私の玉露への愛を思えば、玉露が話しかけてきて、何ら不思議ではない!

でも一転、玉露からは冷たい声がする。

「ナノ。だが俺は、何度も嘘をついたおまえを信じるほど、おめでたかねえ。
俺はおまえに会ったら×××して、×××して、二度と出さないつもりだった。
今さら手の平返して媚びを売りに来たところで、俺が簡単に許すと思うな!!」
しかし、ずいぶんと過激な単語を口走る玉露だ。
あまりに××すぎて会議室もシーンと静まりかえったくらいだった。

とはいえ玉露の言葉は耳に痛い。
でも、玉露もそれくらい私と離れたことがダメージだったのか。
なら全てを受け入れる覚悟がある。

「他ならないあなたのすることなら、受け入れます。
悪いことをしたのは私ですから。私はこれからもずっと、あなたの物です」

もう一生、カフェイン中毒でいいじゃない!依存性も少ないんだし!

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